医療ガバナンス学会 (2011年3月21日 16:00)
この原稿を作成するに当たり、ボランティアとして協力してくれた西尾浩登さんに感謝したい。司法試験に合格し、司法修習を待っている前途有望な若者だ。国難と聞いて、被災者救済にはせ参じてくれた。
【どのような患者か】
オリンピックセンターには、7透析クリニックから計213名の患者と、家族の付き添いが10名、また各々の施設から医療スタッフ39名が宿泊されてい た。当初は300名の予定だったのだが、すぐに約100名が同所での治療継続が困難と判断され、いずれかの施設に入院・入所となっていた。
最高齢は94歳、ほとんどの方が60歳代半ば以上と比較的高齢である。213名中、歩行困難等で車いすを使用している方が10数名、また、約半数の方が老 健レベルの認知症があり、ADL自立困難と判断されていた。残り半数の方々は、自宅では普通に生活出来ていたのかもしれない。しかし、家族や住み慣れた町 と離れては、外出もままならない様子だった。
まだ混乱が続いているのだろう、受け入れ透析施設の数を質問したが、回答は得られなかった。遠くは渋谷区から江戸川区まで通院している。交通手段はタクシーで、都からチケットが支給されていた。
【住環境と運営上の問題点】
避難所といえば、学校の体育館のイメージがあるが、オリンピックセンターの住環境は悪くなかった。一言で言えば、運動部の合宿所である。実際、全国各地から運動部の合宿を引き受けており、企業の新人研修などでも使用されている施設である。
それでも、やはり長期滞在を前提とした作りではない。2~4人部屋での生活が長期化すれば、ストレスが溜まるのではないか。ましてや食事に関しては、ちょっとしたアレンジさえ期待出来ない。
今回、最大の問題は、同所を使用できる期間が3月24日までと限られていることだ。22日には近隣の教育国際センターが100名を受け入れる予定であるが、残りの方については未定である。
ここで注意しなければならないのは、集団医療疎開の現場においても、運営は各々もといた透析施設のスタッフによって行われる、ということだ。ウエイト の管理から食事指導、急変時の処置など、つきあいの長いスタッフでないと対応できない。だから、宿泊施設も透析施設毎に割り振る以外なく、どこの施設に移 ればよいか、患者+付き添い家族+医療スタッフの数を元に検討すべきだ。残念ながら行政はそのような視点を欠いており、あくまで患者数のみで割り振りを考 えているようだ。
また、当然ながら、同行している医療スタッフにも生活がある。現在は非常時であり24時間寝食を共にしているが、長期間この体制は維持できない。交代 時など医療スタッフの人数に幅があることも認識していただきたい。(計7施設のうち、最も患者が多い施設では66名、少ない施設では1名である。細かな調 整が必要である)
オリンピックセンターが24日までしか使用できない理由は、企業の新人研修などの予定が入っているからのようだが、もう少し都合がつかないものか。相 手先に交渉する余地がありそうだが、都、オリンピックセンター、先約相手のどこから話を通せばよいか分からず、難航している。
【医療スタッフへの配慮は十分か】
医療スタッフの献身的な働きには驚かされた。聞けばご自身も被災者の方も多く、ご自宅が避難地域にあたる方が大半である。表には出さないが、ご家族のことも気掛かりであろう。
また、給与のことなど全く検討されていないようだ。雰囲気から察するに現場スタッフから要求は出てこないのではないか。あるいは院長のポケットマネーから支払われることになるのかもしれない。保険診療として算定できるなど調整が必須である。
【急変時対応を可能とする関係性構築を】
避難後1回目の透析が行われ、患者に笑顔が戻ったとのことである。断水の影響からか、大半がドライウェットを割っていたそうだ。しかし、今後、問題が長期化するにあたり、心不全など急変時の対応が問題となるだろう。
繰り返すが、集団医療疎開を必要とする患者は、認知症などなんらかのADL問題を抱える患者である。であるから、現地から医療スタッフが付き添ってお り、急変時、まず対応するのはその医療スタッフである。急変時、患者を搬送する場合、我々は長年顔が見える距離で培ってきた信頼関係に依存する。そのよう な関係がない場合、119番通報で十分と言えるのか。ささやかな懇親会などでもよい、周辺施設との関係性構築へ支援が必要である。