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Vol.24154 生活に密着して「座る」を支えるチェアラボ

医療ガバナンス学会 (2024年8月14日 09:00)


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医療法人社団オレンジ
小坂真琴

2024年8月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

オレンジグループが運営に携わっている特別養護老人ホーム「すみれ荘」に拘縮が進んだ高齢女性がいた。股関節が軽く内旋するような形で変形が進み、膝関節の内側同士が慢性的に当たることで炎症を起こしていた。ここで活躍するのがオレンジグループ内にある「チェアラボ」だ。「チェアラボ」はオレンジグループの中で、姿勢保持装置の作成を専門とする会社である。「チェアラボ」が座る姿勢の評価に入り、オーダーメイドで両足の下と両ふくらはぎの間に階段状にクッションを設置することでしっかりと両足の間に隙間のある状態で座ることができるようになった。

「チェアラボ」の事業を行う松田薫さんは元々、姿勢保持装置の製造から販売までを自前で行う会社に勤めていた。販売店を増やしていく中で、「業者を挟まず医療機関のPTやOTが直接作った方がいいのではないか」と考え、協働する医療機関を探していた。その中で出会ったのがオレンジグループだったという。実際にグループ内で取り組みを始めて、「対象となる方を元から少し知っているし、作った後のフォローもしやすい。リハビリの病院で調整しても家に帰ると状況が変わることがしばしばしばあるが、生活の中に入る在宅診療だと直接生活に合わせられる。」という。

姿勢保持装置は、出生時や幼少時の病気や事故によって運動機能に不自由のある肢体不自由児・者をメインとして導入されている。身体障害者福祉法に基づき療育センターなどの医師が処方箋を発行すると、姿勢保持装置の販売会社が採型(型取り)に赴き、仮合わせ、納品と進んでいく。基礎となるバギーに、クッションをオーダーメイドで追加しながら本人にとって安楽な姿勢を追求していく作業だ。松田さんによると、「一度曲がるCカーブ、2度曲がるSカーブ、3回曲がるカーブとパターンは大体決まっている。」あとは採型の過程で「頭部が安定するように、身体各所をさせる土台をたくさん作るイメージ」だそうだ。
あるいは、訓練目的に筋力を使ってバランスを取れるように導く場合もある。セオリーは概ね決まっているが、「小児本人の姿勢の好き嫌いや、体を曲げやすい向きというものがある。普段の生活の様子の観察や親御さんへのインタビューを通じて調整していく中で、理論通りの姿勢以外にも答えがあることに20年経って気づいた」と語る。生活の中に入ってその人に合わせていくからこその視点である。

小児をメインとしているが、冒頭の例を考えると高齢者にもニーズが多いと思われる。しかしネックがいくつかある。
まずは、制作までにかかる時間と費用だ。意見書の申請が通るまで1ヶ月、その後相談と採型を兼ねた会・仮合わせ・納品の3回で完了だがここまでに3ヶ月ほどの時間を要する。徐々に身体機能の低下が進む高齢者にとって、3ヶ月は長い。そして、自費の場合には一台の費用がおよそ30−50万円である。2021年、介護保険での姿勢保持装置の利用が認められたが、これはレンタルのみであり、かつ施設入居中の高齢者には適用されない。作ってみたが機能低下が進んでうまく使えないというリスクを考えると、なかなか普及が難しいことも納得である。この点に関して松田さんは、「現実的なのは既存のクッションのレンタルだろう」と語る。
しかし一方で、「レンタル業者のメインは電動ベッド。1台で月15−20万円となる電動ベッドと比べると、10分の1 程度のクッションはなかなか売り上げに貢献しない。力を入れるのは現実的ではない」と分析する。さらに、「リハビリ病院でのサービスとしてシーティングを行ったとしても、どこにどのクッションを入れて、というのを自宅で家族が再現するのが難しい場合もあるのでは」と推察する。

私が診察している患者さんの一人に、臀部に潰瘍があるために座位を取るのが難しい方がいる。潰瘍の周りに体重がかかると激痛が走るためだ。鎮痛薬を頓服で使いながらなんとか過ごしていた。上述の座位保持装置事情を詳しくは知らないまま、チェアラボの松田さんに相談した。
評価の結果、座位保持装置自体は難しいが、臥位および立位で手すりに捕まるときの圧迫を解除できるようにクッションを調整してくださった。全体の経過として痛み止めの量が少しずつ増えてきていたが、その次の診察では少し負担が和らいだと嬉しそうだった。今振り返ると、「チェアラボ」がなければなかなか座位への挑戦やクッションを用いた除圧まで提案することは難しかったように感じる。

オレンジグループの紅谷浩之先生は「医療現場で患者さんが座ることに熱意を傾けられるスタッフは多くない。でも本人の生活を考えると座れることは大きい。」とした上で、「色んな人にとって座りやすい一つの椅子を開発して施設などに導入してもらうのも一つの手だが、現状ではまだ難しい。
シーティングクリニックをやっていると、10年前に作成した車椅子に窮屈に座っている肢体不自由者の方もいたりする。確実に状態が変わっていく高齢者においては、調整が入るという意味でもレンタルは良い選択肢の一つになるのでは」と話す。要介護者はこの20年で約2.6倍に増加し、今後もしばらく増加を続ける見通しだ。レンタルのクッションを家で調整する、という選択肢を在宅診療の医師から示せるようになれば状況の改善につながる高齢者も多いのではないかと感じた。

 

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