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Vol.24043 日本のエンタメ ~宝塚歌劇・劇団員自死のその後~

医療ガバナンス学会 (2024年3月6日 09:00)


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医療ガバナンス研究所
小林秀美

2024年3月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

宝塚歌劇団宙組の団員Aさん(25歳)が自死して5か月が経ちました。
その間、一定期間の休演はあったものの、現在では問題の宙組以外は、ほぼ順調に公演が行われています
しかしながら、今なお宝塚歌劇団(以下、歌劇団)と遺族側との話し合いは続いており、解決のめどはたっていません。遺族はパワハラを認め、関係者からの謝罪を求めています。

全てがゴテゴテ。関西ではそれなりのブランドである阪急(傘下の宝塚歌劇団)とは、こんなにポンコツの集まりだったのだ、と愕然としています。
いつも先行するのは週刊誌。真実か否か読者は振り回されます。歌劇団は一つ一つの記事に関して、関係者に確認を取り、場合によっては訴訟も辞さない覚悟で臨むべきでした。
しかしながら初動捜査を誤りました。

現在、争点になっているのは、Aさんの自死の原因。長時間労働による過労死と上級生からのパワハラ。

この件に関して、歌劇団側は大阪の大江橋法律事務所に調査を依頼しました。
大江橋法律事務所から9人弁護士があたり、団員をはじめ役員・職員、遺族や代理人にヒアリングが行われました。

また遺族側は川人博弁護士が代理人となりました。
この川人博氏は、(大阪三国丘高校から東京大学経済学部卒)過労死した電通社員の高橋まつりさん、また同じく過労死した甲南医療センター専攻医の高島 晨伍さんの代理人でもあり、遺族の本気度がうかがえました。

●長時間労働と過労死の関連
劇団員は入団から5年目までは1年ごとに「演技者専属契約」(雇用契約)を締結する一方、入団6年目以降は基本的に1年ごとの「出演契約」(業務委託契約)を締結。前者は労働者、後者はタレント(個人事業主)として扱われています。Aさんは7年目だったため歌劇団側として労働時間管理は行われていなかったようです。

しかしながら、Aさんは公式の稽古、自主稽古、新人公演※の稽古、それ以外にもアクセサリーやかつらの準備などがあり多忙を極めていました。

※新人公演:入団7年目以下の下級生だけで行う公演。(現在は東京公演期間中に1回のみ)Aさんはそのグループの長の期の長(最上級生)にあたりまとめ役でした。普通は同期みんなで分け合って行う作業ももう一人の同期娘役と二人で行いました。(他の同期は退団、休演)そのためかなりの負担だったようです。

2023年9月の宙組公演は新TOPコンビお披露目の公演。
この時TOPとなったのは入団16年目のSさん。二番手期間が7年と長く待ちに待った晴れ舞台でした。大切なお披露目であり、まわりもピリピリ。またコロナで一旦据え置いた慣習の復活もあったようで、劇団を退出する時間はかなり遅く、そんな中でもAさんへの上級生からの叱責は続き、身体的、精神的にもかなりまいっていたようです。

歌劇団としては自死の原因は長時間労働だけに焦点を絞り、パワハラについては一切なかったことにして舵を切りました。

今回の件で、
11月には西宮労働基準監督署が労働基準法に基づき立ち入り調査をしました。その結果、歌劇団は下記の項目に関して見直しを図りました。
① 過密な稽古スケジュールの改善を図るために、稽古日数ならびに舞台稽古日数の増加などを実施します。そのため一部公演の初日を変更します。
② 本公演(宝塚大劇場公演・東京宝塚劇場公演)の1週間あたりの公演回数を、「週10回」から「週9回」に変更します。
③ 新人公演の在り方の見直しを図るため、2024年1月~3月の間の新人公演は、東京宝塚劇場のみの上演といたします。(以降につきましてはあらためてお知らせします)

また、110周年の記念行事、「宝塚歌劇110周年記念式典」、「タカラヅカスペシャル2024」「宝塚歌劇110周年記念大運動会」は」公演スケジュール、稽古スケジュールの過密回避の観点から、中止となりました。
●パワハラについて
現在も合意に達していない上級生からのパワハラですが、パワハラの定義は以下の6類型に分類されます。
(1)身体的な攻撃(暴行・傷害)
(2)精神的な攻撃(脅迫・名誉棄損・侮辱・ひどい暴言)
(3)人間関係からの切り離し(隔離・仲間外し・無視)
(4)過大な要求
(5)過小な要求
(6)個の侵害(私的なことに過度に立ち入ること)
※厚生労働省のパワハラ6類型について
https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11900000-Koyoukintoujidoukateikyoku/0000189292.pdf

パワハラというと身体的や精神的な攻撃を思い浮かびますが、Aさんの場合は第4類型も当てはまります。
大江橋法律事務所の報告書には、上級生からの指導という文言はごまんとでてきますが、パワハラは認められず、との結論でした。
家族からの証言やLINE、宙組の団員の訴えもありましたが、すべて採用されず最初に結論ありきのお粗末なものでした。
またこの報告書が出来上がったタイミングで歌劇団の記者会見(11月14日)が行われました。

