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Vol.24188 祖父母が認知症の医者が思うこと 帯状疱疹ワクチンでリスク低下?研究発表相次ぐ

医療ガバナンス学会 (2024年10月3日 09:00)


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この原稿はAERA dot.(2024年8月7日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/230290

内科医
山本佳奈

気象庁(※1)は8月1日、日本における7月の平均気温は、昨年同月の記録を1.91度上回り、1898年の観測による統計開始以降、「最も暑い7月であった」ことを発表しました。今月も、特に前半にかけて、広い範囲で最高気温が35度以上の猛暑日となる厳しい暑さが続くといいます。7月に引き続き、熱中症警戒アラートなどに注意し、室内でのクーラーの適切な使用や、アラートが出た際には、不要不急の外出を控えるなど、「危険な暑さ」に対する警戒が必要だと呼びかけています。

ちなみに、認知症を患っている私の祖母は、こんな危険な暑さの中でも、クーラーをつけず、何枚もの服を着込み、夜は冬用の毛布をかぶって寝ているといいます。日本の友人からは「地獄のような暑さ」だと連絡が来るほどの猛暑の中で、体調を崩してしまわないか、熱中症を起こさないかと、気が気でなりません。

以前、「自分の祖母の認知症のリアル(※2)」というタイトルで、認知症を患う父方の祖母と、そんな祖母を見守る私の両親を見て、思ったことや感じたことを書きました。最近になって、母方の祖父も、軽度の認知症を患っていることも判明しました。

祖母や祖父が認知症を患ったことで、「いつか私も歳を取ったら、認知症を患うのではないかと……」と、遠い将来に対する漠然とした不安を感じるようになりました。そして自分自身が認知症を患った時には、「認知症を患っている」ということが自分には分からないのですから、怖さすら感じるようになりました。

まだまだ未解明なことが多く、謎に包まれた認知症ですが、認知症に対する研究は、近年、着実に進んでいるようです。

●認知症予防の最新の報告

一つ目にご紹介したい最新の報告は、2024年7月31日に医学誌ランセットに公開された「認知症予防、介入、ケア2024(※3)」です。この調査結果によると、認知症の症例の約 45% は、幼少期から生涯にわたって、人生のさまざまな段階で 14 の認知症リスク要因に対処することで、認知症を予防または遅らせることができる可能性があるというのです。

では、認知症を予防できるかもしれない14のリスク要因とは、どんなものなのでしょうか。報告書では、「教育水準の低さ、頭部外傷、運動不足、喫煙、過度のアルコール摂取、高血圧、肥満、糖尿病、難聴、うつ病、大気汚染、社会的接触の少なさ、高コレステロール、視力低下」の14項目が挙げられています。

著者らは、今回、新たに40歳前後の中年期の高コレステロールは認知症症例の7%と関連しており、高齢期の未治療の視力喪失は症例の2%と関連していたことがわかったことに加えて、世界中で認知症を発症する人の最大の割合に関連するリスク要因は、「高コレステロール、聴覚障害、幼少期の教育不足、老後の社会的孤立」の4つであることを発見したと述べています。

とはいえ、大気汚染や幼児教育など、個人だけでは対処できない項目が挙げられているのも事実です。そこで、著者らは、14のリスク要因に基づいて、認知症の予防やより適切な管理に役立つ13の政策およびライフスタイルの変更も、報告書の中で推奨しています。

例えば、政府機関に対する政策指針として、質の高い教育がすべての人に提供されるようにすること、喫煙や過度の飲酒のリスクとその防止方法に関する情報を提供すること、価格を統制すること、公共の場での喫煙を防止することなどを推奨しています。

また、ライフスタイル面では、例えば、認知機能を刺激する活動に参加すること、接触スポーツや自転車に乗る際には頭部を保護すること、定期的に運動をして、健康的な体重を維持すること、肥満をできるだけ早く治療すること、40歳からは収縮期血圧を130mmHg以下に維持すること、そのほかうつ病、難聴、視力低下、高コレステロールの治療をすることなどを推奨しています。

この調査結果を受け、アメリカ神経学会フェローのフィニー博士(※4)は、「これらの危険因子の完全なメカニズムについては、さらに調査する必要があるものの、この研究結果は、脳の身体的発達と健康を促進し、脳へのダメージを防ぎ、脳への刺激を高めて維持するという組み合わせによって、脳の健康と機能を助けうることを説明している。」と述べています。

●最新のリスク軽減の報告

2つ目にご紹介したいのは、2024年7月25日にネイチャー・メディシン誌(※5)に掲載された「帯状疱疹ワクチン(一般名:乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、商品名:シングリックス)は認知症のリスクを軽減する可能性がある」という最新の調査報告です。

帯状疱疹については、以前に「ズキズキ痛い帯状疱疹(※6)女性に多く、痛みが十年以上続くことも!?」(※6)と「コロナとの合併症で帯状疱疹増加『水ぶくれが突然我慢できない痛みに』その理由は?」(※7)で解説しました。50歳から70歳の人に多く見られる帯状疱疹ですが、若い世代でも発症する可能性のある疾患です。

さて、その最新の調査報告によると、ゾスタバックス(弱毒生帯状疱疹ワクチン、2006年にアメリカで認可された帯状疱疹ワクチン)を接種した65歳以上の約10万人と、シングリックス(乾燥組換え帯状疱疹ワクチン、2017年にアメリカで認可された帯状疱疹ワクチン)を接種した65歳以上の約10万人を比較したところ、帯状疱疹ワクチンの接種から6年以内に認知症と診断された確率は、シングリックスを接種した人の方が、ゾスタバックスを接種した人より17%低いことが分かったというのです。

また、男女に分けて解析すると、ゾスタバックスを接種した女性と比較して、シングリックスを接種した女性はその後 6 年以内に認知症を発症するリスクが 22% 低く、シングリックスを接種した男性ではリスクが約 13% 低かったことも判明しました。

さらに、シングリックスを接種した高齢者と、インフルエンザワクチン、およびジフテリア・百日咳(ぜき)・破傷風の混合ワクチンを接種した高齢者を比較したところ、シングリックスを接種した高齢者の認知症リスクは、インフルエンザワクチンを接種した人に比べて23%、混合ワクチンを接種した人に比べて28%、それぞれ低いことが明らかとなったのです。

現時点では、あくまでも、帯状疱疹ワクチンを接種する目的は、帯状疱疹を予防するためです。さらなる調査が進み、帯状疱疹ワクチンが確実に認知症にリスク軽減に効果をもたらすと確信できる日が来ることを期待しつつ、定期的な運動を続け、健康的な体重を維持することから取り組みたいと思います。

【参照URL】

(※1)https://scienceportal.jst.go.jp/newsflash/20240802_n02/

(※2)https://dot.asahi.com/articles/-/210876?page=1

(※3)https://www.thelancet.com/commissions/dementia-prevention-intervention-care

(※4)https://www.cnn.com/2024/07/31/health/dementia-childhood-risk-factors-study-wellness/index.html

(※5)https://www.nature.com/articles/s41591-024-03201-5

(※6)https://dot.asahi.com/articles/-/99357?page=1

(※7)https://dot.asahi.com/articles/-/14234?page=1

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