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Vol.48 情熱が最先端の研究を成就させる

医療ガバナンス学会 (2011年2月26日 06:00)


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情熱が最先端の研究を成就させる
3月12日(土) 1型糖尿病研究基金設立5周年を記念した特別シンポジウム

ベイラー研究所
松本慎一
2011年2月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【1型糖尿病(若年性糖尿病)に対する膵島移植】

私は、現在、テキサスのベイラー研究所で膵島移植の研究を行っています。膵島移植とは、インスリンが全く産生されなくなった1型糖尿病の患者さんにインスリンを分泌する細胞である膵島を移植する治療です。

私がテキサスで最初に移植した患者さんは、移植後4年に成りますが、インスリン注射から解放され、移植前にはあきらめていた車の運転も再開しています。拒絶反応を抑えるための免疫抑制剤を内服する必要はあるものの、糖尿病による日常生活の障害はほとんどなくなりました。
膵島移植が著効した例ですが、途中で膵島の機能が衰えたり、1型糖尿病の原因である自己免疫疾患が再燃したりという症例もあり、研究課題はまだまだあります。ただ、私は研究を続けることで、1型糖尿病という不治の病が、治る病気になると確信しています。

1型糖尿病とは、自分の免疫により誤ってインスリン産生細胞を破壊してしまう典型的には小児期に発症する疾患です。小児期に発症するため若年性糖尿病と も呼ばれます。比較的まれな疾患ですが、米国では100万人の患者さんがおられ、日本でも数万人の患者さんがいるとされています。通常は、発症すると一生 涯インスリン注射が不可欠となり、インスリンを続けても、視力障害、腎機能障害、心筋梗塞や脳卒中などを引き起こしやすい合併症が厄介な病気です。膵島移 植は、この厄介な病気を治すための治療です。インスリンを分泌する細胞を移植すると一見単純に聞こえる治療ですが、膵臓にあるインスリン産生細胞である膵 島をどうすれば分離できるのか、膵島をどのように移植すれば患者さんに定着するのか、移植した膵島はどうすれば長生きしてくれるのか、などなど研究課題が 山積している治療なのです。膵島移植が臨床で効果があるところまでたどり着くには実に40年以上の年月がかかっています。逆にいうと、40年間もこの研究 が脈々と続けられ、さらに研究は続くのです。

【小児糖尿病基金】

不治の病とされていた1型糖尿病を治したいという思いから、1970年にアメリカのフィラデルフィアの患者さんのご家族が「研究を通してこの病気を治す 方法が見つかるはずだ」という信念のもと研究費を集めるための基金が設立されました。そして、同じようなグループがマイアミに、そして、ニュージャージー に、ワシントンDCにも生まれました。1972年6月3日に、この4つのグループがペンシルバニアに集まり、小児糖尿病基金(Juvenile Diabetes Research Foundation; JDRF)が設立されました。その際の以下の4つの決意宣言がなされました。

1.研究こそが基金の最重要項目である。
2.社会一般に糖尿病とその合併症のすべての事実を知らしめ、研究の必要性を訴える。
3.合衆国政府に、糖尿病は国民の健康と経済を脅かす病気であることを気付かせ、糖尿病研究に対するサポートを訴える。
4.この基金は、一般の人々のボランティアによって運営する。

翌年の1973年に資金集めの最初のパーティーであるPromise Ballが開催されました。以降およそ40年の間JDRFは総額15億ドル(1200億円)の研究費を1型糖尿病の研究に提供しています。 2010年に は、JDRFは世界19カ国の研究者におよそ1億ドル(80億円)の1型糖尿病研究資金を提供しました。このような巨額のサポートを一般のボランティアの 方が作り出す源は、1型糖尿病を治したいという揺らぐことの無い「情熱」と「決意」であると彼らは述べています。膵島移植という気が遠くなるくらい課題の あった治療が本当に患者さんを治すまでの長い年月JDRFは研究者に研究費を供給し続けました。私の研究室も、今まで3つのプロジェクトに対してJDRF から研究費を受けています。私が14年前に膵島移植の研究を開始する際にも私の所属していたミネソタ大学が、そして、10年前にシアトルで膵島移植を開始 した時もJDRFから資金援助を受けました。私の研究生活は多いにJDRFに支えられてきました。患者さんの情熱と決意の現れであるJDRFからの研究費 は、研究者である私にお金以上に情熱と決意を与えます。情熱こそが、問題を解決するために最も重要で、情熱は伝染することをJDRFから学びました。

【日本にJDRFをつくりたい!】

2004年に、日本で膵島移植を開始するや否や、資金繰りをはじめさまざまな課題が浮き彫りに成りました。日本は、新しい治療を開発しそれを実際に一般 的な治療にするということが非常に難しい国です。私は、この困難さの原因は日本の制度でも、文化や知的水準でもなく、情熱の問題だと考えています。どんな 目標でも必ず成就するまでには課題が襲いかかります。その課題を乗り越えるために最も必要なことが、解決するための情熱だからです。
JDRFを日本に作りたいという思いは、情熱こそが問題を解決するということを日本中に知ってもらいたかったからです。

