医療ガバナンス学会 (2024年6月12日 09:00)
この記事は医薬経済2024年2月15日号に掲載された記事を改変したものです
医療ガバナンス研究所医師
尾崎章彦
2024年6月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
本稿では、そのエッセンスとともに、製薬マネーデータベースの歩みとこれからを紹介したい。
我われが最初に製薬マネーの調査結果を公表したのは5年前のことだ。19年1月には、製薬企業が医療者や医療機関に支払った金銭のデータを統合、「製薬マネーデータベース」としてネット上で無料公開を開始した。現在、16年から20年までのデータを公開している。
今回の論文では、公開が開始された19年1月15日から21年5月24日にかけてのアクセスを対象とした。その結果、35万4863人からのべ60万4903回のアクセスがあり、総ページビューは563万5087回であった。ある情報筋によると、一般的な企業のコーポレートサイトでは、1ヵ月あたりのPVの目安は3000~1万PV程度という。もちろん会社やサービス、商品の知名度によって変わってくるが、一般的なサイトと比べて、より多くの方々が製薬マネーデータベースを訪問してくれていると言えそうだ。
実際、つい先日も、Yahoo知恵袋で「21年の製薬マネーデータベースはいつ公開されますか」という質問を見つけた。「Yahoo知恵袋ではなく、我われに直接尋ねてほしい!」と思いつつも、製薬マネーデータベースは少しずつ社会の公共財として地位を獲得しつつあることを実感できた。
そのうえで、今回の論文はもうひとつ、興味深い事実を提供している。
データベース上でアンケート調査を実施した結果、製薬企業関係者や医療者と比較して一般の方々は、製薬と医療側との金銭関係に対し、極めて懐疑的で批判的な考えを持っているということだ。
奇しくも芸能界のような領域でも昨今、これまでタブー化されていた恥部がどんどん明るみに晒されている。医療界も、従来以上にコンプライアンスを重視した行動が求められるようになっていると考えるべきだろう。
だが、そうした追い風に喜んでばかりはいられない。問題は、端的に言えばお金だ。
医療にまつわるお金の流れを明らかにすることは、不正抑止につながり、公益に資する。ところが公益に資するからといって、その研究にお金が集まるわけではない。我われも、医療ガバナンス研究所への一般的な寄付や、我われが医療行為の対価としていただいている給与所得などから、その費用の大部分を捻出しているのが実情だ。
そもそも製薬企業から医療者に支払われる金銭に関するデータベースを、医療ガバナンス研究所のような「国とも製薬企業とも直接関わりのない組織」が長期にわたって運用するケースは、他にほとんど見られない。例えば、欧州にも、欧州全体の製薬マネーをまとめた「Euro For Docs」といった自主的なプロジェクトが存在し、我われの共同研究者も関わっている。ただ、彼らは「お金がなく、いつまで続けられるかわからない」と嘆いていた。
一方で、見方を変えれば、「自分たちでその費用を賄っているからこそ、自分たちが正しいと信じることを追求できる」とも言える。その点、国が現在進めている「利益相反データベース」などは、関係各所に配慮した挙げ句、絵に描いた餅になるのではと危惧している。いずれにしても我われはそのような〝雑音〟に惑わされず、自らの道を突き進んでいきたい。
Yahoo知恵袋の質問に答えるわけではないが、21年度のデータは24年3月末にすでに公開済みであり、多くの方々にアクセスしていただきたい。
さらに来年度中頃には医療機器マネーの公開も開始予定だ。読者の方々におかれては、ぜひ楽しみにしていただきたい。