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Vol.24114 日本で感染事例の報告が相次ぐはしか 「世界的麻しんのアウトブレイク」を警告

医療ガバナンス学会 (2024年6月13日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年3月20日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/articles/-/217400

内科医
山本佳奈

2024年6月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

日本で、はしか(麻しん)の感染事例が相次いで報告されています。林官房長官(※1) は3月13日の会見で、海外で流行している麻しんについて、「海外との往来の再活発化に伴って、国内での流行にも特に注意が必要な状況だ」と警戒感を示すととともに、2回の麻しんワクチンの接種を受けるなど、感染拡大防止のための予防策を呼び掛けたといいます。

なぜこれほどまでに、麻しんの流行が警戒されているのでしょうか。1つ目の理由として、麻しんウイルスは、空気感染で広がり、感染力が極めて高いことが挙げられます。米国疾病予防管理センター (CDC:Center for Disease Control)によると、麻しんに対する予防策を講じていない人の約10人中9人(※2)が、麻疹ウイルスに暴露された後に感染するほどの感染力の高さがあるといいます。

●重篤な合併症で死に至ることも

2つ目の理由として、麻しんに感染すると重篤になる可能性があること、そして重篤な合併症を引き起こし、死にいたることさえあるという事実です。麻しんに対する免疫を持たないヒトが、麻しんにひとたび感染すると、10~12日間の潜伏期間を経て、高熱や発疹などの症状が出現します。ヒトの体内に入った麻疹ウイルスは、免疫を担っている全身のリンパ組織中心に増加し、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じるのです。

そのため、麻しんは、あらゆる年齢層で重症化する可能性があります。特に5歳未満の子どもや20歳以上の大人妊娠中の女性、免疫力が低下している人は、合併症を患う可能性が高くなることが知られています。

よくみられる麻しんの合併症として、中耳炎や下痢が挙げられます。CDCによると、耳の感染症は、麻しんにかかった子供の約10人に1人に発生しており、下痢が報告されるのは、麻しん患者の10人に1人未満だといいます。

麻しんの重篤な合併症としては、肺炎や脳炎が挙げられます。CDCによると、麻しんにかかった子どもの 20 人に 1 人が肺炎を合併しており、これは幼い子どもの麻しんによる死亡の最も一般的な原因となっています。また、麻しんにかかった子どもの 1,000 人に約 1 人が脳炎を発症し、その結果として、けいれんを起こしたり、耳が聞こえなくなったり、知的障害が残っているといいます。

忘れてはいけないのは、妊婦さんの麻しん罹患です。麻しんワクチンを接種していない妊婦が麻しんに罹患すると、早産や低出生体重児の出産を引き起こす 可能性があるのです。

●予防する上で重要なのはワクチン

そんな麻しんを予防する上で重要なのが、ワクチン接種です。日本では、MRワクチン(麻疹・風疹混合ワクチン)が接種可能となっていますが、世界的にはMMRワクチン(麻しん・風しん・ムンプス混合ワクチン)が広く流通しています。CDCによると、MMR ワクチンの 1回接種で約93%の効果があり、2 回接種では 麻しんの予防に約 97% 有効であるといいます。

現在、日本でも、より確実に免疫をつけるため、第 1 期として生後 12〜24 カ月未満の乳児に、第 2 期として 5 歳以上 7歳未満で小学校就学前 1 年間の小児に、それぞれ 1 回ずつ、MR ワクチンの接種が定期接種として実施されています。日本は、こうした麻しんワクチン接種の導入と普及により、2015年には世界保健機関(WHO)から、麻しん「排除状態」と認定されるまでに至っています。

日本小児科学会(※3) によると、麻しんに対する集団免疫を維持し、日本の「麻しん排除状態」を維持するためには、少なくとも第 1 期のワクチン接種率を全国的に 95%以上に保つ必要があるといいます。しかしながら、これまで 95%以上の高い接種率が得られていた第 1 期の接種率が、2021 年度は93.5%に低下、2022 年度には 95.4%と上昇したものの、95%に達しない地域を数多く認めています。このままでは、麻しんの免疫を持たない人が増え、麻疹や風疹が流行してしまう可能性が危惧されているのです。

アメリカでも、1963 年に麻疹ワクチン接種プログラムが開始され、ワクチン接種の普及により、ワクチン接種プログラム開始前と比べて麻疹症例は 99% 以上減少、2000年には麻疹の撲滅が宣言されました。CDC の報告書によると、2022~2023 学年度の幼稚園児の 93%(※4) が、麻疹、おたふく風邪、風疹を予防するために 2 回の予防接種を受けたといいます。

しかし、新型コロナウイルス感染症のパンデミック(※5)のせいで、2020年から2022年にかけて6,100万回以上の麻しん含有ワクチンの接種が延期され、未接種となってしまったことや、近年の誤った情報や偽情報の広まりによるワクチン接種忌避などにより、アメリカでは、麻しんのワクチン接種を受けていない、またはワクチン接種が不十分な地域で流行が発生する可能性が常に潜んでいる状態が続いているのです。

実際に、アメリカでは、2024年3月14日(※6)の時点で、カリフォルニアやニューヨーク市など17の州や地域から、計58件の麻しん症例が報告され、すでに、昨年の報告数である58件に達してしまいました。

●世界的大規模の流行の危惧

パンデミックが終わり、人々の往来が再開された今、不運にも麻しんに感染している、入国や国際線乗り換えのために立ち寄る旅行客や、他国から帰国した旅行者を通じて、常に麻しんウイルスが世界中のあらゆるところから、どの国にも侵入する可能性があるというわけです。

CDCは、このような状況を、「世界的麻しんのアウトブレイク(Global Measles Outbreaks)」であるとし、アメリカを含む世界中で、麻しんの大規模な流行が(※7)発生するリスクが高まっていることを警告しています。

日本においても、麻しんの流行が懸念されている今だからこそ、ご自身の麻しんのワクチン接種歴を確認してみることをお勧めしたいと思います。

【参照URL】

(※1)https://www.jiji.com/jc/article?k=2024031300547&g=pol

(※2)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

(※3)https://www.jpeds.or.jp/uploads/files/20231211_MR.pdf

(※4)https://www.pbs.org/newshour/health/measles-cases-are-rising-in-the-u-s-heres-why-misinformation-about-the-vaccine-persists-today#:~:text=According%20to%20a%20report%20from,effective%20and%20available%20since%201971.

(※5)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

(※6)https://www.cdc.gov/measles/cases-outbreaks.html

(※7)https://www.cdc.gov/globalhealth/measles/data/global-measles-outbreaks.html

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