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Vol.54 医師不足を加速化させているデタラメ政策

医療ガバナンス学会 (2011年3月4日 06:00)


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医師 村重直子
(日刊ゲンダイ2011年1月28日掲載「厚労省に国民の生命は預けられない(5)」を転載)
2011年3月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ポスト、給料がない医者がゾロゾロ

医師不足問題にとどめをさしているのは、厚労省が2004年に導入した臨床研修制度だ。官僚が医師「教育」に介入し、6年間の医学部時代に終わっているはずなのに、卒業後も2年間かけて内科や外科など多くの科で研修することを”全国一律”で課したのである。
どんな組織でも新入社員を短期間で回されたら、困るだろう。彼らには仕事を任せられないからだ。つまり、この制度で医師の実質的労働力は2学年分、約1万5000人分が減ったも同然なのである。
厚労省はこの制度で、平日は都市部の病院で働く医師が、医師不足地域で夜間、休日に働く慣習も”全国一律”に禁止した。これでは「医師不足」に拍車がかかるのは当然だ。

1億2700万通りの国民のニーズに応えるには、現場に多様な専門家がいることが必要だ。しかし、厚労省の”全国一律方式”では、多様な国民のニーズには応えられない。一体誰のための臨床研修制度かと思うがこれで焼け太ったのは厚労省だ。
本当に「教育」のためなら、卒業後ではなく医学部教育を充実させればよい。文科省ではなく厚労省の権限を拡大したかったから、卒業前ではなく卒業後の制度をつくったとしか思えない。
官僚が教育費や医療費を抑制しておきながら、「教育」に介入するのは本末転倒だ。

東大医学部の常勤教員数は235人だが、ハーバード大学医学校は8074人だ。医学生1人当たりの教員数は0.5人と11.1人になる。環境は雲泥の差 だ。米国では4年で医師になれるが、日本は手薄な教育環境で8年かける。それを厚労省が強要している。もし本当に「教育」のためなら、いたずらに時間を長 引かせるのではなく、財源を増やし、教員数を増やせばいい。「医師不足」なら、医師を早く送り出すのが国民のためである。
大学病院を支える医師のうち、教官・教員といった正規ポストに就けない医師は25~29歳では93%、30~34歳では76%に上る。医系大学院生や研 究生のうち、非常勤ポストさえなく無給で診療している医師は5744人。医療現場では常に、針刺し事故や感染症のリスクがあるのに、彼らは通常の社会保険 や労災にも入れない。

医療費抑制政策のせいで大学病院も診療報酬収入が減っている。大学への運営交付金も毎年1%程度削減されている。東大病院は2011年度から医師の正規 雇用ポストを12人減らすという。「医師不足」も問題だが、必要な人件費を賄えないほどの「医療費不足」「教育費不足」はもっと深刻だ。
こうした問題に対処するには、厚労省が権限を手放して臨床研修制度を撤廃し、医療費・教育費を増やすべく、政策転換することだ。

それなのに官僚は「医師の偏在」に論点をすり替え、地域枠、診療科枠など「医師の計画配置」という、次なる権限拡大を進めている。厚労省が「医師不足」をつくったのに、その張本人がさらなる過ちを犯し、「医師不足」を悪化させようとしているのである。
診療科別人数といっても、どの診療がどの科に属するかを定義するのは不可能だ。未知の疾患が発生したときの混乱も予想される。学問の自由、職業選択の自 由、居住・移転の自由なども制限する。旧厚生省は徴兵制のために生まれたような組織だが、そのDNAがいまだに根付いているようだ。こんな役所にあなたは 自分や家族の命を預けられるだろうか。

▽むらしげ・なおこ 1998年東大医学部卒。ニューヨークのベス・イスラエル・メディカルセンター、国立がんセンター中央病院などに勤務後、厚労省へ。2010年3月退官。現在、東京大学勤務。

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