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Vol.24066 緊急避妊薬の一部薬局における試験販売(前編)~日本の医療制度改革の構造的問題と薬局薬剤師の役割~

医療ガバナンス学会 (2024年4月11日 12:00)


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エバーハルト・カール大学テュービンゲン
研究員 秤谷隼世

2024年4月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2023年末、望まない妊娠を防ぐための緊急避妊薬を、処方箋なしに販売する市販調査が開始された。話題になったので報道を記憶の読者も多いだろう。販売開始から4ヶ月余りが経ったが、この試験販売開始は、当事者や医療者の長きにわたる草の根的な努力が実った結果である。
非常に限られた試験販売になったとはいえ、リプロダクティブヘルス(以下、SRHR)分野の後進国(?)日本にとっては大きな一歩とも言えるであろう。本稿では、試験販売開始に漕ぎ着けるまでの背景から垣間見られる日本の医療制度改革の構造についてや、今後この一歩を次へと繋げていくために何が必要かについて考える。

なお、今回の論考は英国医学雑誌BMJの姉妹紙である”BMJ Sexual & Reproductive Health”誌に論文として掲載された。

Hayase Hakariya et al.
Title: Japan initiates a groundbreaking market test of over-the-counter emergency contraceptive pills with pharmacies as a first access point
Hayase Hakariya et al. First published April 3, 2024.
https://doi.org/10.1136/bmjsrh-2024-202221

■試験販売の概要
厚生労働省は昨年2023年11月28日、緊急避妊薬の「レボノルゲストレル」(*処方箋が必要な医療用医薬品としては、日本で2011年に承認)またはそのジェネリック医薬品を全国にある145の指定薬局で市販できるようにする市場調査を開始した(1)。本薬は、妊娠の心配がある性交渉から72時間以内に服用することで避妊効果を得るもので、妊娠阻止率は約80%と報告されている。

この試験販売は2025年の3月まで予定されており、その期間の中で、医師の介入がなくても薬剤師が緊急避妊薬を適正に販売できるかどうかを検証することを目的としている。

これまで、日本で緊急避妊薬を入手するためには、医療機関を受診し、医師に処方箋を出してもらうしかなかった。処方箋がなくても薬局に行けば緊急避妊薬を入手できるという点で、我々国民にとって、今回の試験販売の枠組みは画期的であるといえる。

■試験販売を使って緊急避妊薬を服用できる人・できない人
一方、この市販試験の枠組みを利用して緊急避妊薬を入手できる人は極めて限定的であり、そのことが社会的な論争となっている。アクセスが制限されてしまう理由は大きく4つある。以下に述べる点は、一部国民の試験販売への参加を妨げる可能性がある。

一点目は、費用である。公式サイトでは、緊急避妊薬の販売価格は日本円で約7,000~9,000円の範囲と見積もられている。なお、医療機関を受診するわけではないため、健康保険は適用されない。緊急避妊薬を服用する必要がある対象者の多くが10-20代の若者であることを想定すると、この価格は決して安価とはいえない。

なお、すでに妊娠していることが疑われ、薬局で妊娠検査薬の使用がお奨めされた場合は、1,000~1,500円程度の妊娠検査薬の購入費用も追加で必要となる。

第二に、対象年齢が存在する。16歳未満は販売対象にならない。加えて、未成年者(16歳または17歳)が服用する場合には親の同意が必要となる。親の同意が必要な場合、虐待を受けていたり、ネグレクトされていたりしている人にとって、本薬へアクセスすることは難しくなるだろう。

ただし、本試験販売は調査研究を兼ねての実施という性質上、「人を対象とする生命科学・医学系研究に関する倫理指針」を遵守する必要がある。倫理指針に基づこうとすると年齢制限を設けることは避けられないということも留意すべきだろう。

第三に、取り扱い薬局が日本全国に145店舗しかない。したがって緊急避妊薬を服用したい人は、まず、日本薬剤師会による公式サイト(1)から取扱薬局を確認する必要がある(日本全国の薬局は6万店舗以上あり、そのうちの約0.24%が取扱薬局として指定されている)。極端な例だと、北海道には旭川市内に3店舗だけという設置状況である。稚内に住んでいる人の場合、車で250kmの道のり、公共交通機関で片道8900円の特急に揺られて4時間だ。

最後に、調査研究の参加者へのタスクが膨大な点である。訪問する薬局を自身で選んだ後、薬局に対して電話をし、訪問時間や在庫の有無などを事前相談しなければならない。薬局を訪問したら、今度は服用前に調査研究についての説明を受け、研究参加へ同意をし、購入を済ませ、薬剤師の前で薬を服用することとされている。さらに、服用直後と服用から3〜5週間後にはアンケート調査に回答しなければならない。避妊に失敗してから72時間以内の服用という制限のある中でこれだけのステップがあると心理的にハードルが高い。

なお、重ねてではあるが、これら四点のアクセス制限について、調査研究として試験販売が実施される性質上、科学的な観点からは合理的ではある(後編に続く)。

■参考文献
1 日本薬学会. 緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業. https://www.pharmacy-ec-trial.jp/
2 Sorano S, Emmi S, Smith C. Why is it so difficult to access emergency contraceptive pills in Japan? Lancet Reg Heal – West Pac 2021; 7: 100095.
3 Watts J. TOKYO When impotence leads contraception. Lancet 1999; 353: 819.
4 Goto A, Reich MR, Aitken I. Oral Contraceptives and Women’s Health in Japan. JAMA 1999; 282: 2173–2127
5 緊急避妊薬を薬局でプロジェクトhttps://kinkyuhinin.jp/ 

 

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