医療ガバナンス学会 (2024年5月2日 09:00)
伊賀内科 西宮市
伊賀幹二
2024年5月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
コーチングとは決められたことを上から目線での命令ではなく、双方向性の会話から対象者が自分自身を客観的に評価できるように誘導し、患者に対してであれば、治療の目的やそのために具体的にしなければならないことに気づいてもらうことです。
生活習慣病IIに相当する高血圧、脂質異常症、糖尿病の薬物治療は一生(またはボケるまで)におよぶので、医師との信頼関係や相性も重要です。それゆえ、初診時から薬剤を投与することはほぼありません
。
高血圧なら 、症状がないのになぜ薬を服用しなければいけないのか?
高血圧治療の目的は長期の動脈硬化予防のためであるので、例えば「仮にあなたが余命1年のがん患者ならなら治療は不要です」との説明を私は薬物治療開始する前から繰り返し行います。薬物治療の前に、定期的な運動や標準体重の維持、生活習慣の見直しの必要性を説明します。
毎日40本喫煙しての高血圧治療は、動脈硬化の予防の観点からはきわめて非効率であり、家計簿的には「あなたが1000円何かを値切っている一方で奥様が1万円使うことと同じですよ」とよく話します。
血圧は24時間で変動するので、1回の値に一喜一憂しないで自宅での朝夕の血圧測定をすすめその意義も説明します。しかし、血圧の値を気にして頻回に測定する人に対しては測定しないように説明し、それでも測定する人には、血圧計を持ってきてもらってそれを私が捨てましょうかとの説明も行います。対応は患者さんの性格や生活や背景によって異なります。
糖尿病なら、HbA1cの結果と過去1か月の食事と運動を振り返って自己評価してもらいます。
HbA1cが予想通りだった 予想より悪かった、予想より良かったならその原因を気づいてもらうことが最も重要ですHbA1cがよくなってもそれを死ぬまで続けられますか?がんばりすぎは続きませよと説明します。グラフ作成加算はないですが、体重とHbA1cの過去1年(もっと短期や長期)のグラフをみせてHbA1cが悪化した時期に何があったか考えて気づいてもらえるよう一緒に考えます。
運動に関すれば、持続できることが重要であり、患者さんの性格により説明は異なります。忙しくて時間がないという人には、「5分でいいので毎日の運動を習慣化してください。いくら忙しくても5分の時間がとれないということはないですよね 」との説明を行います。
金銭に細かく論理的な人にはスポーツクラブに契約してもらうことも有効です。月1万円でスポーツクラブと契約したと仮定しましょう。運動後に入れる大きな風呂に入れば、公衆浴場の代金が500円とすれば20回で元をとれます。加えて、家での風呂代が安くなります。「せっかくスポーツクラブに行ったなら、入浴の前に服を着かえてなにがしかの運動をするようにしたらどうですか? 2か月続けば、運動の楽しさを実感し、その後も続けられる人が多いです。」と説明します。
受診時に、患者さんに上記の指導?を詳しく話さないときもあれば、毎回のごとく繰り返し言うときもあります 。
今回の診療報酬改定における生活習慣病管理IIのフォーマット用紙のごとく、医師が患者に毎日5000歩、間食なし、減塩7gなどを指示するだけで多くの患者がそれを実行できると思いません 。目標を指導するだけでできるようになるなら、すべての中高生が志望校に入れます。
文書で書いて、お互いサインする。いったい誰がこんなことを考えたのでしょうか?医師と患者の関係は単なる契約ではなく、信頼関係があってはじめて成り立ちます。加えて、その文書自体を診療所で保管するというのはデジタル時代に逆行するような方策です。
数か月後には、「病院を安く受診する方法」などが週刊誌に掲載され、このサインを拒否する人がでてくるかもしれません。薬の処方だけでよいので管理料払わないと主張する人が少数でも存在すれば、まじめな医師であれば診療意欲は一気に低下します。それゆえ、初めからサインもとらず、管理料を算定しない先生もいるかもしれません。国はそのように、一部の医師が管理料を算定しないことを期待しているのでしょう。
我々現場の医師の代表である日本医師会は、このような矛盾だらけの改定に対して国とどのようなやり取りがあったのかの記録を医師会員がみられるように公開してほしいと思います。