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Vol.60 医学教育の現場 横浜からのレポート2

医療ガバナンス学会 (2011年3月10日 06:00)


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コアカリキュラムの実際

横浜市立大学付属病院 神経内科教授
鈴木ゆめ
2011年3月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


<コアカリキュラムの実際>

コアカリキュラムの二つの柱は学体系ごとのカリキュラムを臓器別のカリキュラムにしたことと、教育の均質化を図りminimum requirementを定めたことです。

この改革により生じた新たな手続きは、教育内容自身のみならず、作業上のエネルギーを要する結果となりました。医学部における各教室、特に基礎系は学体 系をもとに成り立っており、臓器別になっていません。臓器系統別の講義を立てるためには、基礎、臨床の神経系関係各教室くまなく都合をあわせたカリキュラ ムを作り、各教室の満足ゆくシラバスを作成すること、また、試験に際しては全教室から問題を集め、採点を依頼、結果を集める、そのつど関係教室一つ一つを まわらなければなりませんでした。採点に際しては集めた解答用紙を各教室に送り、また回収したりするのに、教室間で書類を往復したりメ−ルを交換したりし ます。この際に答案の紛失の危険もはらんでいますが、これらの作業を遂行するには医学部事務室の協力は全くありませんでした。教室に属する医師、具体的に は神経内科の臨床医が行い、各教室自前の秘書から秘書へと連絡確認を行っていたのが実情でした。各教室はその配置すら臓器別にはなっていません。この作業 を行うために、膨大な時間と消耗な長い動線が費やされました。各教室の教員の都合によってできあがったカリキュラムは、曜日、時間がばらばらで、このスケ ジュ−ルに「穴」をあけないようにするために、当教室の秘書から、教員の所属する教室の秘書へダブルチェック、トリプルチェックを行いました。

歴史に磨かれ風雪に耐えてきた学体系を大きな矛盾を生じていないにも関わらず根本的に覆すことには、それが改革の名の下であっても、疑問を感じざるを得ませんでした。解剖学、生理学、病理学、薬理学といった「学」に、教育上の不都合があるとは考えられません。
このような悲惨な状況から、基礎系教室は早々に「学体系」講義にもどしました。
一方、臨床系はその改革がなされないまま、現在まで内科も外科もないまぜになった講義が進められてきました。
臨床科目のカリキュラム改革は、文科省のカリキュラム改革を機にやっと手が付けられました。しかし、その実行には向かい風が吹いていました。

<カリキュラム改革の実際>

改善に以下のような手続きを要すことは自明でした。基礎と臨床を分け、内科系と外科系を分けて、学問体系ごとに「コマの管理」を行うということです。し かし、臓器別に組まれ、すでにずたずたにコマ移動してしまった講義を、元の通りに整然と戻すにはあまりに労力を要します。
また、事務方からは入学時に示したカリキュラム通りに進めないと、学生との契約違反になるとの申し入れがあり、新しいカリキュラムの実施は来年度入学す る学生から開始される、という気の遠くなるような改革であることがわかりました。現在の1年生から6年生までは、教科書もない混沌とした臓器別カリキュラ ムで教育が進められるわけです。この「契約」とはいったいなんでしょうか。やってみないといいかどうかわからないというのも教育者としてどうかと思います が、やってみて、やはりよくないと分かったのに、今後営々と6年間もそのへんなカリキュラムに基づいて教育を行うというのはいわゆる「いかがなものか」と いったところです。教育者として私は良心がとがめます。臨床医としては許しがたい誤診。

現行のカリキュラムがいいと思っているのは今や、そのカリキュラムを進めてきたごく一部の人たち、その人たちも、国家試験の合格率という数字に表れる結果に不安を抱いているというのが現状です。
まったく小回りの利かない教育ですが、それでもなんとか、改革に手を付けたのが、現医学部長の黒岩でした。
具体的には呼吸器内科学、消化器内科学、神経内科学、皮膚科学、泌尿器学、眼科学、精神医学などの「学体系」ごとのユニットでカリキュラムを組む、内容 としてはコアカリキュラムの一つの柱、minimum requirementを満たすことを必要条件とする、「見直し後の”新カリキュラム”によるコアカリCの時間表」と「”コアカリキュラム要綱”での項 目」との照合が教育要綱上で明瞭となるように、一覧出来るようにする、シラバスの作成、管理も、学体系ごととし、これを収集するのは学務課とするというよ うな、至極あたりまえのことです。
また、試験と合否判定は、学体系ごとに行うようにする、症候学チュートリアルPBLは、各教室にその方法、成績判定権を戻す、ということも挙げられています。
しかし、これほど当たり前の改正に対して、再び立ちはだかるのが、中期計画という巨人、そしてこの中期計画を金科玉条とする大学のしくみでした。誰が否定しても、そのあとにおこる様々なことからは否定のしようもありません。

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