最新記事一覧

Vol.24080 なぜ今プレコンセプションケアが必要なのか

医療ガバナンス学会 (2024年4月30日 09:00)


■ 関連タグ

助産師 近藤優実

2024年4月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

助産師同士で、「子育てを前向きに出来る人は良いお産しているよね」「良いお産をしている人は妊娠期に準備をしている人だよね」といつも話しになります。これは、助産院でもクリニックでも病院でも同じです。じゃあ、妊娠中にお産の準備をしている人ってどんな人なんでしょうね。助産院の助産師をしている私は、日々来る人達から人間がもともと持っている力に感動しています。ここに「妊娠中にお産の準備をしている人」のヒントがあると思います。

産後のママから「お産クラスを受けて、最後の3週間本気で食事と運動気を付けて良かった」と言われました。このママは妊娠初期から助産院に来て、妊婦健診、個別指導、集団指導を受けてきた中で、「自分らしく産んで、育てる」スイッチが最後のお産クラスで入りました。
そこからは、「お米と具だくさんの味噌汁とおかず少々をよく噛んで食べる。」「砂糖は摂取しない。」「何も持たず散歩し、赤ちゃんと対話する。」を行い、経産婦さんで分娩所要時間2時間(経産婦の平均5-8時間)出血量100ml(多くは500ml程度)とスピード大安産でした。
そして、産後の疲労回復も順調にいき、新しい生活を幸せに包まれて過ごしています。陣痛が弱くなり、分娩所要時間が長くなるお産や出血量が4Lといったお産も助産師として経験しているので。安堵の気持ちでいっぱいになりました。このようにお産の身体づくりを妊娠中にすることが大切なことが分かります。

では、妊娠してからではもう遅いことがあるのはご存知でしょうか。例えば、妊娠中の風疹発症です。妊婦自身が風疹に伴い発熱や発疹といった症状で辛いのもあります。それに加えて出生児が妊娠1カ月では50%以上、2カ月で35%、3カ月で18%、4カ月で8%程度の割合で先天性風疹症候群(感音性難聴、白内障、先天性緑内障、先天性心疾患など)になると言われています。
風疹の予防にはワクチン接種があります。しかし、風疹ワクチンは生ワクチンのため、妊娠中には接種することができません。もし、このことを妊娠前に知いれば生まれつきのハンディキャップを防げる可能性があると言えます。妊娠初期に行われる初期検査の項目に風疹抗体価も含まれており、値に応じて対応方法の説明があります。HI抗体価が16以下の場合は産褥早期に風疹ワクチン接種を勧めるよう決まっています。これは次回の妊娠時に風疹予防のために実施されています。

このように妊娠する前に知っておきたいことを伝えるのがプレコンセプションケアです。もう少し詳しくプレコンセプションケアについて説明します。
プレは、前。コンセプションは、受胎という意味があります。米国疾病管理予防センター(CDC)では、2006年にプレコンセプションケアを「適切な時期に適切な知識・情報を女性やカップルを対象に提供し将来の妊娠のためのヘルスケアを行うこと」と定義しています。また、プレコンセプションヘルスを「生殖可能年齢における女性と男性の健康」としています。
世界保健機関(WHO)では2012年に母体および児童死亡率と罹患率を低下させるためにプレコンセプションケアについて会議を開催し「妊娠前の女性とカップルに医学的・行動的・社会的な保健介入を行うこと」と定義しました。日本では2018年に成育基本法が制定され、2021年に出された基本方針で「女性やカップルを対象として将来の妊娠のための健康管理を促す取り組み」とされました。

次に日本特有のプレコンセプションケアにおける課題についてここでは2点挙げたいと思います。
一つ目は、若者のヘルスリテラシーが低いことです。それに関連し生活スタイルの乱れからくるやせや肥満、月経にまつわる知識不足です。ある調査では、日本の若者のヘルスリテラシーは、欧州連合やオランダと比較して低いとされています。特に性と生殖に関するヘルスリテラシーの低さは顕著です。日本の総合ヘルスリテラシーは欧州より低い:ヘルスリテラシーの検証済み日本語評価 |BMC公衆衛生 |全文 (biomedcentral.com)

