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Vol.24176 救える命を失って~神奈川県立こども医療センター患者死亡事故~その2(1)

医療ガバナンス学会 (2024年9月17日 09:00)


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神奈川県議会議員
小川久仁子

2024年9月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

◆この文章は長文のため2回に分けて配信いたしますが、こちらから全文お読みいただけます。
http://expres.umin.jp/mric/mric_24176-7.pdf

こども医療センター死亡事故時系列
http://expres.umin.jp/mric/mric_24175-2.pdf
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2021年(令和3年)10月、神奈川県立こども医療センター(以下こども医療)で男児患者術後死亡事件が起きた。
ご遺族・父親の言葉である。涙無しには読めない内容だ。

「報告書等でいろいろと公表されましたが、子供の容態が悪くなってきた時の看護師さんの対応や事故後の遺族対応についての実際はもっとひどかったです。でも子供が亡くなったのは付き添っていながらこのようなひどい病院と見抜けず、助けてあげられなかった私の責任です。天国にいる子供に会えるなら許してもらえるまで謝りたい。苦しんでいる家族に手を差し伸べてくれた小川議員を始め県議会の方々、黒岩知事、首藤副知事、現医療局の方々には本当に感謝をしております。今後、私達のように苦しむ人がでないよう病院改革をお願いいたします。」

この死亡事件は、先進的医療による加療中の事故ではなく、術後医療体制の不備により、基礎的医療対応ができずに、失った幼い命であった。今度こそ許さないという深い怒りをもって、この死亡事件を明るみにだすことに私は取り組んできた。その1では、こども医療に院内調査報告書を公表させるまでの経過を描いた。

以下は、地方独立行政法人神奈川県立病院機構(以下病院機構)・こども医療幹部の人事刷新がはたされるまでの経過を述べる。

〇院内調査報告書公表後について

※2 https://kanagawa-pho.jp/disclosure/press240229.html

23年10月2日の質疑
「後藤院長のウソ『遺族が支援センターの仕組みを誤解』」

23年9月7日にこども医療が記者会見を行い、報告書を公表した。私が委員会で正式に求めた記者発表であっても、内容についてこども医療から説明を受けることは無い。さすがに質疑した本人である私には、直前に当局から説明があった。しかし、記者会見の様子を直接知ることはできない。録音を当局から受け取り、何度も聞き返し、疑問点を洗い出した。

こども医療後藤院長、病院機構出席A職員は、数回にわたり、異口同音に、ご遺族が、医療事故調査・支援センターの仕組みを理解していない、誤解していると発言している。「ご遺族は、支援センター調査がこども医療が設置した事故調査委員会と同時にスタートして、同時に結果がでると思っていたらしい。そういった誤解を解けなかったことがご家族に寄り添えていなかった」という内容である。記者会見の最後にも同様に発言している。しかし、これは卑劣な大嘘である。

時系列表にあるとおり、21年12月22日にこども医療幹部がご遺族宅を訪問し支援センターに調査依頼をしたと発言した。1年後の22年12月16日にご遺族がこれをこども医療に確認したところ、「あれは言葉のあやだった。支援センター調査依頼はしていない」と答えたのだ。そこで、ご遺族が支援センターに調査依頼を行ない、22年12月22日に受理されているのだ。これらの会話はご遺族がすべて録音をとっているので、真実である。

また、医療事故調査・支援センターの調査は記者会見当時はまだ開始されていないのに、その調査が開始されたかのようなコメントも発している。これは質問した記者に対して正確な答えではなかったと当局は認識していることを、私は質疑の中で確認している。
このように、事実を捻じ曲げ、虚偽のコメントを重ね、自分たちの立場を優位にしようとする、まことに卑劣な行為を記者会見でこども医療は見せた。口裏を合わせて、複数人が同様のウソを重ねている。

私は、記者会見でのこの疑問点を委員会質疑で指摘した。すると翌10月3日付け、院長・総長名で、こども医療スタッフ全員に、ウソの上塗りをする釈明文を院内メール(※3)で流している。ウソの上書きを幾重にも重ねているのだ。医療事故調査・支援センターによる第三者調査についての手続きや経過は、ご遺族に丁寧に説明されるべきものである。
ご遺族が納得のいく説明を受けられなかった、それが強い不信感に増幅していったことが、この時点で、後藤院長は全く理解していない。病院内に流すのなら、ご遺族に不信感をいだかせるような対応を自分達がしてきたことに対する釈明と謝罪であろう。こういう人物を院長に据え置いていた、病院機構の罪は深い。

※3 後藤院長が院内に流したメール(良心的な病院職員からの通報による)

2021年10月に発生した医療事故に関連して、昨日、神奈川県議会で質疑が行われました。医療事故調査・支援センターによる第3者調査について、「ご家族の希望にも関わらず当センターから第三者調査の依頼をしていなかった、先日の記者会見ではそのことを説明していなかった」と県会議員から指摘があり、それを受けて、虚偽の発表があったとも受け取れる新聞報道が本日付けでありました。医療事故調査・支援センターによる第三者調査は、院内事故調査報告書が完成した後に実施されるのが通常の手続きと理解しています。