同日、遺族側も記者会見を行いましたが、さすがにこの報告書に関しては、真っ向から否定。後日の記者会見(12月27日)では少なくとも15のパワハラがあったことを川人弁護士が明らかにしました。

15のパワハラ
http://expres.umin.jp/mric/mric_24043-1.pdf

大江橋法律事務所報告書
http://expres.umin.jp/mric/mric_24043-2.pdf
その後、歌劇団はHPから報告書を削除いたしました。

今年に入って歌劇団から一部パワハラは認める、という趣旨の一報が入りましたが、2月27日の川人弁護士の会見によると、15のうち半分は認められず、まだまだ話し合いは続くようです。

本来ならば次回宙組公演(宝塚大劇場2024年5月17日初日)のお稽古の予定がそろそろ組まれるところですが、次回作『FINAL FANTASY XVI(ファイナルファンタジー16)』の原作元株式会社スクウェア・エニックスから2月中に遺族との合意が得られない場合は上演を取りやめるとの通達がありました。
そしてつい先ほど劇団HP(3月5日付)にて上演の見合わせが発表されました。

なぜ、パワハラに関しての謝罪をかたくなに拒んでいるのか。川人弁護士の見解です。
① 歌劇団側が当初よりずっと生徒を庇い、イジメ・パワハラなど存在しないという状況を作った。
② 幹部の生徒の思考としてハラスメント概念が狭い。自分達もこの状態で耐えてきた。これはパワハラではなく指導である。何も悪いことはしていないから謝罪はしない。

しかしその結果、宙組生は舞台に立てず、組の中は分断されています。現在では宙組の存続も危うい状態です。

劇団員の給与は5年目(社員)で年収200万円くらい。その上は300万円~500万円くらい。トップスターになるとスポンサーもつき1000万円以上とも言われていますが、ベールに包まれています。
もちろんアルバイトは禁止。(時間もない)雑収入としては、ファンクラブ絡みの売り上げ(グッズ販売など)やお花代など(ピンからキリまで)。
もちろん仕送りなしでは家賃も払えません。
公演が止まったままの宙組生に給与は支払われているのでしょうか。

宝塚ファンの頭はお花畑脳と言われています。
SNSは無知と崇拝であふれ、あまりに幼稚でこの劇団にこのファンあり!
文春、遺族側弁護士は敵!挙句の果てには、Aさんの双子の妹Bさん(現雪組生)からの悲痛のメッセージさえもケチをつける有様です。
Bさんはあれ以来、休演し弁護士とともに推移を見守っています。
週刊誌報道がすべて良しとは思いませんが、宝塚歌劇の古い体質に風穴を空けたことは事実です。歌劇団も本気になってくれませんか。それとも人事異動で回されただけだから興味はないのですか。
●最後にその妹からのメッセージ

私は遺族として、大切な姉のため、今、宝塚歌劇団に在団している者として想(おも)いを述べます。
いくら指導という言葉に置き換えようとしても、置き換えられない行為。それがパワハラです。
劇団員は宝塚歌劇団が作成した【パワーハラスメントは一切行わない】という誓約書にサインしています。
それにもかかわらず、宝塚歌劇団は、日常的にパワハラをしている人が当たり前にいる世界です。
その世界に今まで在籍してきた私から見ても、姉が受けたパワハラの内容は、そんなレベルとは比べものにならない悪質で強烈に酷い行為です。
厚生労働省のパワハラの定義を見れば、姉が受けた行為は、パワハラ以外の何ものでもありません。
宝塚は治外法権の場所ではありません。宝塚だから許される事など一つもないのです。
劇団は今に至ってもなお、パワハラをおこなった者の言い分のみを聞き、第三者の証言を無視しているのは納得がいきません。
劇団は、生徒を守ることを大義名分のようにして、パワハラを行った者を擁護していますが、それならば、目撃したパワハラを証言してくれた方々も、姉も同じ生徒ではないのですか。
そもそも【生徒】という言葉で曖昧にしていますが、パワハラを行った者は、れっきとした社会人であり、宝塚歌劇団は一つの企業です。
企業として、公平な立場で事実に向き合うべきです。
スケジュール改革や、各種改善策に取り組んでいるような発表をしていますが、姉の死を軽視し、問題を曖昧化しているとしか思えません。
これ以上姉と私たち遺族を苦しめないでください。
姉は体調を崩している訳でも、入院している訳でもありません。
二度と帰ってきません。
姉の命の重さを何だと思っているのでしょうか。
劇団は、「誠意を持って」「真摯(しんし)に」という言葉を繰り返して、世間にアピールしていますが、実際には、現在も遺族に誠意を持って対応しているとは思えません。
これ以上無駄に時間を引き伸ばさないでください。
大切な姉の命に向き合ってください。

 

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