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Vol.24142 医学生、論文100本書いてみた

医療ガバナンス学会 (2024年7月26日 09:00)


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北海道大学医学部
金田侑大

2024年7月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「あんた、論文書くのもいいけど、こっちの書類書いてからにしてくれるかな」
最近、実家に帰ると、よく母に怒られる。興味があって取り組む論文は何時間でも納得いくまで向き合えるが、逆に、5分で終わるはずの気乗りしない書類の作成には、5日ほどの心の準備期間が必要だ。そうでなくとも、学校から帰ってくるやいなや、弟と庭でキャッチボールをするようなアウトドア全開で、夏休みの理科研究や読書感想文といった宿題を最終日に母に泣かされながらやっていた息子が、部屋で四六時中パソコンに向かってカタカタやっているのは、あまり慣れた気分でないのかもしれない。

この夏、私にとって、100本目の論文を発表することができた。2022年3月に初めて論文を発表してから約2年4か月。生成AIなどの技術進化や、コロナ禍の孤独時間に恵まれ、そして何より、小学校時代の宿題が家族の力で終わったように、多くの先生方のご指導や、一緒に手を動かしてくれる仲間たちに恵まれ、このマイルストーンを達成できた。本当に感謝ばかりだ。

英語論文を読んで書いてとできるようになったのは、エジンバラ大学に留学させていただけたことが大きい。私はドイツと日本のハーフでもあり、英語ができないという意識はこれまで持ったことはあまりなかったのだが、留学先で最初に出した課題では、自分が書いた英文の倍ぐらい、赤が入れられて返ってきた。
「あ、受験勉強で鍛えた英語じゃ厳しいっぽいぞ…」
この時感じた焦りから、元々の履修計画から変更して、授業としてもアカデミックライティングの講座を受講することにした。特に最初の半年間はコロナの影響もあって遊びに行くことができなかったので、毎日24時間空いている図書館に籠り、時々体を動かさないと消えてしまう電気と格闘しながら、課題と格闘する毎日だった。

論文を書くためには、背景知識を身に着け、テーマ設定の嗅覚を持つことも重要だ。この点での私を鍛えてくださった先生の一人が谷本哲也先生だ。
谷本先生は九州大学医学部を卒業後、九州大学病院や独立行政法人医薬品医療機器総合機構での勤務を経て、現在はナビタスクリニック川崎で院長を勤めている。「生涯論文!忙しい臨床医でもできる英語論文アクセプトまでの道のり(金芳堂、2019年4月刊)」という書籍の著者でもあり、先生の名前をPubmedで引いてみると、LancetやNEJMなど、333件の論文がヒットする。イギリス留学期間中、時差ニモマケズ、谷本先生が主催する勉強会には、週1回1時間、オンラインで欠かさず出席し、論文の書き方はもちろん、問題意識の持ち方や、その周辺の背景情報の調べ方まで含めて、論文との向き合い方を教えていただいた。

また、ここでは論文に取り組むために必要なメンタリティも学んだ。私は論文を「書く」ことは、今では楽しくて全く苦は感じないのだが、論文を「提出」することが苦手だったし、今も得意とは言えない。一人ひとりの著者情報の入力、そのジャーナルのフォーマットに沿った形式への調整、チェック項目の対応、Reviewerの候補者を探して入力など、たくさんの作業が求められ、提出1つだけでも、まだまだ立ちはだかる壁が多く残っている。その上、あるジャーナルでRejectされた場合には再度、別のジャーナルのサイトで、提出プロセスを初めからやり直さなければならない場合が大半だ。
「提出ぐらい1時間あればできるでしょ」
と、共著の先生からはよくお叱りのLINEをいただいた。ベッドでバタ足しながら、
「嫌だーーー!!!しんどいよーーーー!!」
と、悶えていたのも、1回や2回ではなかったと思う。

このような背景もあり、論文を書くことのハードルはお世辞にも低いとは言い難い。書きたいと思っても、最初の一歩がうまくいかず、多くの人が1本目で脱落してしまうのが現状だ。実際、世界の医療研究者の80-90%は、年1本ぐらいしか論文を書かないということも報告されている。医師になった後、日々、せわしなく患者のために動くことを考えると、意味不明なことを意味不明に考えられる、医学生の”暇”という財産は、人生でもう二度とないのではないか。そんな時間に、論文をたくさん「書く」チャンスに恵まれた自分は、とてもラッキーだったなと感じる。

最後に改めて、共著者を含め、直接的・間接的にご指導くださった皆様にお礼申し上げます。ただ研究をして論文を書くというだけでなく、それを患者に届けられるような医師になれるよう、引き続き精進してまいります。

【金田侑大 略歴】
北海道大学医学部6年生。初めての徹夜は、小学2年生の夏休みの最終日、読書感想文が終わらず泣きながら書いていた時でした。27歳になっても、相変わらず泣きながら徹夜で原稿を書き上げる僕の基礎体力と粘り強さの原点です。

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