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Vol.24174 伊原木隆太知事、汚染発覚後の会見で地場産品アピールを優先(シリーズ「公害PFOA」岡山・吉備中央編-7)

医療ガバナンス学会 (2024年9月12日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2024年9月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

吉備中央町長の山本雅則は、水道水の高濃度PFOA汚染に悠長な構えだった。

備前保健所から水道水汚染の連絡を受けても、すぐに町民には知らせず、水の供給を続けた。自身は地元の祭りに参加した。保健所に「町としての危機管理体制の構築ができていない」と指摘される始末だ。

保健所は県民の健康を預かる県の機関であり、県のトップは知事の伊原木隆太だ。悠長な山本に対し、伊原木はこの緊急事態にどう対処したのか。

●市長が追及された岐阜県各務原市を意識

吉備中央町が円城地区の水道水の飲用禁止を町民にアナウンスしたのは、2023年10月16日午後5時だ。

その2時間前の午後3時、岡山県庁の第2会議室で、健康危機管理対策連絡会議が開かれた。

この会議が設置されるのは、次の場合だ。

食中毒、感染症、毒物劇物等薬物その他何らかの原因により、県民の生命と健康の安全を脅かす事態(健康危機)が発生し、又は発生するおそれがある

メンバーは、以下のとおり規定されている。

議長 保健医療部長

副議長 保健医療部次長

構成員
危機管理課長、公聴広報課長、政策推進課長、総務学事課長、県民生活交通課長、環境企画課長、保健医療課長、医療推進課長、健康推進課長、生活衛生課長、医薬安全課長、福祉企画課長、産業企画課長、農政企画課長、土木部監理課長、出納局会計課長、企業局総務企画課長、教育政策課長、県警本部警務課長

目的は、以下3点を迅速かつ的確に行うことだ。

①原因究明

②適正な医療の確保

③健康被害の拡大防止

備前保健所が吉備中央町の水道水汚染に気づいたのは、10月12日だ。会議ではまず、12日以降の経緯が共有された。

保健医療部が作成した資料の中には、「参考」の記載があった。

<参考>
岐阜県各務原(かかみがはら)市においては、令和2年(2020年)11月ごろからPFOS、PFOAが目標値を上回っていたが、令和5年(2023年)7月に公表し、市長が謝罪会見を行うなどの対応に追われている。

保健医療部は、岐阜県各務原市がPFAS汚染を隠蔽し、市長が謝罪に追い込まれたことを意識していた。

事件の概要はこうだ。

岐阜県各務原市では、約7万2,000人が利用する水道水の水源地から高濃度のPFASが検出された。2020年度の調査で99ナノグラム/L、その後の検査でも最大790ナノグラム/Lを記録した。

ところが、市はその事実を約3年間隠した。2023年7月に初めて公表し、市長が謝罪。メディア各社が報じ、責任を追及した。

各務原市での事件は、吉備中央町の状況と重なる。その上、吉備中央町の濃度は1,200〜1,400ナノグラム/Lで、各務原市に比べてはるかに高い。

●後援会の政治資金規正法違反で「びっくり」

知事の伊原木隆太は、10月16日の健康危機管理対策連絡会議に参加しなかった。中国地方知事会に参加した。

伊原木は現在、岡山県知事として3期目だ。2012年、自民党や公明党などの推薦、連合の支持を受けて初当選した。知事になる前は、岡山県や広島県、鳥取県に展開する百貨店「天満屋」の代表取締役社長を14年間務めていた。天満屋は1829年の創業。伊原木は、父の伊原木一衛から社長の座を譲り受けた。

2021年12月、伊原木の後援会「いばらぎ隆太後援会」と「生き活き岡山」の政治資金規正法違反事件が起きた。

2023年9月、岡山区検が後援会の関係者2人を政治資金規正法違反の罪で略式起訴した。翌10月、岡山簡裁がそれぞれ100万円の罰金を2人に命じた。

その後開かれた記者会見で伊原木は「検察の方でいろいろ調べていただいて、不適切なことがあったというふうに認定をされたわけですので、我々の知識不足、認識不足、責任を痛感しているところです」と述べつつ、このような持論を展開した。

