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臨時vol 25 「分娩をやめた産科医は婦人科専従医になったか?」

医療ガバナンス学会 (2006年9月5日 01:38)


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2006年9月5日発行
北海道大学大学院医学研究科
社会医学専攻
社会医療管理学講座
医療システム学分野
http://www.med.hokudai.ac.jp/~i_sys-w/
助手・医師 中 村  利 仁

中途半端な結論で全く申し訳ないが、病院を辞めた産科医がどこに行ったか、わかる範囲では、婦人科専従となったのはせいぜいおよそ半分に過ぎない。では残りはどこに行ったのか、個票データでも分析しない限り、決して分からないだろうということは言える。

以下で見るように、30歳代~40歳代前半の働き盛りで分娩医療から逃散した男性産科医の大半は、おそらく婦人科以外の他の診療科に転科したのである。

彼等は、他の診療科の医師としてキャリアを積み始め、既にそれなりの居場所を得ている。これら転科した医師達が、あらためて分娩医療に戻ってくることはあまり期待できない。事態は深刻である。

以下、使用したデータは前回と同じ「医師・歯科医師・薬剤師調査」である。

総数で見ると平成10年から同16年の間に全国の婦人科専従医師総数は1188人から1582人へと374人増えている。33%増である。男女別内訳では、男性で219人、女性で155人となる。

さらに詳しく見てみよう。

グラフ5
病院婦人科専従医師数の性別年齢階層別の推移
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r25_5.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r25_5.jpg</a>

病院婦人科専従医師数は、同じく平成10年から同16年の間に、男性で362人から470人へと108人、女性で69人から138人への69人の、合わせて177人増えている。年齢別に見ても、特段に急増した年齢層というのは見られず、おおむね同様に増えているように見受けられる。

グラフ6
診療所婦人科専従医師数の性別年齢階層別の推移
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r25_6.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r25_6.jpg</a>
診療所婦人科専従医師数は、同じく平成10年から平成16年の間に、男性で589人から700人へと111人、女性で168人から254人へと86人、合わせて197人増えている。やはり年齢階級によって特段の増加は見られない。

もちろん、増えた婦人科専従医がすべて産科医であったという保証はない。けれども、大半は産科医であったと考えるのが順当であろう。

前回の記事を見ていただきたい。病院産科医の減少は総数で579人であり、その中心は30歳代~40歳代前半の男性で619人であった。診療所産科医の減少は総数で96人であり、その中心は60歳以上の男性で323人であった。

60歳以上男性の診療所産科医の減少を、病院を辞めた若年層が補充した分を227人と考えることもできる。しかし、グラフ上でも明らかなように、実際には50歳代前半までの中堅層の男性診療所産科医はほとんど増えて居らず、横這いあるいはむしろ減少気味であり、診療所産科医補充の大半は、加齢に伴って年齢階級がシフトした75歳以上男性と、女性医師によるものである。従って、失われた619人の行き先は、少なくとも産科診療所ではない。

また、診療所と病院の婦人科専従医の増分は374人であり、しかもそのうち30歳代から40歳代後半までの男性の占める割合は微々たるものである。やはり、619人の行き先は、婦人科専従医ではないように見受けられる。

脂の乗り切った働き盛りの産科医が毎年100人ずつ辞めていくなどという状況は、尋常なことではない。

現状は、失血死に至る病態に似ている。若年医師の新規参入が少ないことも問題であるが、30歳代~40歳代前半の働き盛りの産科医の転科をこのままにしておけば、いくら若年医師の確保に熱心に動いたとしても、現場の負担は増えこそすれ、減ることはない。せっかく苦心して新規参入した産科医達も、10年あまり経つか立たないかの働き盛りで、どんどん転科していくことになる。

失血死を防ぐには、輸血で何とか心臓が動いている間に、きちんと止血する必要がある。若年医師の新規参入は重要であるが、それで現場が辛うじて持ち堪えている間に、中堅産科医の流出に歯止めをかける工夫が必要である。

残念ながら、国民一般の意識はなお一層の医療費抑制を求めており、警察・検察が分娩に関する医療事故捜査に臨む態度は故意犯の凶悪犯罪なみである。分娩医療を巡る近未来は絶望的であると言えよう。

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