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Vol.24019 坪倉先生の放射線教室(2)

医療ガバナンス学会 (2024年1月29日 09:00)


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この原稿は福島民友新聞『坪倉先生の放射線教室』からの転載です。
https://www.minyu-net.com/

福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授
坪倉正治
2024年1月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

東日本大震災後、2011年4月より福島県浜通りにて被災地支援。
現在、福島県立医科大学放射線健康管理学講座主任教授を務める坪倉正治先生が放射線や処理水について正しく、分かりやすく解説します。
●基準値確認して海に放出(2023年03月04日配信)

全ての物質は目に見えない小さな「陽子・中性子・電子」の粒がそれぞれ何個かずつ集まってできています。セシウム134や137など、物質の後ろに付いている数字は、陽子と中性子の粒の個数の合計でした。ここまで紹介してきたトリチウムは、陽子一つと中性子二つ、電子一つでできています。陽子と中性子の合計が三つなので、トリ(3の意味)でした。

その一方、原発で燃料として使われているのはウラン235です。ウラン235に中性子の粒をぶつけると、その235個が分裂して熱が生じます。この分裂が起こる時に新しい中性子の粒が生まれるため、それが次のウランにぶつかってまた分裂と熱を生じます。原発ではこの「核分裂」のエネルギーを用いて水を沸騰させ、タービンを回して電気をつくっています。

この反応を起こしている途中にトリチウムは作られます。例えば、ウラン235が分裂する時に二つに分裂せず、三つに分裂し、その分裂した一つがトリチウムである場合があります。制御棒と中性子がぶつかって反応し、トリチウムが作られる場合もあります。放射性物質でない水素の仲間と中性子が反応してできることもあります。

このように、原子炉の中では電気をつくる際のさまざまな過程でトリチウムができていました。そして、原子力施設でできたトリチウムは基準値を確認し、主に海へ放出されていました。

 

●原子炉の形で違う発生量(2023年03月11日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲の敷地内タンクには、放射性の水素である「トリチウム」が保管されています。トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間です。トリチウムは、核実験や原子力施設で作られる人工の放射性物質である一方、自然界で作られる天然の放射性物質でもあります。

原発では燃料にウラン235を使います。このウランが「核分裂」するときのエネルギーを用いて、水を沸騰させ、タービンを回して電気をつくっています。原子炉の中ではこの電気をつくる反応を起こしている途中に、さまざまな過程でトリチウムができるのでした。そして、原発でできたトリチウムは基準値を確認し、主に海へ放出されていました。

その一方、原発の原子炉の形は、専門用語でPWRとかBWRとか言って、世界中でいくつかの種類があります。原子炉の形によって、電気をつくる反応の起こし方が異なります。そのためトリチウムの発生量が異なり、放出されるトリチウムの量が原子炉の形によって、数十倍から数百倍異なることが知られています。

今回の原発事故前のデータですが、福島第1原発から放出していた量の10倍以上のトリチウムを海洋放出していた国内の原発もあれば、日本の全ての原子力施設からの放出量の合計を超えるトリチウムを放出していた北米の原発もあることが知られています。

 

●放出量が多い再処理施設(2023年03月18日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲の敷地内タンクには、放射性の水素である「トリチウム」が保管されています。トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間です。原発の原子炉の中では、電気をつくる反応を起こしている途中に、さまざまな過程でトリチウムができるのでした。

原子炉の形は世界中でいくつかの種類があり、原子炉の形によって、電気をつくる反応の起こし方が異なります。そのためトリチウムの発生量が異なり、放出されるトリチウムの量が原子炉の形によって、数十倍から数百倍異なることが知られています。

日本では、PWRとBWRという2種類の原子炉が主に使われていますが、福島第1原発はトリチウムの放出量の少ない方の原子炉(BWR)が用いられていました。

その一方、原発よりトリチウムの放出量が多いのが、使用済み核燃料再処理施設です。世界中で有名なものには、フランスのラ・アーグ再処理施設や、イギリスのセラフィールド再処理施設があります。

フランスの再処理施設では、毎年、事故前の福島第1原発から毎年放出されていたトリチウムの、合計で数千倍のトリチウムが液体や気体の形で放出されていたことが知られています。

 

●トリチウム、雨水の中にも(2023年03月25日配信)

廃炉作業が進められている原発周囲の敷地内タンクには、放射性の水素である「トリチウム」が保管されています。トリチウムは最も軽い元素である水素の仲間です。原発でできたトリチウムは、海水に排出されるわけですが、福島第1原発近くの海域と日本海側や九州周辺の海域と比較しても海水中のトリチウム濃度に変わりはありません。

その一方で、トリチウムは自然界に存在する放射性物質でもありました。宇宙から飛んでくる放射線の一種である宇宙線が、大気中の窒素や酸素と反応して作られるのでした。そのため、トリチウムは雨水にも含まれます。そして、緯度が高くなるほど、つまり北側になればなるほど、雨水に含まれるトリチウムの量は増える傾向にありました。

このように原発から排出されるトリチウムと雨水のトリチウムを比べると、海水中に放出されるトリチウムに注目が行きやすくはなります。しかし、実際にこれまでの計測結果を見ると、日本周辺の海域のトリチウム濃度と雨水のトリチウム濃度を比べると、場所にもよりますが、雨水の方がおおよそ10倍ほどトリチウム濃度は高いです。

だからといって、トリチウムから出る放射線は非常に弱く、雨水のトリチウムによる健康影響を考える必要は全くありません。

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