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Vol.24180 カスタマーハラスメントへの医療機関の対応

医療ガバナンス学会 (2024年9月20日 09:00)


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こちらは月刊集中9月末日発売号への一部転載原稿です。

井上法律事務所所長、弁護士
井上清成

2024年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.カスタマーハラスメントから医療機関職員を守る対応

医療機関に対するクレームの中には、過剰な要求を行ったり、医療や附帯サービスに不当な言いがかりをつける者もある。不当・悪質なクレームは、医療機関職員に過度に精神的ストレスを感じさせるとともに、通常の業務に支障が出るケースも見られるなど、医療機関や職員に金銭、時間、精神的な苦痛等、多大な損失を招くことが想定されるであろう。したがって、医療機関は不当・悪質なクレーム(いわゆるカスタマーハラスメント)に対して職員を守る対応が求められる。

そこで、早ければ来年にも労働施策総合推進法が改正されて、セクハラ・パワハラと同様に法規制が実施される見込みらしい。
(本稿は、2022年2月のカスタマーハラスメント対策企業マニュアル作成事業検討委員会、令和3年度厚生労働省委託事業、東京海上ディーアール株式会社受託、厚生労働省作成の「カスタマーハラスメント対策企業マニュアル」より抜粋し、医療機関用にアレンジしたものである。)

2.「令和2年度 厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査」によると、顧客等からの著しい迷惑行為(カスハラ)の内容は、次のとおりであった。
(1)長時間の拘束や同じ内容を繰り返すクレーム(過度なもの) 52.0%
(2)名誉毀損・侮辱・ひどい暴言 46.9%
(3)著しく不当な要求(金品の要求、土下座の強要等) 24.9%
(4)脅迫    14.6%
(5)暴行・傷害 6.5%
(6)その他   4.9%
(調査対象:過去3年間に顧客等からの著しい迷惑行為を受けた者(n=1200))
(出典:令和2年度 厚生労働省 職場のハラスメントに関する実態調査)

3.カスタマーハラスメントの定義

医療機関のカスタマーハラスメントを定義したとすると、次のようになるであろう。

(1)「患者・家族等からのクレーム・言動のうち、当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして、当該要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なものであって、当該手段・態様により、医療機関職員の就業環境が害されるもの」
・「患者・家族等」には、実際に医療を受けた者だけでなく、今後受ける可能性がある潜在的な患者・家族等も含む。
・「当該クレーム・言動の要求の内容の妥当性に照らして・・・社会通念上不相当なもの」とは、患者・家族等の要求の内容が妥当かどうか、当該クレーム・言動の手段・態様が「社会通念上不相当」であるかどうかを総合的に勘案して判断すべきという趣旨である。
・患者・家族等の要求の内容が著しく妥当性を欠く場合には、その実現のための手段・態様がどのようなものであっても、社会通念上不相当とされる可能性が高くなると考えられよう。他方、患者・家族等の要求の内容に妥当性がある場合であっても、その実現のための手段・態様の悪質性が高い場合は、社会通念上不相当とされることがあると考えられる。
・「医療機関職員の就業環境が害される」とは、医療機関職員が、人格や尊厳を侵害する言動により身体的・精神的に苦痛を与えられ、就業環境が不快なものとなったために能力の発揮に重大な悪影響が生じる等の当該職員が就業する上で看過できない程度の支障が生じることを指す。

(2)「患者・家族等の要求の内容が妥当性を欠く場合」や、「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当なもの」の例としては、以下のようなものが想定される。

①「患者・家族等の要求の内容が妥当性を欠く場合」の例
・医療機関の提供する医療に瑕疵・過失が認められない場合
・要求の内容が、医療機関の提供する医療の内容とは関係がない場合

②「要求を実現するための手段・態様が社会通念上不相当な言動」の例
(ⅰ)(要求内容の妥当性にかかわらず不相当とされる可能性が高いもの)
・身体的な攻撃(暴行、傷害)
・精神的な攻撃(脅迫、中傷、名誉毀損、侮辱、暴言)
・威圧的な言動
・土下座の要求
・継続的な(繰り返される)、執拗な(しつこい)言動
・拘束的な行動(不退去、居座り、監禁)
・差別的な言動
・性的な言動
・医療機関職員個人への攻撃、要求

(ⅱ)(要求内容の妥当性に照らして不相当とされる場合があるもの)
・入院・治療の継続の要求
・金銭補償の要求
・謝罪の要求(土下座を除く)

4.患者・家族等からの行為の具体例

http://expres.umin.jp/mric/mric_24180-1.pdf

実際の一般企業への調査によると、正当な理由がなく過度に要求する事案や対応者の揚げ足を取って困らせる事案が多く見られたらしい。また、コロナ禍でのマスク着用、消毒、窓開けに関する強い要望に関連するトラブル事案も見られている。なお、直接的な暴力行為は多くはなかったが、一部で不法侵入や脅迫、わいせつ等刑法犯の可能性のある行為も見受けられた。

http://expres.umin.jp/mric/mric_24180-2.pdf
(参考;カスタマーハラスメントが抵触する法律)

5.法律事務所での弁護士対応例
カスタマーハラスメントの悪質なものについては、刑事罰を求めることも含めて、弁護士に依頼する方が適切なことも多い。
(1)一応の説明文書の作成・交付
ひと通りの説明をしさえすれば、あとは無理せずにTPOによりけり。
通常は、一応の説明文書を作成して交付して、誠実な対応は終了。
(2)暴行脅迫風又は威力・虚偽風説流布業務妨害風のものは110番通報
粗暴なものは、すぐに110番通報、又は、警察署の生活安全課に相談して、急場をしのぐ(弁護士に相談しながら)。被害届や刑事告訴も適宜に行う。
(3)弁護士名義の内容証明郵便による警告又は説明
内容やニュアンスは、警告だったり丁寧な説明だったり、ケースバイケースで。悪質な者には、訴訟や仮処分も。
(4)診療関係調整調停申立てによる鎮静化
「診療関係調整調停」という類型(筆者の発案による造語)の民事調停を、地元の簡易裁判所に申し立てて、あとは弁護士が対処してしまう。

 

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