医療ガバナンス学会 (2025年1月30日 09:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2025年1月17日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2025/01/17/203320
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2025年1月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
重症のうつ病患者の70%が無快楽症になっているという。無快楽症になると喜びや楽しみを感じない。なかなか普通の人には理解しにくい表現だが、私は某新聞事件以降15年間、心の底から笑えたことがないので、症状の軽重はあるだろうが、漠然と無快楽症が実感できる。楽しいはずのことや嬉しいはずのことが、心に響かないのだ。
マウスは普通の水と甘い水があれば、甘い方の水を飲む傾向にあるが、ストレスを受けると好みがなくなるそうだ。少し難しくなるが、ストレスを受けた場合に、脳にある偏桃体と海馬という部分の間の通信が強いマウスは無快楽症になりにくく(ストレスに強く)、甘い水を飲み続けるとのことだ。
今日は阪神淡路大震災から30周年の日だ。2011年には東日本大震災があった。前者では6000名以上が、後者では20,000名以上(行方不明を含む)が犠牲となっている。昨年は能登半島地震があった。家族を失う、友人を失う、家を失うことは大きなストレスだが、大震災ではこの3つを同時に失う人も少なくない。阪神大震災後30年たっても、亡くなった家族や友人を思い浮かべ悲しくなる人は約60%いるという。
悲しかった気持ち、苦しかった気持ち、不快だった気持ちが大きければ大きいほど精神的なダメージは強く長く残るが、これにも個人差がある。喜怒哀楽というが、ストレスはこの4つから喜びと楽しみを奪い去り、時として怒る気持ちさえ消え失せさせる。それにしても、この国の大災害対策には、「ストレスを受けた被災者の心のケア」が欠如している。
復旧・復興というが、インフラだけが元通りになっても、悲しみで沈んだ気持ちは癒されない。コンクリートで金儲けにいそしむよりも、人を大切にする心を育むことを忘れないでほしい。