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Vol.24135 女医が考える中絶に関する権利 アリゾナでは160年前の法律が有効になることへの衝撃

医療ガバナンス学会 (2024年7月16日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年4月17日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/219929?page=1

内科医
山本佳奈

2024年7月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ちょうど1週間前の4月10日、私には衝撃的なニュース(※1)が飛び込んできました。アメリカの西部アリゾナ州の最高裁判所は、「人工妊娠中絶をほぼ全て禁ずる1864年制定の法律の効力を再び認める判断を下した」というではありませんか。

アリゾナ州が州になる前の、南北戦争時代の1864年に制定されたこの法律は、妊娠中の人の命を「救うために必要な」場合を除き、中絶提供者には2年から5年の懲役刑が科せられるというもの。

ことの発端は、連邦最高裁判所が2022年6月、中絶を憲法上の権利と認めた1973年の「ロー対ウェイド判決」を覆したことに遡ります。この決定により、州政府は中絶を厳しく禁じる法律の導入が可能になり、アリゾナ州では、妊娠15週以降の中絶を禁ずる州法が成立。これにより、160年前の法律は事実上無効化されたのか、はたまた休眠状態にあった160年前の法律が有効なのか、何カ月も議論されることになったといいます。

アリゾナ州最高裁は、1864年制定の法律の施行は14日後(4月23日)からであるとし、この法律がどのように施行されるか、また、妊娠中の人の命を救うために中絶を認める例外規定によって、どれほど小さな枠が残されるのかなど、詳細はまだ明らかになっていません。

●女性の身体に対する影響は?

アリゾナ大学の臨床法学教授であるスージー・サーモン氏は、「この法律の施行により、医師は、例えば女性の生殖能力を維持するため、女性の健康を維持するため、女性が永久的な障害を負う可能性を防ぐためなど、治療が必要であると判断される場合に、治療を差し控えなければならないという耐えがたい立場に置かれることになる」といいます。

「アメリカで、160年も前の法律が有効になるなんて」と驚いた方も多いのではないでしょうか。では、「人工妊娠中絶」に関する日本の現状はどうなのでしょうか。

日本では、明治時代(1907年)から続く堕胎罪(刑法212−216条)によって堕胎は禁止されていますが、母体保護法により、ある一定の条件を満たせば人工妊娠中絶が認められています。
人工妊娠中絶が認められる一定の条件とは、①身体的・経済的理由により母体の健康を損なう場合(原則として配偶者の同意が必要)、②暴行や脅迫によるレイプによって妊娠した場合であり、人工妊娠中絶ができる期間は、妊娠22週未満となっています。

●配偶者の同意が必要なのは11カ国

実は、日本のように、人工妊娠中絶の際に配偶者の同意を必要とする国は、世界では、日本、台湾、インドネシア、トルコ、サウジアラビア、シリア、イエメン、クウェート、モロッコ、アラブ首長国連邦、赤道ギニア共和国の、たった11か国・地域のみ。G7(先進7カ国首脳会議)では、日本のみが配偶者の同意を必要としており、実は、日本は人工妊娠中絶において、もっとも厳しい制約を設けている国なのです。

駒沢女子大学の杵淵恵美子教授(※2)はインタビューの中で、堕胎法が作られた明治時代の日本について、「明治時代の日本は家父長制で、男性が了解しないことを女性が行ってはいけない、という考え方で法律が作られていました。」「これ(堕胎法)は、現代にはもう合わないので、国連からも是正が必要だと勧告されていますが、なかなか改正されません。」といいます。

産むか産まないかを決める権利は「女性の基本的人権」であるという「Sexual and reproductive health and rights(性と生殖に関するに関する健康と権利)」(※3)は、1994年の国際人口開発会議で提唱された概念です。

The World’s Abortion Lawsによると、世界192カ国では、人工妊娠中絶の際に配偶者の同意は必要としていません。2016年、国連女性差別撤廃委員会は、配偶者の同意要件そのものの撤廃を日本政府に勧告したようですが、杵淵教授が指摘しているように、配偶者の同意が必要な日本の状況は、残念ながら変わってはいません。

妊娠することは相手があってのことですが、「産む」のは女性です。しかし、日本では、女性が「自分の体の中に起こっていることを、自分で決めることができない」のです。

こうしたアメリカと日本の「中絶」をめぐる状況を探るにつれ、160年も前の法律が有効になったアメリカはアリゾナ州での出来事に衝撃を受けた一方で、明治時代に制定された法律が改正されることなく続いている日本の現状を初めて知り、一人の女性として動揺せざるを得ませんでした。

35歳を目前にした今、「そろそろ真剣に子どもを持つことについて真剣に向き合わないと、タイムリミットがやってきてしまう」と思っていた矢先のことだったからです。

アメリカでは、中絶が禁止されている州(※4)がある一方で、中絶が合法である州、中絶に関して曖昧な州もあり、一概に議論することはできません。中絶をめぐる闘いは、州議会や裁判所で進行中であり、この中絶に関する権利は、今年の11月に行われる大統領選挙で争点となるとみられています。一人の女性として、今後妊娠を考える女性の一人として、この問題を注視していきたいと思います。
【参照URL】

(※1)https://www.bbc.com/japanese/articles/c296g8y8050o

(※2)https://cocreco.kodansha.co.jp/cocreco/general/birth/fuBBr

(※3)https://www.ohchr.org/en/women/sexual-and-reproductive-health-and-rights

(※4)https://www.cnn.com/us/abortion-access-restrictions-bans-us-dg

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