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Vol.24093 長尾能雅氏の四つの役職における解任要望書:東京都保険医協会(2)

医療ガバナンス学会 (2024年5月17日 12:00)


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この原稿は長文のため数回にわけて配信いたしますが、こちらから全文をお読みいただけます。
http://expres.umin.jp/mric/mric_24092-24095 new.pdf

先日の配信の際に記載に誤りがありましたので、修正させていただきます。
一般社団法人茨城県医師会は誤りで、正しくは一般社団法人茨城県保険医協会です。
お詫びして修正させていただきます。

一般社団法人 東京都保険医協会 代表理事
須田昭夫

2024年5月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

二、長尾能雅氏の過ちを二度と繰り返さないように医療事故調査制度の運用を改善すること

はじめに

長尾能雅氏の今回の記者会見行動に対しての解任処分は当然として、再発防止として日本医療安全調査機構が請け負っている医療事故調査制度に関わる人員、特に医療事故調査委員の担当者には、医療法、医療法施行規則、局長通知からなる制度全体の充分な教育、再教育が必須かと思われます。

なお、長尾能雅氏の行った記者会見による公表行為だけでなく、愛西市医療事故調査委員会委員長としての委員選任、長尾報告書の内容自体の明らかに誤った病態把握と断定的な診断、および、適格な判断や正当な医療行為を行った医療者への「標準的ではなかった」との誤った評価など、問題が山積しておりますので、その点についても指摘いたします。

また、貴機構におかれましては、長尾報告書のような報告書が作成されないよう、報告書のチェック機能を担当する部署を新設すべきであると思料いたします。

第1 事故調査委員の選任に公正性・中立性が欠如していること

1.法律家

委員会における法律家委員は、増田聖子氏だけが選任されています。増田氏は、医療訴訟において原告である患者側代理人に特化して被告の医療側の責任を追及する立場にある医療問題弁護団の主要メンバーで、医療過誤問題研究会に所属しております。当然、医療側の責任を追及することを業としています。

公正性、中立性を担保するためには、医師資格を有するなど医学の素養のある弁護士を委員入れるべきです。

2.ワクチン集団接種会場での統括経験者の不存在

「一、第1」でも述べたように、ワクチン集団接種会場は、本件委員会の委員らが勤務する大学病院どころか通常の市中民間病院や診療所などと比較しても、充分な人員や医療機器や什器などの環境などが整っておらず、日常診療ではチームを組んでいない様々な施設で勤務する医師・看護師・保健師・事務スタッフが臨時で集められ、臨時のチーム作りが行われ、スタッフ各々が接種ブースや経過観察室などに分散して配置につく極めて特殊な状況下にあります。

医療安全学では、医療は複雑適応系(complex adaptive system)と呼ばれ、時々刻々と変化する環境に適応し、学習し、進化し続けており、「生き物」と比喩されます。設計した通りいつも同じように動く精密機械とは違います。医療者は、状況に合わせて臨機応変な対応やさまざまな調整を行い、日々の診療を乗りきっています。

このことからだけでなく、ワクチン集団接種会場の特殊性を考慮すれば「頭の中で考える仕事のなされ方(Work-As-Imagined:WAI)」しか知らない委員だけでは不適切で、「実際の仕事のなされ方(Work-As-Done:WAD)」を知る委員が必須です。このことは「実践なき理論は、細部に矛盾を生む」(篠田謙一国立科学博物館館長の著書より)と評される通りであります。権威的な地位にあっても、現場での実践経験がない委員による形式的で事後的な現地調査では実際の仕事のなされ方が理解できるはずがありません。

上述の非医療者である増田委員以外の長尾能雅委員、岩田充永委員、天野哲也委員、井上真智子委員、水野圭子委員の中で、ワクチン集団接種会場での統括者として、現場での活動を経験した人がいたのでしょうか。

もし、ワクチン集団接種会場での統括者として現場活動経験者が一人もいないのであれば、公正性が担保されているとは言いがたいと指摘できます。

第2 長尾報告書の医学的問題点

1.厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会、薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(合同開催)の専門家の判断と全く異なること