事実は、医療事故当事者のご家族が早期から第三者調査を希望されていましたが、当センターとしては通例の手続きに則り、報告書の提出を行った時点で第三者調査を依頼する予定としており、依頼する時期についてご家族と当センターの間で認識に齟齬があったということです。結果的にセンター調査はご家族が依頼した形になっておりますが、当センターとしても院内事故調査報告書の提出後に依頼を予定しておりました。医療事故発生時点で、医療事故調査・支援センターには事故発生届は提出しております。新聞報道を受けて、職員のみなさんも疑問に感じたかと思いますので、以上、ご説明いたします。 病院長 後藤裕明 総長 黒田達夫

元に戻る。
続いて、やっと公表された院内調査結果報告書の内容について確認する質疑を行った。術後、患者はICUから一般病棟に移動してから、高熱を発し、激しい下痢もあり、意識も混濁してきた。病状が悪化しているにも関わらず、週末の当直医は手術担当医師に連絡も取らず、医療的対応を全くしなかった。病変を無視していたのだ。低カリウム血症であったことは、非常に重要なポイントであるのに、この患者さんに関わった当直医や看護師が情報共有していなかったようだし、その重要性を認識していなかったようだ。
点滴が指示されていれば、救われた命だったはずだ。強度の脱水症状があったことが、報告書から確認できるからだ。また、心停止後、45分も経過してから、心臓マッサージを開始している。これも命を救おうとする行為には思えない。

術後の基礎的医療対応をしてもらえず、患者さんが死に至った経過を、私の質疑により浮彫りにしていった。私は、実の両親、夫の両親を介護して送り、現在は夫を在宅介護している。在宅酸素、タンの吸引、点滴交換、インシュリン注射など、在宅医療の基本的経験はある。低カリウム血症が心拍を低下させること、脱水が命を奪う危険性があること、など身をもって経験したことがある。介護の経験しかない私でも、報告書の刻々と悪化する患者さんの容態に、さぞかし辛かったろうと感じた。先進的医療を施すべきこども医療において、信じられないほどの粗雑な患者対応を行い、患者を死においやったのだと私はさらに確信した。

最初にこの調査報告書を読んだ時、患者さんがかわいそうで、泣けてきたことが思い出される。命にかかわる程重症化していることに気づかない、経験の浅い研修医(小児にさわったこともない研修医だったらしいことが、後の外部調査報告書では記載されている)が担当であったことが、本当に残念である。看護師が、一人でも、「おかしい!」と感じてくれれば、助かったかもしれない命であったのだ。付き添う父親が何度も看護師に容態変化を訴えているのに、そのたびに無視されている。さぞかし、ご遺族は無念であろう。
記者会見で、4月に就任したばかりの新総長が、「救える命であった」と発言したゆえんである。また、この発言が、記者会見におけるたった一つの、こども医療の良心を表したことばであった。
また、記者会見では、私から求められて、報告書を公表することになった経過については、こども医療からは、何らコメントがなかった。まるで自ら公表決定したような態度であった。このしらばっくれた態度にも、私はあきれた。議会からの指摘などさほど問題でも無いような態度には怒りを覚える。
この日は、A保健医療局長、F副局長から誠実な答弁をいただいた。

そして、医療安全にかかる外部調査委員会を10月4日に設置するとの報告があった。調査に係る情報をどのように委員に提供するかによって当然結果も異なってくる。これまでのこども医療のやり方を見てきた私には、外部調査委員会に対して、期待は持てなかった。こども医療の情報を握る幹部を変えない限り、こども医療問題は解決しない。病院機構・こども医療における、幹部の人事刷新が、病院機構改革のカギを握っている、非常に重要な点だと私は強く提言した。

質問の最後に、私は、委員会に首藤副知事の出席要求をした。黒岩知事が、既に自民党代表質問に対して「こども医療センターを大改革する」と答弁している。大改革の方向性と、医療・福祉関係の地方独立行政法人との県の向き合い方を確認したかったからだ。首藤副知事は、こども医療でレジオネラ肺炎が発生した時や、コロナ禍でのこども医療のマスク等衛生備品の備蓄不足時にも、病院機構と対峙してくれた人である。当時の吉川病院機構理事長とも激しく意見を交わしたと仄聞している。その副知事から、しっかりとこの事件について、失われた尊い命について、考えを確認しておきたかったのだ。

レジオネラ肺炎発生時に、もっと強く動いていれば、今回の尊い命を失わずにすんだのではないか?と私でさえ、激しく後悔したくらいだ。直接吉川理事長と激論した首藤副知事の心中はどのようであったろうか?首藤副知事は、黒岩知事、吉川病院機構前理事長、黒田こども医療新総長などを、ご遺族宅に数回にわたり同行した、と私はご遺族関係者から確認している。ご遺族の副知事に対する信頼も厚かったそうだ。そういう努力をした副知事からどういう答弁がでてくるのか?私は期待しながら、約束の6日を待つことにした。

23年10月6日の質疑
「副知事が語るこども医療・大改革の行先」

この日は、質疑の前提として、レジオネラ肺炎発生時からの流れを、私は丁寧に説明した。なるべく多くの議員、県民の皆様に、こども医療の不誠実さを理解してもらいたい、という思いからだった。
8月に脳動脈瘤クリッピング手術(開頭手術)を受け、まだ痛みが残る中で、大事な質疑を行えるかどうか?私は自分に自信がもてなかったが、何とかこの質疑を完了させることができた。サポートしてくれた仲間に心から感謝をしたい。

つづく

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