日本で膵島移植を開始してすぐに、日本IDDMネットワークの井上さんと岩永さんに出会いました。日本IDDMネットワークは、阪神・淡路大震災の際 に、インスリンを阪神地区に届けようという呼びかけで出来上がったネットワークだと聞き、感激しました。まさに、ボランティア精神と1型糖尿病の患者さん を救いたいという情熱を感じました。井上さんと岩永さんにJDRFのお話をさせてもらったところ、快く日本IDDMネットワークが1型糖尿病基金を作って くださることになりました。日本はアメリカと違って寄付文化がありません。ただ、日本人にも必ず情熱を持った人たちがいると私は考えていました。制度でも 文化でもなく、情熱こそが問題を解決するということが証明できる日本版JDRFである「1型糖尿病研究基金」の活動が始まりました。

【1型糖尿病研究基金】

井上さんと岩永さんが中心となり、1型糖尿病基金は目覚ましく進歩しています。阪神タイガースの岩田投手は1勝するごとに10万円を寄付すると約束して くれました。売り上げの一部が寄付金となるコカ・コーラと伊藤園の特別自動販売機、1年間無事故の場合に寄付金が発生するDOZOの自動車保険、などで す。見知らぬ人に声をかけるだけでも勇気がいるのに、寄付金をお願いするのですから、このようなアイデアは情熱がなければ到底実現できません。
このような情熱の成果として集められた研究費を使って研究するのですから、研究者も当然、1型糖尿病を何としても治すという情熱が生まれます。研究の世 界はとても大変です。1つの成功の陰には100の失敗があります。失敗するたびに、落ち込んだり、元気がなくなったりします。研究を続け、1つの成功を見 つけるためには情熱が最も大切なのです。患者さんたちのボランティアから頂いた研究費は、お金という形で、この最も大切な情熱を研究者に供給するのです。

【日本から失われたもの】

アメリカにいる私からみて、今の日本に最もかけているのが情熱ではないかと思えます。成功を目指して前向きに進むひたむきな情熱が陰を潜め、無気力や他 人の足を引っ張るような残念なニュースをよく目にします。本来、日本人は大和魂を持った情熱のある民族のはずだと私は考えています。一生懸命がんばるこ と、失敗してもまた立ち上がることは恥ずかしいことでは決してないはずです。そして、がんばっている人を応援することは、がんばることと同じくらい尊いの です。
日本政府は、いつまでも箱物やトピックにお金を供給している場合ではありません。今こそ、情熱に資金を注入するべきです。実際、米国政府はJDRFに多額の資金を供給しています。問題を解決するにも、人が動くのも、情熱が大切ということに早く気が付いてほしいものです。

【日本での挑戦】

日本IDDMネットワーク 理事長 井上です。
来月、3月12日(土)に時事通信ホールにて、法人化10周年、1型糖尿病研究基金設立5周年を記念した特別シンポジウムを開催いたします。

私たちは、松本慎一先生との出会いを契機に、2005年に1型糖尿病研究基金を設立し、5年間で合計500万円(1研究あたり100万円で5件)の助成をおこなってきました。この研究基金は、おもに患者・家族からの寄付金によるものです。

松本先生からのご紹介にもありましたように、日本では患者・家族らが「自らの病気の根治の実現」のための研究費を提供するという例は非常に珍しいというのが現状です。

3月12日(土)に開催するシンポジウムでは、「1型糖尿病 『治らない』から『治る』へ―2020年、あなたはどうしたいですか?―」をテーマに、現 在進められている研究について各分野の先生方にご紹介いただくとともに、「1型糖尿病研究基金」創設にご尽力いただいた松本慎一先生にご登壇いただき、こ れまでの活動をご紹介いただき、日本における研究費助成の促進を図ります。
また、患者・研究者を始め、行政・企業・医療者の交流の場としてサイエンスカフェをシンポジウムの企画の目玉の一つとしています。

このサイエンスカフェでは、3つのテーマ(人工膵島、膵島移植、再生医療)を設けていますが、第一線の研究者の方にご参加いただき、患者・家族らを交え て10人程度のグループで話し合うという交流の場を提供します。再生医療のサイエンスカフェについては、文科省ライフサイエンス課との協働で実施いたしま す。

私たちは、本シンポジウムを通じ、患者・家族が研究者、行政、企業の方々、さらにはメディアなどとの協働によって患者・家族の明るい未来を築いていくという姿を社会に発信していきます。

この疾患にご興味のある方、再生医療に興味のある方、研究者の皆様をはじめ、多くの皆様のご参加をお待ちいたしております。

日本で、「治らない」1型糖尿病が「治る」という社会変革に向けての本格的挑戦がスタートします!