(1)長尾報告書における断定の誤り

長尾報告書は、手引きやマニュアルに記載された新旧のアナフィラキシーショックの診断基準などを縷々記述して、診断は「アナフィラキシーショック」、病態は「非心原性肺水腫」であると断定し、実質的に、医師Bの初診から5分程度以内(14時29分頃にB医師が初診、14時30分頃に泡沫状の大量喀血、14時34分頃心停止 [1])でのアドレナリン筋注の不作為を非難しています。しかし、後述のとおり、本件の臨床経過を追えばアナフィラキシーショックと断定できるはずがありません。

長尾報告書および医師会報告書によれば、初診から心停止までの約5分間に、粘膜病変・皮膚病変・異常音は聴取できず、血圧測定不能でした(成人用市販のマンシェットの最大対象腕周32cmを凌駕するほど体格が大柄であったことや体動などが原因)。本事案当時、最新の「アナフィラキシーガイドライン2022」(一般社団法人日本アレルギー学会2022年8月31日、同年10月11日公表)の診断基準(2頁)では、「2.典型的な皮膚症状は伴わなくても、当該患者にとって既知のアレルゲンまたはアレルゲンの可能性がきわめて高いものに暴露された後、血圧低下*[2] または気管支攣縮または喉頭症状#[3] が急速に出現(数分~数時間で)発症した場合。」となっています。この診断基準に照らせば、アナフィラキシーの診断には、血圧測定が必須となります。

しかし、長尾能雅氏は記者会見において「即座にアナフィラキシーショック対応のアドレナリンの筋注を行うのではなくて、バイタルサインの確認を優先しようとした」と批判的に指摘しています。この指摘は、上述の「アナフィラキシーガイドライン2022」の記載だけでなく、貴機構が2018年1月に発行(Last Update :2022年3月28日)した「医療事故の再発防止に向けた提言 第3号 注射剤によるアナフィラキシーにかかる死亡事例の分析」の記載とも矛盾しています。

すなわち、同提言第3号の提言3には「●アドレナリン筋肉内注射0.3 mg の準備」と題して、「アナフィラキシーの初期対応は、バイタルサインの測定や助けを呼ぶことと並行して、酸素投与や静脈路の確保等の救急対応よりも、アドレナリンの筋肉内注射を優先する。」と記載されています。これらのことから、長尾報告書がバイタルサインの確認について批判したことは、不適当といえます。

さらに、長尾報告書では、救急医学会の2014年のガイドラインにもとづく「アナフィラキシー対応・簡易チャート(2014)」が添付・引用され「ためらわずアドレナリン0.3㎎筋注」と記載されています。しかし、最新の「アナフィラキシーガイドライン2022」に対応した日本救急医学会「アナフィラキシー対応・簡易チャート(2022)」(2023年5月公開、6月一部改訂)では、「診断または強く疑うときはためらわずアドレナリンを筋注する!:ワクチン接種の反対大腿に筋注」と記載されています。上述のように、2022年のガイドラインに従えば、血圧が測定できていない段階では、アナフィラキシーの診断はできなかったはずです。(参照:末尾添付の2014年と2022年のガイドラインの比較)

また、2022年のガイドラインでは、2014年のガイドライン「アナフィラキシーの重症度評価」の記載「▲下記表のグレード(軽症)の症状が複数あるのみでは、アナフィラキシーとは判断しない。▲グレード3(重症)の症状を含む複数臓器の症状、グレード2以上の症状が複数ある場合はアナフィラキシーと診断する。」が削除されました。すなわち、この重症度分類表からアナフィラキシーのあるなしを診断することはなくなり、上述の診断基準が決定的な診断となります。

一般に医療事故調査委員会は、最新の学会ガイドラインを採用するのが当然であるのに、長尾報告書は、何故わざわざ8年も古いガイドラインを反映したチャートの内容を引用したのでしょうか。ガイドラインの改定は平均5.6年とする研究論文もあります。長尾報告書が、恣意的に最新の2022年のガイドラインではなく古い2014年ガイドラインを引用したのであれば、倫理的に許されず、最新のガイドラインの変更点を認識していなかったのであれば、医療安全学者や医療事故調査委員としての資質が疑われます。

さらに、特異IgE 抗体の検出を認めなかった事実、アナフィラキシーで高値を示す血清トリプターゼ値が低値であった事実は、上述の診断基準に加えて免疫学的機序においてもアナフィラキシーの存在を否定する根拠であったのにも関わらず、「アナフィラキシーであった可能性を示唆する」と科学的論拠を導くことができなかった時に用いる文言を記載しています。

