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Vol.24156 猛暑のアリゾナで得た真夏の教訓

医療ガバナンス学会 (2024年8月16日 09:00)


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内科医
山本佳奈

2024年8月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「お義母さんが庭で倒れて、起き上がれないまま意識がなくなって‥。救急車で病院に搬送されたらしい‥。」夫に一報が入ったのは、7月中旬のある日の昼下がりのことでした。ちょうど、家族が住むアリゾナに行く予定をしていた数日前のことでした。

アメリカで最も暑い街と言われているアリゾナの州都フェニックスといえば、非常に暑い夏と温暖な冬の砂漠気候を特徴とする、砂漠のど真ん中にある大きな街です。フェニックスでは、近年の気候変動の影響を受けて、2014年から2023年 の10年間で、最高気温が5度ほど上がり、最低気温も3度ほど上がっているそうで、気温の上昇に伴い、暑さを原因とする死亡例が10倍にも増えているようです。

では、どれくらい暑いのかというと、例えるなら、まるで顔の真横に太陽があるような暑さです。最低気温が30度を下回らないため、朝からすでに暑く、一歩外へ出てみれば、まるでオーブンの中にいるような感覚になります。本来は心地のいい夜風も、熱風になっているような有様です。

では、なぜそんな猛暑の中、義理の母は庭で倒れてしまったというのでしょうか。
もちろん、義理の母は長年アリゾナに住んでいるため、夏の猛暑を知っています。ですから、日中は滅多に外に出ないようにしているといいます。しかし、私たちの半年ぶりの訪問を知り、庭を綺麗にしておこうと、炎天下の中一人で外に出たところ、躓いて転倒してしまったようなのです。一人では立ち上がることができず、なんと30分もの間、炎天下の中、レンガのような素材の小さな石が敷き詰められた庭で、倒れたままだったといいます。

異変に気づいたのは、たまたま自宅でリモートワークをしていた家族の一人です。愛犬のシェパードが、普段とは違う鳴き方で吠え続けるので、「どうもおかしい‥!」そう思い、シェパードに誘導されるように庭に出てみたところ、義理の母が庭で倒れていたのを発見し、急いで救急車を要請したと言います。

幸い、救急車がすぐにきてくれて、近くの総合病院へ緊急搬送となりました。あらゆる検査が行われ、命に別状はないものの、重度の脱水症状、そして腕や脚の2度の熱傷に伴い、そのまま入院となったのでした。

入院してすぐは、意識は回復したものの、話しかけても反応がないことや、嘔吐が続いたそうです。しかし、入院から3日目には「お腹がすいた」「病院食は不味くて食べられない」というほどの回復ぶりで、二言目には「家に帰りたい」と言うようになりました。

「不味くて食べられないと何度も言うほどの食事とは、どんなものだろう」と疑問に思い、病院から提供された食事を見てみると、確かに、硬そうなローストビーフと、ボイルした野菜、クラッカーやクッキー、小さなパン、そしてフルーツゼリーに水と、私がこれまで見てきた日本での病院食とは程遠い食事に、「私も食べられないな‥」と思ってしまったのでした。夫によると、「お茶かと思ったら、朝はホットコーヒーがついてきていたよ」と言うではありませんか。日米の病院食の違いには、驚きを隠せませんでした。

スペイン語が母語の義理の母の部屋には、iPadが設置されていました。画面を見ると、50ほどの言語が表示されていて、必要な言語を選択すると、医療通訳者とテレビ電話を繋げることができるというような仕組みでした。

たまたま、その医療通訳の機能を利用して、義理の母の歩行機能を確認している現場に遭遇したのですが、医療通訳者を通じて、医療従事者と義理の母が、指示に従って手足を動かしたり、歩いたりと、ケアが難なくスムーズに行われているのを目の当たりにしました。テレビ電話を使うことで、通訳者のジェスチャーや表情も見ることができ、耳だけに集中するようなことがなくなるため、よりスムーズな通訳につながっていたように感じました。

義理の母の状態は日に日に回復し、ドクターの許可が降りて、6日目には退院することができました。自宅に帰ると、念の為に購入しておいた歩行器も使うことなく、自分でトイレに行くこともできれば、これまでやっていた裁縫を再開し、すっかり元の義理の母に戻ってしまったのでした。入院していたとは思えないほどの回復ぶりを見届け、私たちも、猛暑のアリゾナを離れることにしたのでした。

実は、義理の母のような猛暑の中、転倒し搬送されると言うケースは、どうやら稀ではなさそうです。

CNNの記事に よると、記録的な熱波に見舞われ、猛烈な暑さが続いた昨年のアリゾナ州では、重いやけどを負って救急搬送される患者が急増したといいます。具体的には、アリゾナ州で熱傷の治療にあたっているという病院では、熱傷病棟の45床が満床になり、3分の1は地面に転んでやけどを負った患者が占め、集中治療室にもやけどの患者が入院していて、そのおよそ半分は転んでやけどをした患者だったようです。

義理の母も退院し、ほっと一息つくことができたので、アリゾナを離れる前に、義理の母が倒れていたという自宅の庭の事故現場に行ってみることにしました。そこは、赤いレンガの素材の小さな石が、たくさん敷き詰められている一角でした。靴を履いていた時は全く気づかなかったのですが、裸足で歩いてみたところ、小石が高温に熱せられていることがわかったのでした。予想外の熱さにいてもたってもいられなくなり、「このままでは火傷する!」と思い、とっさに、庭のプールに飛び込んでしまったのでした。

今回の出来事を通して、夏は熱中症だけでなく、猛暑の中の転倒による火傷やそれに伴う脱水や熱中症にも気をつける必要があることを学びました。日本も気候変動の影響を受けて、今年の7月は、1898年の観測開始以来「最も暑い7月」になったことが発表さ れています。今年は、40度を超える気温が全国各地で観測されていることから、アリゾナだけでなく、日本でも猛烈な暑さの中での転倒は、年齢を問わず、十分起こりうることだと思います。暑い夏に必要な対策の一つとして、参考になったら嬉しいです。

 

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