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Vol.24067 緊急避妊薬の一部薬局における試験販売(後編)~日本の医療制度改革の構造的問題と薬局薬剤師の役割~

医療ガバナンス学会 (2024年4月12日 12:00)


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エバーハルト・カール大学テュービンゲン
研究員 秤谷隼世

2024年4月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今回の論考は英国医学雑誌BMJの姉妹紙である”BMJ Sexual & Reproductive Health”誌に論文として掲載された。

Hayase Hakariya et al.
Title: Japan initiates a groundbreaking market test of over-the-counter emergency contraceptive pills with pharmacies as a first access point
Hayase Hakariya et al. First published April 3, 2024.
https://doi.org/10.1136/bmjsrh-2024-202221

■進まない、日本での性と生殖に関する権利の確保
それでは、世界での緊急避妊薬の販売状況はどうなのだろうか。現在、19カ国で一般用医薬品(OTC)による市販が行われており、76カ国で薬剤師による処方箋なしでの直接入手が認められている(2)。今回の我が国におけるこの試験販売は、こちらの枠組みを試験的に行なっている状態であり、ようやく世界標準へ追いつこうかというところだ。

このように、日本で性と生殖に関する権利の確保が遅れてきたことには歴史的な背景がある。例えば、低用量経口避妊薬(いわゆる低用量ピル)は、出生率の低下・性道徳の悪化といった根拠のない潜在的な懸念が当局から示され続けた結果、35年にもわたる議論の末、ようやく1999年に承認されるに至ったなどといった背景などがある(3,4)。

このような背景もあってか、今回の緊急避妊薬の試験販売についても、最初のスイッチOTC化(市販化)にかかる検討会議で市販化が否定されてから6年もの間議論が続けられてようやく実ったものである。

この間、「緊急避妊薬を薬局でプロジェクト」を始め、多くの市民団体・医療関係者による草の根的な活動が繰り広げられ、今日までに17万以上の署名が集まっている(5)。こうした団体は状況改善に向けた政策提言や要請を繰り返すことで、最終的に今回の試験販売が開始されたのである。

■試される薬局薬剤師の役割:小さな一歩を、大きな未来へ
ゆっくりとはいえ、日本政府は、この枠組みを通じて(緊急避妊薬へアクセスできる人が大きく制限されているものの、)SRHRを確保するための第一歩を踏み出したと言えよう。

薬局薬剤師はこの試験販売の機会を手にとって、自らの職能を発揮するチャンスと捉えるべきだと考える。本試験販売で地域の薬局は、市民のセクシュアルリテラシーを高めるためにも機能することが期待されているのではないだろうか。試験販売の利用者にとって薬局薬剤師は、望まない妊娠に関する不安を抱えた国民と直接コミュニケーションできる最初の医療者となる。性に関する実りある対話の機会を設けることで、社会的弱者が適切な医療アクセスを受けられるようサポートしていくことも、薬局として可能な打ち手であろう。

現在の試験販売では145店舗しか取り扱い薬局が指定されていないが、本格展開すれば全国6万店舗以上の薬局が個人のファーストアクセスとしての役割を果たせる可能性がある。今回の枠組みが実現されたことをポジティブに捉えるならば、医療という枠組みの外での草の根的な活動が功を奏したといえる。

これにより、薬局が個人のファーストアクセスとしての機能を果たすことができれば、最終的には望まない妊娠のない社会の実現へ向けての一歩を踏み出すことができよう。今後の薬局薬剤師の活躍に期待してこの試験販売の動向を見守りたい。

■あとがき
昨年11月28日の厚生労働省からのリリースを読んですぐに、「この話題は世界に向けて発信しなければならない」と着想し(というより、いてもたってもいられなくなって、)今回の論考論文の執筆に着手しました。私は男性ですが、性と生殖にかかる話題は全人類当事者ですし、「男性だからこそ」当事者意識をもって発信することにも一定意味があると信じています。至らぬ点などあるかもしれませんが、ぜひ感想として所感をお寄せいただければと思います。

また、筆者の専門は核酸生物化学分野における創薬研究であるため、論文化に当たってはより現場感覚に優れた薬剤師・医師の先生方から大変貴重なご意見を賜りました。橋本先生・鈴木先生・濱木先生・谷本先生、この場を借りて御礼を申し上げます。

また、筆者は薬学・医科学畑を出たばかりの駆け出しの創薬研究者ですが、「社会とお薬」にまつわる様々なトピックを学術的に発信し、より良い薬との向き合い方を考え、提言することで社会を動かしていくような活動を任意で展開しています。今回の緊急避妊薬に関する論考に関するご意見・感想等はもちろん、「お薬」「医薬品」にかかわることを皆さんと議論できれば幸いです。

興味を持っていただけた方がいらしたら、ぜひ連絡をしてきてください。お待ちしております。
連絡先;haya.pha3@gmail.com

■参考文献
1 日本薬学会. 緊急避妊薬販売に係る環境整備のための調査事業. https://www.pharmacy-ec-trial.jp/
2 Sorano S, Emmi S, Smith C. Why is it so difficult to access emergency contraceptive pills in Japan? Lancet Reg Heal – West Pac 2021; 7: 100095.
3 Watts J. TOKYO When impotence leads contraception. Lancet 1999; 353: 819.
4 Goto A, Reich MR, Aitken I. Oral Contraceptives and Women’s Health in Japan. JAMA 1999; 282: 2173–2127
5 緊急避妊薬を薬局でプロジェクトhttps://kinkyuhinin.jp/

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