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Vol.25020 防げたはずの水道水汚染/廃棄物処理法の「抜け穴」見過ごす環境省(シリーズ「公害PFOA」岡山・吉備中央編-17)

医療ガバナンス学会 (2025年2月3日 09:00)


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Tansaリポーター
中川七海

2025年2月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

吉備中央町で起きたPFOA汚染の原因は、企業が排出したPFOA含有活性炭の15年にわたる放置だ。町内にある活性炭リサイクル業者・満栄工業が町外の企業から引き受けた。

PFOAが毒性物質であることは、製造・使用企業はもちろん、政府も知っている。2021年には経産省が製造も輸入も禁止した。PFOAを環境中からなくしていこうということであり、産業廃棄物として処分する必要がある。

ではなぜ、吉備中央町にはPFOAを含んだ活性炭が長年放置されていたのか。廃棄物処理法違反ではないのか。

廃棄物行政を担う環境省を取材した。

●「廃棄物」か「資材」かは企業次第

仕事納め間近の2023年12月27日、私と編集長の渡辺周は東京・霞ヶ関にある、環境省の廃棄物規制課を訪れた。

この課は名前のとおり、廃棄物に関する業務一般を扱う部署だ。廃棄物の取り扱いや処分方法に関する指導をはじめ、不法投棄対策などを担っている。「吉備中央町でのPFOA汚染問題において、どこに責任があるのかを明らかにしたい」と取材を申し込んでいた。

3人の職員が応じた。

切川卓也 (課長補佐)
三原利教 (課長補佐)
矢谷元春

汚染発覚以降、廃棄物規制課が岡山県や吉備中央町とどのようなやりとりをしているのかを尋ねた。

ところが、「こちらには(問い合わせは)来ていないですね」。嫌な予感がする。

なぜ、廃棄物規制課として対応しないのかを尋ねると、こう返ってきた。

「『廃棄物』として処分しますっていう意思があれば『廃棄物』として扱っていくのですが、活性炭自体は通常は再生して使われているので、その場合は『資材』になるので。そうすると経産省の担当で、『資材』としてしっかりとやっていくということになります」

要は、こういうことだ。

・満栄工業が放置した使用済み活性炭は、「廃棄物」ではなく「資材」である

・使用済み活性炭を「廃棄物」と見なした場合は環境省、「資材」と見なした場合は経産省の管轄になる

・よって、本件は環境省廃棄物規制課の業務外である

では、「廃棄物」として処分する意思を示すのは誰なのか。一体誰が、どういう基準で「廃棄物」か「資材」かを決めるのか。

「使用済み活性炭を『廃棄物』とするか『資材』とするかは、活性炭の所有者のご判断になります」

「(所有者が誰であるかは)事業者間の契約です」

企業自身が決定できるということだ。吉備中央町のケースに照らせば、満栄工業とその取引先の判断で決まるということになる。

●国際条約で「廃絶」が定められたのに

廃棄物処理法の対象になるかどうかの重要な判断を、企業任せにしてもいいのか。

そもそもPFOAは、日本も批准する国際条約「ストックホルム条約」で2019年に「廃絶」が定められた毒性物質だ。人体に悪影響を及ぼすほどの毒性の強さと残留性の高さがあることが理由だった。この認定を受け、日本でも2021年に製造・輸入が禁止された。

廃棄物として処理されなければ、新たな汚染を引き起こすことが目に見えているのではないだろうか。実際、吉備中央町では水道水汚染という最悪の事態を引き起こした。

逆に廃棄物と見なされていれば、廃棄物処理法に基づいた処理がなされる。廃棄物の排出元から、運送会社、受け入れ業者、最終処分者までを明らかにし、自治体に届け出る決まりになっている。今回の汚染は防げたはずだ。

●岡山県に丸投げの環境大臣

「廃棄物」か「資材」かの判断を企業に任せているならば、PFOA汚染を防ぐための環境省の役割は何なのか。

課長補佐の切川が挙げたのは、民間企業からの問い合わせへの対応だった。

近年、「PFOA含有の廃棄物が出たんですけど、どうすればよいですか」という民間企業からの問い合わせが増えているという。これに対して廃棄物規制課は、2022年9月に自身の課が出したガイドライン「PFOS及びPFOA含有廃棄物の処理に関する技術的留意事項」を示し、高温での焼却処分などの記載の方法を参照するよう案内しているという。都道府県から相談があれば、それにも助言をするという。

この程度なら、PFOA汚染対策での環境省の存在価値はほとんどないと言わざるを得ない。

国会でも、吉備中央町でのPFOA汚染について、環境省は批判された。

2024年2月8日、衆議院予算委員会で、宮本岳志(共産)が取り上げた。

「岡山県吉備中央町で、驚くべき濃度のPFOAが水道水から検出されました」と切り出し、汚染源についても満栄工業の名前を出して指摘した。

「岡山県が汚染源を調査したところ、奥吉備街道と書かれた広域農道沿いの資材置場、ここは満栄工業という活性炭の製造や処理を行う会社の資材置場でありますけれども、そこにはフレコンバッグに入れられた使用済み活性炭が山積みにされておりました」

宮本は検出されたPFOAの値を読み上げ、環境大臣の伊藤信太郎に対して、「大臣、基準値の9万1000倍とか1万5000倍とか、こんなことがあってよいのか、大臣の所感をお伺いしたい」と問うた。

大臣の伊藤の答弁は、たった一言だった。

「基準値を大幅に上回るPFOAが検出されたことは大変遺憾だと思います」

伊藤の答えに宮本はこう述べた。

「このことを見たときに、岡山県任せで済むような問題ではないんです」

宮本は、満栄工業が引き受けたPFOA含有活性炭がどこから来たのかも尋ねた。

「この高濃度に汚染された活性炭、汚染源ですけれども、岡山県もこの活性炭が原因であろうとおっしゃっているわけですけれども、これは一体どこから来たものなのか、環境省はつかんでおられますか」

同社に引き渡した企業が、廃棄物ではなく資材だと判断している可能性が高い。そのことで廃棄物処理法の規制を逃れているのだから、重要な質問だ。だが大臣の伊藤はこう答えた。

「御指摘の活性炭については、岡山県からはその出どころは不明だと聞いております」

そしてこう続けた。

「環境省としては、引き続き、岡山県と連携しながら、情報の収集を努めてまいりたいと思います」

環境省のトップは、県任せの姿勢を貫いた。丸投げされた岡山県はどう対処するのか。

=つづく
(敬称略)

※この記事の内容は、2024年9月17日時点のものです。

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