ヘルスリテラシーの低さは、死に繋がりかねません。日本は諸外国と比較し2021年の妊産婦死亡(妊娠中の死亡と産褥42日未満の死亡)率は出産10万人対2.5人。周産期死亡率は出産千対3.4人と世界でも最も安全なレベルだと言われています。しかし、この調査では産後うつ病など精神疾患による自殺は含められておらず、諸外国と単純に比較することはできません。
「周産期関連の医療データーベースのリンケージの研究」では、2015-2016年の妊産婦死亡176に対して出血が23(13%)に対して、自殺が102(57.6%)と死因の一番になっていました。周産期の現場において、出血は母体の死因に直結するため、常に注意し、産科危機的出血になった場合は、医療スタッフがチームとなり、救命します。この対応は何度経験しても本当に心臓に悪いです。
このように医療スタッフが知識と技術をもって母体救命をしても、自殺を選択している人が多いのが現実です。自殺の時期はピークが二つあり、妊娠初期と産後です。妊娠初期は、予期しない妊娠や流産、産後は産後うつや育児不安が強い場合とされています。プレコンセプションケアをしていれば、予期しない妊娠を減らすことにつながる。また、妊娠前から精神状態を安定させておくことや育児について情報提供、サポートを行うことでこれらの問題の緩和につながると考えます。

私は現在バースハーモニー美しが丘助産院で勤務しています。助産院では妊活相談やお産クラス、赤ちゃんの発達くらぶにどなたでも参加することができます。妊娠する前、妊娠中から学び、相談できる場所があるのは、産後の安心した子育てのスタートにつながると感じています。

2つ目は、妊娠リスクの高い女性が増加していることです。女性のキャリア形成や晩婚化および生殖医療技術の向上による出産年齢の高齢化、それに伴う生活習慣病や慢性疾患を持った女性が増加傾向にあります。以前プレコンセプションケアの話を働く女性向けに行ったときに「不妊治療や卵子凍結もプレコンセプションケアに入るんですか」という質問を受けました。
別の機会に話した際も同じ質問をされました。同じ女性として、女性のキャリア形成はとても応援したいと思います。また、「自分は将来どんな人生を送りたいのか?」というライフデザインをどのようにするかも大事だと思います。働く女性が医療介入の結果妊娠出産子育てをすることを第一選択にはしないで欲しいなと思います。
不妊治療が保険適用になり、治療が受けやすくなったこともあり、日本の夫婦の約1/5が何らかの不妊治療を受けていると言われています。男女共に加齢に伴い妊孕性が低下していきます。不妊の原因は男性側、女性側それぞれ半分ずつです。男性は、月経の変化のように生殖機能の変化に気が付きにくいです。男性の年齢と出生児の先天性異常の関連にでは20代に比べて高齢になると先天性異常の割合も上がると言われています。妊娠リスクの高い女性が増えているのに合わせて、妊娠リスクの高い男性も増えているということが分かります。このように男女共に自分の健康に目を向けることが将来の生活に関わっていることがわかると思います。

自分の健康に目を向けるとは、生活リズムを整え、美味しく食べて、気持ち良く運動をして、十分な睡眠をとり、ストレス発散をすることです。そうすると、ホルモンバランスが整い、より美しく、自分らしく過ごせるようになります。また、月経が生理的に訪れ、イライラや痛みが緩和されます。妊娠を望んだ時に妊娠しやすく、妊娠が継続しやすい心と身体の準備につながります。私は、ナビタスクリニックにてマタニティーサポートを開始しました。ここでは、医師に相談するほどかどうかよく分からないこと、でも友達とのお喋りでは解決できないプレコンセプションケアについても助産師として対応していきます。

【新宿】助産師によるマタニティーサポートプログラムのご案内
ナビタスクリニック (navitasclinic.jp)
バースハーモニー美しが丘助産院 (birth-harmony.com)

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