医療ガバナンス学会 (2024年2月14日 09:00)
この原稿はCIGS Highlight Vol.129からの転載です。
https://cigs.canon/publication/prmagazine/index.html#b-7874
キャノングローバル戦略研究所
理事・特別顧問
林 良造
2024年2月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
一方同じような若手の医師をめぐってやりきれない話が報ぜられた。関西の病院の若い研修医の自殺を検証した第三者委員会の報告書が活かさていないという報道である。
自殺前の異常な残業時間、それを隠すような残業記録、論文に対する十分とは思えない指導状況などが報じられている。
特に報告書を受け取った病院はそれを公表もせず、院長は告発されているから書類送検されるのは当然でしょうとの反応であったという。
分散した中規模以下の病院では多くの場合専門化が進まず医療の質が向上せず、現場での教育の質も上がらないという点は、津田塾大の伊藤教授が早くから警鐘を鳴らされている。
適切に集約が進めば専門化した体制が整い、現場の無駄な負担を軽減できることは広く認識されており、日本独特の上下関係の中で不合理な負担を現場の若手の医師に押し付け疲弊させていることを指摘する声は多かった。
中小規模病院の温存に導く制度は、適切な集約インセンティブを欠き、医療費の増大をもたらし新型コロナの非常事態で稼働しない多数の病院・病床を生み出したことも明らかになった。
さらに中小総合病院の乱立状態は日本の治験コストを上げ新規開発を困難にし、医療情報の共有につながるPopulation Healthの普及を阻害している点については、武蔵野大学国際総合研究所の松山研究主幹が以前から声を上げている。
この問題のやりきれないのは、個々の病院は近隣の患者への重要な医療サービスの提供を担っており、そして現場では多くの人が与えられた環境で使命感を持って一生懸命やっていることである。
ダイハツの不正事件では第三者委員会は現場の問題ではなく経営陣の問題だと喝破したが、過剰な中小総合病院は制度の設計運営の問題であるにもかかわらず現場にその状況を押し付けており、現場ではそれが当たり前の風景になってしまっていることに根深さがうかがわれる
。
福島県立大野病院事件では警察の医療過誤をめぐる理不尽な運用に対して日本中の産婦人科医師が立ち上がり新しい流れを作った。がんの治療薬の認可の遅さに対しては、がん患者自らが日本の制度設計と運用のせいで死ななければならないと声を上げ大きな動きにつながっていった。
今回の問題は、既存関係者の合意を軸とする診療報酬決定のメカニズムが過剰な中小総合病院を温存するような報酬体系を生み出し続けていることである。
これは単に医療費の無駄という数字の問題ではなく、若い医師の失わないで済む命を失わせることとなった。若人が心置きなく夢を追求できる社会であってほしい。