医療ガバナンス学会 (2011年2月12日 06:00)
幅広いフィールドで活躍されてきた村重直子氏。そんな村重氏が、本書で日本の抱える医療制度における多くの矛盾点を痛烈に指摘、批判している。アメリカ の医療現場を見てきたことが日本の医療制度の相対化に、内科医としての実務経験が「ペーパードクター」たる医系技官という存在の相対化の説得力を強固なも のにしているのが特徴的であった。
本書を読んでもっとも痛烈に気付かされたのは、自分の無知さであった。日本の医療にまずどんな人が携わっていて、その人たちがどういった境遇で、どう いった思考回路で動いているのか? アメリカと比較して日本の制度はどうなのか、日本が抱える医療制度の問題点は何なのか? ・・・そんな単純なことに対 し極めて無知である、ということだった。
まず、医師の方々の現状。命を守りたいと思って医の道を志すも、手術といった医師として当然すべきことに加えて多くの雑務を抱えて疲弊し、挙句の果てに は医療ミスで刑事事件にまで晒されている。アメリカと比較するとはるかに人手は足りておらず、論文を読むなどの勉強の時間を作ることもままならない。
そして、医系技官という存在。医師免許を取得した医療関係の有識者として入省するも、「ペーパードクター」たるがゆえに現場を知らない。適切な医療政策の判断を下すこともままならず、それでいて既得権益を守ることと権限を広げることばかりに躍起になる。
さらに、日本の医療制度そのもの。発展し激変してゆく医療技術に制度が追い付かず、世界から取り残されてしまっている。世界中で使われている新薬を使うこともできないなど、医療現場を苦しめる制度が跋扈している。
現状では明らかにまずい制度が多数あることは間違いない。では、悪いのは誰か。医師か?医系技官か?それとも有権者の顔色を伺い、改革に踏み切れない政治家か?
では、我々は悪くないのかというとそうではない。そもそも政治家を選んだのも、その政治家達に医系技官という制度の継続を任せたのも、他ならぬ我々であ る。それにも拘らず、我々は日本の医療についてほとんど何も知らないのだ。そのことを気づかせてくれたということを取っても、本書から学ぶことは大変多 かった。
普段何気なく享受している「医療というもの」について疑問すら持たなかった方、何が問題なのかよく分からないという方に読んでもらいたい。
そして (大風呂敷を広げると) 、国民一人一人が医療・医療制度について正しい認識を持ち、現状を批判的に見る。そして変えるべきところは変えていくよう一人一人が動いていく。そのようにボトムアップ式によい方向へと進んでいく社会になっていけばよいと思った。