【開催概要】
日時:3月12日(土)10:30~16:30(10:00開場)
会場:時事通信ホール(東京都中央区銀座5-15-8 時事通信ビル2階)
定員:300名(サイエンスカフェは150名)
参加費:1,500円(一般,非会員),1,000円(会員)

―――お申し込み方法―――
下記Email(sympo@japan-iddm.net)またはFAX(0952-20-2062)で、以下の必要事項を記載の上、お申し込みください。お待ちいたしております。

・会員 or 非会員
・ご氏名(お名前のよみ)
・ご所属
・連絡先の住所
・お電話番号
・Email
・サイエンスカフェ参加の有無(希望する ・ 希望しない)
※参加希望の場合、カフェの番号を記載してください。
(第一希望   、第二希望   、第三希望   )
(1)サイエンスカフェA:機械式人工膵島
(2)サイエンスカフェB:じぶん以外の細胞の移植
(3)サイエンスカフェC:じぶんの細胞からの再生
――――――――――――――

【プログラム】
総合司会 阿南貴子さん フリーアナウンサー

10:00開場
午前の部 (10:30~12:20)

開演挨拶 井上龍夫 日本IDDMネットワーク理事長)

基調講演 病気克服を目指すコミュニティーの形成
西川伸一先生 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長
幹細胞研究グループディレクター

「1型糖尿病研究基金」設立5周年を迎えて
・特別講演 1型糖尿病研究基金設立に参加して
松本慎一先生 米国ベイラー膵島細胞研究所ディレクター

・2010年度1型糖尿病研究基金助成研究の紹介
ブタ膵島によるポリビニルアルコール(PVA)マクロカプセル化膵島(MEIs)の研究
角昭一郎先生 京都大学再生医科学研究所器官形成応用分野准教授

ヒト膵細胞を用いた血管構造を有する膵島創出法に関する臨床応用
谷口英樹先生 横浜市立大学大学院医学研究科臓器再生医学教授

体内での膵β細胞再生による1型糖尿病に対する治療法の開発
片桐秀樹先生 東北大学大学院医学系研究科代謝疾患医学コアセンターセンター長

お昼休憩 12:20~13:40

午後の部(13:40~16:30)

パネルディスカッション「患者・家族と支援者との協働(コミュニティー)の姿とは」

松本慎一先生 米国ベイラー膵島細胞研究所ディレクター
石井康彦さん 文部科学省研究振興局ライフサイエンス課長
宮田俊男さん 厚生労働省医政局 研究開発振興課高度医療専門官
江島伸一さん  ノボノルディスクファーマ株式会社常務取締役
川村智行先生 大阪市立大学大学院医学研究科発達小児医学講師
棚田信子さん  株式会社ドウゾ代表取締役
井上龍夫   日本IDDMネットワーク理事長
コーディネーター 東嶋和子さん 科学ジャーナリスト

サイエンスカフェ
研究者と一緒に未来を創る座談会―2020年「どうなる?」「こうしたい!」―

サイエンスカフェA ―ウエアラブル膵島(機械式人工膵島)
~CGM+ポンプを進化させた器械を体に装着して、自動的にコントロールしたい人のために~
<参加研究者>
川村智行先生 大阪市立大学大学院 医学研究科 発達小児学 講師
西川伸一先生 理化学研究所発生・再生科学総合研究センター副センター長
幹細胞研究グループ ディレクター
西村理明先生 東京慈恵会医科大学 糖尿病・代謝・内分泌内科講師
松本慎一先生 米国ベイラー膵島細胞研究所ディレクター

サイエンスカフェB ―じぶん以外の細胞の移植
~じぶん以外(他の人、動物)の細胞・臓器を体内に移植してコントロールしたい人のために~
<参加研究者>
後藤昌史先生 東北大学未来科学技術共同研究センター 教授
角昭一郎先生 京都大学再生医科学研究所 器官形成応用分野 准教授
谷口英樹先生 横浜市立大学大学院医学研究科 臓器再生医学 教授
中内啓光先生 東京大学医科学研究所 幹細胞治療研究センター長 幹細胞治療分野 教授
小林俊寛先生 東京大学医科学研究所 中内幹細胞制御プロジェクト 研究員

サイエンスカフェC ―じぶんの細胞からの再生
~じぶんの細胞により膵島、膵臓を再生し、究極の根治を目指す人のために~
<参加研究者>
沖田圭介先生 京都大学iPS細胞研究所 初期化機構部門 講師
齋藤弘樹先生 東京大学分子細胞生物学研究所 研究員
松山晃文先生 (財)先端医療振興財団再生医療研究開発部門
膵島肝臓再生研究グループグループリーダー
宮島 篤先生 東京大学分子細胞生物学研究所 機能形成研究分野 教授
道上達男先生 東京大学大学院総合文化研究所 准教授

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