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Vol.39 季節性インフルエンザの流行、2010-2011年度シーズンの傾向を読み解く

医療ガバナンス学会 (2011年2月17日 06:00)


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わだ内科クリニック
院長 和田眞紀夫
2011年2月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


2009年の夏、新型インフルエンザが猛威を振るってから早くも1年以上の月日が流れて、2010-2011年度シーズンも中盤にさしかかった。過去の 新興インフルエンザの流行パターンの検証から、AH1N1、2009年新型インフルエンザも翌シーズン以降に第2波、第3波の流行を引き起こすと予想さ れ、今年度のワクチンもいわゆる新型インフルエンザにも効果のある3価ワクチンが作られた。しかし、実際の今年のインフルエンザの流行がどうなるかは誰に も予想できなかった。

第2波といわれる流行が本当に訪れるのか、訪れるとすれば昨シーズンに新型に罹患したひとが再び罹患する可能性があるのか、新興インフルエンザがどのよ うにして季節性インフルエンザとして取り込まれていくのか。このような疑問に対して一つ一つ解析して検証していくことは、来るべき強毒性新型インフルエン ザに備える上でも重要なステップだと思われる。そして、本来このような作業は疾病対策センターのような組織によって包括的に行われるべきものであるのだ が、残念ながらそのような動きは今のところ見えてこない。

日本ではあまり報道されなかったが、昨秋から年末にかけてAH1N1、2009ウイルスがイギリスで猛威を振るった。一時は救急入院施設が不足して隣国 に患者さんを転送せざるを得ない状況にまで追い込まれていた。そのころ日本ではA香港型季節性インフルエンザの散発的な流行が全国的に見られていたが、年 が明けてからはAH1N1、2009ウイルスが優勢となって都市部を中心として中規模な流行が見られるようになった。東京の住宅衛生地区に位置する当院 (わだ内科クリニック)においても1月の中旬に流行のピークをみて1週間のインフルエンザ罹患者数が50を越え(現場の実感としては定点観測医療機関の実 数をはるかに越える患者さんがより早い時期に訪れる)、2月に入ると早くも収束の兆しが見え始めている。今日は今シーズン初めてインフルエンザB型陽性の 患者さんを診た。練馬区の定点観測データからもインフルエンザB型の急速な広がりを示しており、新たな展開を見せ始めているところである。

ところで、最初の疑問、今シーズンにAH1N1、2009に罹患したひとは昨シーズンにもこのウイルスに罹患したひとなのかどうかということ。当院での 患者さんのデータ解析からわかった答えはNOであった。今シーズンこれまでにインフルエンザに罹患した人の何と98%が少なくともここ数年はインフルエン ザに罹ったことがない人たちであった(診察時の問診によって確認)。今シーズンワクチンを接種していなかったひとの割合も75%に上り、圧倒的に大多数の 患者さんがワクチンを接種しておらずかつ新型インフル罹患歴のない人たちであった。この結果から言えることは新興インフルエンザの第2波というのは、第1 波で感染を免れたひとが新たに罹患するものであり、有効なワクチンの接種が明らかに効果を発揮しているということである。去年流行の中心だった中学・高校 生にほとんど罹患者が認められず、逆に去年感染が少なかった若年成人の罹患者が多く、65歳以降の高齢者の罹患者は昨年同様皆無というのが現状だ(この年 齢層はもともとAH1N1、2009に対する抗体を保有しているというのはどうも本当らしい)。

今シーズン(2011年2月7日まで)の当院(わだ内科クリニック)におけるインフルエンザ罹患者総数220例:小児(15歳以下)69例(31%)、16歳以上151例(69%)、このうち成人143例(65%)、60歳以上0例(0%)。
昨シーズン(2009年5月-2010年4月の1年間)の当院におけるインフルエンザ罹患者総数519例:小児(15歳以下)295例(57%)、16歳以上224例(43%)、このうち成人171例(33%)、60歳以上2例(0.4%)。
2シーズンの比較では、小児と成人の罹患者数の割合が、逆転していることである。

今シーズン(2011年2月7日まで)の当院におけるインフルエンザ迅速キットでA型陽性を示した症例総数153例:小児42例(27%)、未成年50例(33%)、成人103例(67%)。
ワクチン接種者数38/152例(25%)、未成年者のワクチン接種者数23/49例(50%)。
新型インフル既罹患者数9/136例(7%)、未成年者の新型インフル罹患者数7/42例(2%)。

注目すべきは迅速キットでA型陽性が確認された136例のうち、昨シーズン新型既感染で今シーズンワクチン接種しているひとで、不幸にも今シーズンまた インフルエンザに罹患してしまったひとはたったの4例(3%)しかいないということである(この4例はすべて小児で、小児だけで見た割合は4/42例の 10%)。未成年の罹患者で、ワクチン接種率が50%というのも際っている。やはり子供は成人に比べるとワクチンが効きにくいようだ。小児のワクチン接種 プログラムを再考する必要があるかもしれない。

もう一つ今シーズン気懸かりなことは、H5N1鳥インフルエンザが日本中の野鳥や養鶏場の家きんに蔓延しつつあることである。この強毒性インフルエンザ がひとたびひとに感染すると致死率が60%という脅威的なウイルスだ。さらにはいわゆるひとの季節性インフルエンザの重複感染が起こればハイブリッドウイ ルスが生まれる危険性が取りざたされている。養豚場の豚はこの両ウイルスに感染性があるし、野生動物が鳥インフルエンザを媒体することが考えられている。 実際、野鳥から家きん、家きんから他の養鶏場の家きんに直接ウイルスを移すことは考えにくいケースが多く、野生動物やひとが養鶏場の外からウイルスを運ん でいる可能性のほうがよほど高い(だとすると養鶏場の家きんの殺処分だけでは到底感染拡大は防げない)。養鶏・養豚業者の感染スクリーニング、養鶏場の豚 の感染スクリーニング(遺伝子診断を当然含む)も非常に重要なのだが、厚労省主導のサーベイランスは全く行われていない。国立国際医療研究センターの国際 疾病センター(http://www.dcc.go.jp/about/index.html)は何をしているのだろうか。厚労省や国立感染研が動かない のなら、この組織がやるしかないのではないか。

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