「我々からすると、本当に驚いたところでありますけれども、検察の皆さん、検事の皆さんも全員司法試験に優秀な成績で合格された後、法律の運用の実務をもう何年も担われている方であるのに対して、我々自身、事務所の中で司法試験を合格した人は誰もいないわけですから、我々もびっくりしたわけですけれども、そういう判断がされたということに関しては、すみませんでした。我々、とにかくこういう判断をされるとは思わず、淡々と実務をこなしていたということについて、申し訳なく思っているところでございます」

●町の対応遅れに「大変残念」

知事の伊原木が、吉備中央町での水道水汚染について、公の場で説明したのは10月26日。県庁での知事記者会見だ。汚染発覚から、すでに12日が経っていた。

冒頭、知事から説明したのは、水道水汚染についてではなかった。次の4項目だった。

・デニム製品愛用の日の取り組み
・KOUGEI EXPO IN OKAYAMAの開催
・おかやまマラソン2023
・「おかやま縁むすびネット」成婚250組達成

デニム製品愛用の取り組みについては、こう語った。

「まず、デニム製品愛用の日の取り組みについてでございます。本日10月26日は、語呂合わせで『デ(10)・ニム(26)』の日ということで、私も今日一日デニムスーツを着用して執務にあたろうと思います」

PFOA汚染について触れたのは、記者との質疑応答に移ってからだ。

「吉備中央町の浄水場から有害物質が検出された件でお伺いします。まず、この問題に対する知事の受け止めをお願いします」

伊原木は「これに関して、私がコメントするのが初めてということで」と前置きし、こう答えた。

「有害性が指摘されている有機フッ素化合物であるPFOS等を含む水質管理目標設定項目、これは水道法で定める水質基準ではありません」

「水質基準ではないのですけれども、国の通知において、検査結果の公表ですとか、関係者への注意喚起等に努めることとされているものでございます」

「そうした中で、吉備中央町の水道水で、2020年度からPFOS等が暫定目標値を超過していたにも関わらず、その対応が遅れたことについては、大変残念に思っております」

伊原木はまず、PFOAが水道法上、基準が定められていないと説明。その上で、対応が遅れたことが「大変残念」だと言った。

では、誰の対応が遅れたのか。伊原木は続けて言う。

「今月14日の立ち入り検査の際に、2020年度はPFOS等の水質検査を行っていないと、事実とは異なる説明がなされていたことについては、誠に遺憾とするところでございます」

「またそれに加えまして、日本水道協会の2020年度水道統計調査におきましても、『1ナノグラム/L未満』と、事実と異なる内容で公表をされているところでございました。水質検査結果の管理等が不適切であったと言わざるを得ない状況でございます」

つまり伊原木は、町が2020年度は水質検査をしていないと町民に説明し、水道協会には嘘のPFOA濃度を報告したことを責めた。

県は何をするのか。伊原木は、あくまでも町が中心になって対応することを強調した。

「今、吉備中央町山本町長を先頭に、必死の対応をしているところでございますし、県も全力でサポートをしているところでございます。対象区域の住民の皆さんは大変ご心配のことと思います。できる限り速やかに善処したい。吉備中央町の対応を県としてもバックアップしていきたいと思っています」

だが吉備中央町での水道水汚染は、すでに1,000人超の町民が被害に遭っている重大事だ。県自身が「健康危機管理対策連絡会議」を立ち上げている。今後、健康影響などが明らかになる可能性がある。なぜ、県が先頭に立って対処しないのか。なぜ、「サポート」や「バックアップ」止まりなのか。

●知事取材させない公聴広報課

Tansaは、伊原木に対面での取材を申し込んだ。

対応したのは、知事の取材の窓口である公聴広報課だ。

「知事ではなく、関係課長が対応します」

私は「関係課への取材は別途行なっているので、知事本人の見解を問いたい」と返した。

だが、「知事本人に直接取材するとなると、どんな問題についても知事が取材を受けないといけなくなりますので」。

事の重大さがわかっていないのだろうか。吉備中央町で起きているのは、全国最高濃度の水道水PFOA汚染だ。県の責任者である知事が取材を受けるのは当然だ。

知事は、県職員のトップであるだけでなく、選挙で選ばれた政治家だ。県の担当者は、法律や条例に基づいてしか答えられないが、知事は政治家としての判断を示すことができる。私はその旨を伝え、言った。

「伊原木さんには、政治家としての見解を伺いたい」

それでも、対面取材を拒否した。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2024年7月2日時点のものです。

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