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Vol.59 ワーファリンにご用心!

医療ガバナンス学会 (2011年3月9日 06:00)


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石岡荘十
2011年3月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


ワーファリンで危うく死ぬところだった。
その顛末を話す前にワーファリンについてどんな薬なのか基礎的な”常識”を説明しておく。

ワーファリンは血液をさらさらにする代表的な薬だ。心筋梗塞や心臓の弁を人工の機械弁に置き換えた弁置換手術経験者は血液が固まって血栓を作りやすくなる ため、これを防ぐために処方される。心臓病患者だけではなく慢性的な脳梗塞患者に対しても、血栓が脳に飛んで細い血管を詰まらせないように予防薬としても 使われている。

もともとは、ネズミ取りの薬剤(殺鼠剤、商品名は、強力ラットライス、強力デスモア、ネズミランチdeコロリ)として使われていた。ネズミにこの薬が入っ た餌を与えると、目の網膜内の内出血で視力が低下するため明るいところに出てくる。最終的には腹腔内の内出血で死亡するというわけだ。人間に対する治療薬 として日本で使われ始めたのは30年以上前の1976年のことだった。

よく言われるように、薬はすべて毒物であり使い方、とくにその量を間違えると、死に至る。薬として有効かどうかは、微妙な量(専門的には治療域という)の調整が欠かせない。ワーファリンは殺鼠剤に使われるくらいだから、とりわけ服用する量の調整が重要だとされている。

私は’99年心臓にある4つの弁のうち血液の出口である大動脈弁を機械弁に置き換える手術を受けて以来、毎日朝食後、この薬を飲み続けている。私の場合、 3ヶ月前までは毎日2錠(1mg×2)だったが、最近は加齢の影響もあってか、先月、血液検査の結果、効き目が落ちているとのことで、週3日は、プラス 0.5mgの処方を受け、処方箋を病院の周辺に門前市をなす薬局の一つに出した。エーザイが販売しているワーファリンは、0.5mg、1mg、5mgの3 種類の錠剤だから、処方箋に従えば私の適量は
・月、水、金 1mg 2錠と0.5mg 1錠で合計2.5mg
・残る火、木、土、日は1mg 2錠で2mg
ということになる。

ところが、である。薬局で手渡された薬をその場で確認すると、0.5mgの錠剤は見当たらず、代わりに袋に入っていたのは5mgの錠剤だったのである。つ まり、処方箋で指示された量の10倍の量のワーファリンを薬剤師が出したのだ。ここでこのことに気づかず、服用したらどんなことになるか。殺鼠剤入りの餌 を与えられたネズミになるところだったのだ。おお怖!

「人は間違う動物」、医療の世界ではTo err is human.とよく言われるが、これは酷すぎる。まかり間違えば業務上過失致死に問われかねない過ちではないか。

いろいろな薬の中で、とりわけワーファリンに対する感受性は個体差が大きい。薬の量は大概、患者の体重によって決まるが、ワーファリンは同じ体重でも、年 齢や食生活、疾患の種類などによって適量を厳密に調整する必要のある薬だとされ、同じ人でも、適量(治療域)は変わる。このため、永年この薬を飲んでいる 患者は、少なくとも月に1度は血液検査をして適量を決めなくてはならない。プロトロンビン時間測定(=PT-INR)という検査である。昔は、トロンボテ ストという検査が一般的だったが、近年はPT-INRが推奨されている。その標準値は、1.6~3.0(値が高いほど血が固まりにくい)が理想的であ る。(「1.8~3.4 の間であれば、ワーファリンの投与量は変更しないほうがよい」という報告もある)。

先月の私のINRは1.9。適正だった。そこへ、5mgを飲んだりすれば、血液は春の小川のようにさらさら流れ、体内の臓器、とりわけ脳出血のおそれもあった。

ほとんどの薬は、薬品メーカーが製造、医師が処方し、薬剤師が調剤し、患者は何の疑問も抱かず指示通り服用する。つまり水源から河口まで関係者はすべて性 善説に立っている。ワーファリンの販売元エーザイに確認すると、担当者は、「こんな間違いは初めてのケースだ」という。しかし、どんな仕事もそうだが慣れ てくると、そこに’to err’が起こる。メーカーは貴重な教訓とし、包装紙の色を変えるなどの防止策がないか検討するというが、同時に、ユーザーである患者もやばい薬について は特に確認をする努力を心がけたいものである。

(註)INR:International Normalized Ratio=国際標準比

20110224

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