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Vol.24020 迷走する名大病院-どうなる、医療研究の未来-

医療ガバナンス学会 (2024年1月30日 09:00)


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北海道大学医学部
金田侑大

2024年1月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

名進研→東海中・高→名古屋大学医学部

私には縁のなかった、地元名古屋の“黄金リレー”です。実際、名大医学部の定員107名のうち、東海高校出身者はここ3年間30→37→33名と約3割で推移し、岡崎や旭丘といった地元最難関公立高校に5倍以上の差をつけ、圧倒的な実績を誇ります。山Pでなくとも、「地元じゃ負け知らず」と言いたくなるところでしょう。

名大は1939年に設立された、最も新しい旧七帝国大学であり、入学者の70%を東海地方(愛知、岐阜、三重、静岡)出身者が占め、地元では誰もが憧れる大学です。入学試験のハードルも高く、私が1浪の際には、センター試験で818点(/900点)と9割を超える得点率だったものの、後期試験では足切りをくらうほどでした。その高い研究実績は、21世紀の日本人ノーベル賞受賞者6人を擁することからも明らかです。

この名大病院が、現在、医療界に議論を巻き起こしています。2023年11月19日、名大病院は医師の教育や研究活動を、定時業務外の自己研鑽として分類し、2024年4月からこれらの活動に対する報酬を支給しない方針を発表しました。この発表は名大の研究実績に影響を及ぼす可能性もあり、今年から始まる医師の働き方改革の根本を揺らがすものです。実際、厚生労働省は今年1月15日、この発表に呼応するような形で、大学病院などの勤務医については、本来業務に教育・研究が含まれるため、これらと直接関連する研鑽は労働時間に含まれると明示した課長通知を発表しました。

しかし、他の多くの大学病院の経営陣も、定時外の医師の教育・研究活動に関して、名大の立場を(暗黙ながら)広く支持しているのが、今の日本の現状と言わざるを得ないでしょう。というのも、この背景には、多くの大学病院が公的資金に頼らない限り、経営困難に直面しているという現状があるからです。

事実、旧七帝国大学の医学部、及び付属病院の財務状況を見てみると、7校中4校(北海道、東北、大阪、九州)は業務損益が黒字ですが、交付金・補助金・寄付金がなかった場合の損益は、全校で赤字となる状況です。特に、名大医学部は運営赤字が8億9000万円ですが、外部支援なしではこれが48億円に膨らみます。コロナ補助金が無くなれば、財政状況はより難しいものになるでしょう。

この主な要因の一つは、病院の医師一人当たりの収益が低いことにあります。2021年には、1,249人の医師に対し全体で388億円の収益でした。したがって、医師一人当たりでは平均3,183万円となりますが、これは旧七帝国大学の要する病院の中で最も低く、北海道大学病院の医師一人当たり6,330万円という数値の約半分です。名大病院が今回発表した方針は、労働時間の削減を目指す働き方改革の意向に沿う意図を持ちながら、実際には、財政的制約のために医師に無給労働を強いる形になっていると言わざるをえません。

医師の低賃金・無給労働は、最終的には国民の健康を害する可能性があります。例えばイギリスでは、インフレに給与が追いつかず、2009年から2022年にかけて若手医師の購買力は26%減少したことが報告されており、英国医師会が政府に対処を求めるという状況に至っています。これは時に医師含む医療従事者のストライキといった形で現れ、医療の基盤を揺らがしてしまっているのが現状です。医師や病院の経済的自立は、国民の健康を守るためにも重要なのです。

特に、日本の縦割り医療の中で、財政や公的資金の限界を考えると、大学病院が経済的自立を達成することが重要と言えるでしょう。細分化された高度な医療が求められる大学病院ではなおさら、社会的ニーズと財政的実現可能性を考慮した「選択と集中」のアプローチが求められます。さらに、国からの補助金以外の資金源が多様化していることに注目することも重要です。利益相反を適切にコントロールしながら、このような資金をうまく運用することは、顕著な研究成果を生み出す可能性を秘めています。

事実、名大は産業界との連携の強い伝統を持っており、2014年にノーベル物理学賞を受賞した故赤崎勇教授と天野浩教授の青色発光ダイオードの開発は、トヨタ自動車の子会社との協力により実現したものです。名大とトヨタ自動車の長いパートナーシップを考えると、電気自動車や気候変動といった分野、さらには医療分野においても、協力を広げられる大きな可能性があるでしょう。

松尾清一元名大総長も、名大からノーベル賞が多く出る理由として、「古いしがらみにとらわれず、教員同士、教員と学生の関係がとてもフラット。ベテラン教員のもとで、若い人たちが自由にのびのび研究に打ち込み、議論する文化が生まれ、それを今日まで脈々と受け継いでいるからでしょう」というコメントを残しています。国立大学病院は産婦・小児科等、総合病院として利益を上げにくい診療科を担っているのも事実ですが、病院の持続を本気で考えるのであれば、国からの支援に依存しない自立の形を模索することが求められます。この議論に正面から向き合うことが最終的に、医療の質の向上、つまりは患者の満足につながるのです。

【金田侑大 略歴】
東海高校卒→→→北海道大学医学部5年。「→」1つで浪人1年分を表しています。汗と涙のこもった矢印です。僕自身は大阪→名古屋→東京→北海道という台風ルートの経歴で、東海高校には編入で入れていただきました。そして、東京の人にとっての“めいだい”は「明治大学」のことってほんとですか?!

 

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