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Vol.24106 記者職剥奪(シリーズ「保身の代償 ~長崎高2いじめ自殺と大人たち~」共同通信編 第31回)

医療ガバナンス学会 (2024年6月3日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年6月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

共同通信は2023年1月27日、石川陽一に対し、総務局長・江頭建彦の名前で、『いじめの聖域』(文藝春秋)の出版了解を取り消す通知を出した。第三者であるにもかかわらず、本の重版を認めないという通知だった。石川のことは事実誤認にもとづいて「職員としての品位を害した」とまで断じた。

これから自分は一体どうなるのか。半年間の育児休業は3月末で終わりだ。4月に入れば千葉支局に出勤しなければならない。

復帰初日の4月3日、石川は千葉支局長の正村一朗に呼ばれる。

●総務局長と東京支社長の突然の訪問

石川が千葉支局に到着してすぐ、正村から声がかかった。

「本社から総務局長と東京支社長が来ている。石川君に話がしたいと言ってますけど、いいですか? 」

正村に連れられ別室に移動すると、総務局長の江頭と、東京支社長の松井隆一が待っていた。通知を出した江頭が自ら、千葉支局にやってくるとは何事だろう。自分にとってよくないことであるのは確かだ。

江頭と松井は、「お子さんは元気に育ってらっしゃる? 」、「突然訪問しちゃって申し訳なかったんですけれども」などと言ってきた。

席に着いた江頭は、自分の名前で石川に出した通知の件を切り出す。

「この間ですね、石川くんの11月に出版された本の件があったじゃないですか。すでに文書で石川さんにはお伝えしましたけれども、本の社外活動申請に対して了解を取り消すということを文書で通知しましたよね」

「長崎新聞に対して取材を尽くさなくて、一方的に非難をするような断定的な記述をしてたということで、共同の記者としての基本動作を怠って、記者活動の指針に反する非常に不適切なものでした」

石川は反論せず、黙って聞いていた。

亡くなった福浦勇斗(はやと)の遺族が「書籍は、私たち遺族の真実の叫び」と石川の取材が事実に基づいていることを伝えようが、長崎市内で塾を経営する佐々木大が、共同通信が問題視する「本の第11章こそ不可欠」と訴えようが、共同通信は聞く耳を持たなかった。石川が長崎新聞の記者には取材したことを意見書に記しても、「一切取材しなかった」と事実誤認をした。ここで反論しても無駄だ。

江頭はたたみかける。

「今回の本についての石川さんの表現が、さっき言ったように記者活動の指針に反して共同の記者の水準には達していないということは明らかだと思っておりますので、この点については反省をしてほしいと思います」

松井も言う。

「うちの記者として当然のことをやってほしいということですね。みんなやってることなんで、君もやってほしいということです」

石川は内心、「よくもここまで平気で言えるものだ」と悔しい思いをすると共に、あきれた。

勇斗のいじめ自殺事件をめぐる一連の報道で、石川は2022年1月、新聞労連の「疋田桂一郎賞」を受賞した。選考委員は、フォトジャーナリストの安田菜津紀、元AERA編集長の浜田敬子、ジャーナリストで元共同通信記者の青木理、元毎日新聞記者の臺宏士だ。実力あるジャーナリストたちが、「長崎支局から他支局の異動後も問題を何とか伝えようとする工夫と執念は今後のさらなる活躍を期待させる」と評価してくれた。

共同通信も、労働組合が『共同労組NEWS』で、石川の受賞を2週にわたって特集した。

何より、長崎新聞を批判した石川の責任を追及する聴取の中でさえ、石川の受賞に触れながら褒める一幕があった。2022年11月14日に行われた1回目の聴取で、総務局人事部企画委員の清水健太郎がこのように語っている。

「賞の選考理由を見ると、ストレートニュースを重ねて書いたっていうのが非常に評価されていて、素晴らしい報道だったと思うんですよね」

石川が達していないという、江頭が主張する記者の水準とは、一体何なのだろうか。一貫性のない主張は、分が悪くなって聴取の理由を変えたり、規定通りではないメンバーで審査委員会を組織したりした、共同通信の今回の対応を象徴するようだった。

しかし江頭は、石川の心の中などお構いなしに宣告する。

「石川さんにはですね、取材・出稿を伴う現場から一度外れていただきたいというふうに社として対応を決めました」

●石川記者にとって何より辛いこと

石川は、記者職から外されたのだ。

共同通信は、石川に出した通知で、懲戒処分について「メディアに経緯を公表すれば懲戒の対象になる場合がある」と牽制はしたが、実際に懲戒処分にはしなかった。だが石川にしてみれば、事実上、懲戒処分を下されたのに等しい。石川にとって、記者の仕事をできなくなることが何より辛いからだ。

江頭が言う。

「5月16日付の人事でですね、本社の調査部という部署がありますけれども、そこに行っていただくことになりました」

調査部とは何をする部署なのだろう。後日、支局長の正村が石川に説明した。

正村によると、調査部は東京本社にある部署で、石川は1968年~1988年の原稿をスキャンしてデータ化する仕事を任されるという。正村は石川に言った。

「そういう仕事をやっているので、手伝ってもらいたいとのことでした」

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2023年6月29日時点のものです。

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