結局、長尾報告書は、マニュアルや古いガイドラインの一部の教条的な記載にのみ拘泥して議論を展開しており、最新のガイドラインや実際の病態や免疫学的な検査結果における医学的客観的な問題を捨象して持論を展開しているだけにすぎません。

(2)厚生科学審議会報告の原因分析との相異

一方、本事例は、2023(令和5)年3月10日、第92回厚生科学審議会予防接種・ワクチン分科会副反応検討部会(以下、「検討部会」といいます)と令和4年度第27回薬事・食品衛生審議会薬事分科会医薬品等安全対策部会安全対策調査会(以下、「調査会」といいます)の合同開催で審議されています。さらに、同年10月27日、第98回検討部会・令和5年度第11回調査会(合同開催)で報告が取り扱われ、資料1-3-1新型コロナワクチン接種後の死亡として報告された事例の概要(コミナティ筋注、ファイサー株式会社)」304頁のNo.2として記述があります(以下、「厚生科学審議会報告」といいます)。

厚生科学審議会報告は、専門家による評価が、令和5年7月28日時点と同年10月27日時点で行われ、最終的に以下のように記載されており、長尾報告書とは、全く異なる内容でした。

「ワクチン接種直後から本事例は顔面蒼白と呼吸苦を訴え、血痰を呈し、心肺停止となり、蘇生措置を行ったにもかかわらず死亡に至ったことから、何らかの心肺の障害が生じた可能性が推定された。死亡後CT検査が実施され、高度肺うっ血(急性肺水腫)の存在が指摘されていた。また、本事例はスギ、ヒノキ、黄砂などに対するアレルギー体質を有しており、ワクチン接種によるアナフィラキシーの疑い(確認できた所見は呼吸困難のみ)についても報告されていたが、ブライトン分類に照らし基準に合致するのは呼吸器症状しか認められないことから、アナフィラキシーであったと言えず、ワクチンとアナフィラキシーとの因果関係評価については評価できない。

一方、患者は高度肥満、睡眠時無呼吸症候群(夜間に持続的気道陽圧療法を実施)、高血圧、2型糖尿病を有していた。これらのことから、ワクチン接種以外の死亡に繋がりうる除外すべき急性疾患として、肺血栓塞栓症の有無について綿密な画像評価が、必要と考えられた。その評価結果は以下の通りであった。本事例について行われた死後画像検査は非造影であり、血栓症等の評価に限界はあるものの、胸部の大血管内の血栓や肺梗塞を示唆する所見がない等、典型的な肺血栓塞栓症を示唆する所見は得られておらず、その他の疾患も含め、死因となりうる具体的な異常所見は同定されなかった。

死亡に至る原因疾患の特定のために剖検所見が得られることが望ましいが、実施されていなかった。本事例から得られた画像所見等の情報の範囲内においては、ワクチン以外の原因として死因となる具体的な異常所見は同定されなかった。以上を総合的に判断すると、ワクチン接種と死亡との直接的因果関係は否定できないものと考える。(下線は本協会による)」

この厚生科学審議会報告は、事実に基づいた分析から科学的・医学的手法で認定や判断を行い、「ワクチンとアナフィラキシーとの因果関係評価については評価できない。ワクチン接種と死亡との直接的因果関係は否定できない。」と客観的に結果を記述しています。これに対し、長尾報告書は、厚生科学審議会報告に反し、憶測と決めつけに満ちた内容を非科学的文言で記述しており、弾劾されることを免れません。

なお、上述のとおり、厚生科学審議会報告は、令和5年7月28日の時点での専門家による評価の報告があり、同年9月26日の長尾報告の発表後も変更することなく、同年10月27日時点でも再度報告されています。

以下、厚生科学審議会報告を補足して詳説します。

つづく

アナフィラキシーガイドライン http://expres.umin.jp/mric/mric_24092-24095-2.pdf

注釈)

[1]長尾報告書および医師会報告書より
[2] *血圧低下は、本人のベースラインに比して30%を超える収取期血圧の低下がみられる場合、または、成人では収縮期血圧が90mmHg未満
[3] #喉頭症状:吸気性喘鳴、嗄声、咽頭痛など

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