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Vol.47 医療費抑制政策を続けながら「医療で成長戦略」の大矛盾

医療ガバナンス学会 (2011年2月25日 06:00)


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医療費抑制政策を続けながら「医療で成長戦略」の大矛盾
医師 村重直子
(日刊ゲンダイ2011年1月27日掲載「厚労省に国民の生命は預けられない(4)」を転載)
2011年2月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


現場の医師はもうボロボロ

政府は成長戦略のひとつに医療を掲げている。しかし、その政府が医療費を抑制し、医療の市場規模を抑えようとしているのだから矛盾している。
日本は医療費抑制政策を約30年間も続けてきた。医療費増を期待された政権交代直後の2009年末、10年ぶりに診療報酬(医療費)をプラス改定した が、わずか0.19%増である。英国は2002~08年に医療費を対GDPで7.6%から8.7%に増やした。財政再建を急ぐ今も、医療費は増やす。日本 とは大違いだ。
医薬品の値段も厚労省が決める公定価格だ。薬価は2年ごとの改定で必ず引き下げられていくため、日本の新薬の値段はOECD諸国の中で最も低い水準であ る。外国のグローバルメーカーから見ると、日本市場は治験にも審査にも時間とコストがかかるにもかかわらず、承認後の薬価は下がり続け、十分に新薬開発の コストを回収できるかどうかわからない。新薬候補の中で、薬として販売できるようになるのは約2万分の1で、1つの新薬開発には1000億円以上かかると いわれる。
リスクの高い投資を回収し、なおかつ新たな薬を開発する投資を行えるだけの利益があがる市場でなければ、誰も参入しようとは考えない。医療費抑制政策で 市場を縮小させている日本よりも、大きく成長を続ける中国市場などへ参入しようと考えるメーカーが増えるのは避けられない。
医療機器の市場も医療費の約6.3%と相場が決まっており、政府が医療費を抑制している限り成長するとは思えない。国内企業シェアや国際競争力指数は下 がるばかりだ。欧米の医療機器メーカーが日本で供給する製品は欧米の約半分であり、日本国民の治療選択肢は厚労省に奪われているといえるのである。
医療費抑制によって人件費も極度に切り詰められ、人手不足も深刻だ。例えば米国MDアンダーソンがんセンターは、愛知県がんセンターとほぼ同じ規模と機 能を持っているが、職員数は100床あたり3125人と186人。日本は17分の1ほどの人数しかいない。医療者の自己犠牲精神に頼るのも、もう限界だ。 日本の医師は、当直で徹夜した後も通常勤務が続く36時間連続勤務が常態化している。患者にとっては危険な医療だ。「ネイチャー」という世界一流の科学誌 に、徹夜明け(24時間覚醒時)にはアルコール血中濃度0.10%と同程度の注意力しかないと報告されている。これはビール大瓶2本を飲んだ後のほろ酔い から酩酊初期にあたり、車を運転すると交通事故を起こす可能性は平常時の6~7倍になる(拙著「さらば厚労省」から)。こういう状態の医師に手術してもら うのが日本の医療の姿なのだ。
これでは、医師が診療しながら論文を書く余裕などない。米国やカナダの医師たちの多くは、約2割の時間を患者の診療に充て、約8割の時間を研究に充てて 論文を書く。日本の臨床研究論文数は世界12位から18位に転落し、中国に追い抜かれた。中国の論文数は2000年から毎年平均、基礎研究分野で 31.2%、臨床研究分野で22.0%も増えている。
医療者が自己犠牲精神で誠心誠意、患者のために尽くしてくれる日本の医療は素晴らしい。だが現実は「お上任せ」の結果で、ヒト・モノ・カネのすべてが足りないジリ貧医療になっているのだ。

▽むらしげ・なおこ 1998年東大医学部卒。ニューヨークのベス・イスラエル・メディカルセンター、国立がんセンター中央病院などに勤務後、厚労省へ。2010年3月退官。現在、東京大学勤務。

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