医療ガバナンス学会 (2025年2月5日 09:00)
この原稿はAERA dot.(2024年11月27日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/241637?page=1
内科医
山本佳奈
2025年2月5日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
その当時から「閃輝暗点」という片頭痛の前兆の一つである現象も経験していました。閃輝暗点とは、視界の中にキラキラ・ギラギラした模様がみえ、それが視界を遮るように次第に周辺に拡大していく現象です。
芥川龍之介も、この閃輝暗点に悩まされていたようです。彼は、経験を1927年に発表された「歯車」と言う小説の中で閃輝暗点を「歯車」と表現し、〈僕はこう云う経験を前にも何度か持ち合せていた。歯車は次第に数を殖やし、半ば僕の視野を塞ふさいでしまう、が、それも長いことではない、暫らくの後には消え失せる代りに今度は頭痛を感じはじめる、――それはいつも同じことだった。〉と一連の現象を作品の中で表現しています。
●片頭痛は睡眠不足や気圧の変化で
片頭痛(※1)は、睡眠不足や気圧の変化、食事を抜いた時などの空腹、光や匂いといった感覚への過度の刺激、ストレスなどが引き金となって発生すると言われています。脈打つような頭痛やズキズキとする痛みが頭の片側または両側に生じ、明るい光や大きな音、特定の匂いによって頭痛が悪化し、吐き気を伴うことが多いです。発作の頻度や重症度は人それぞれであり、一般に頭痛は数時間から数日続くと言われています。
また、片頭痛の患者の約25%は発作の前に前兆がみられることが知られています。その前兆が、芥川龍之介が「歯車」と表現した閃輝暗点です。ギザギザに走る光、チカチカする光、または閃光が見えたり、視野に盲点ができ、その周囲がチラチラ光って見えたりする前兆が、数分から1時間程度続くのです。頭痛が始まると次第に消失する場合もあれば、継続することもあります。
私の場合、幼少期は閃輝暗点の後、頭痛に悩まされることが多く、頭痛薬もそれほど効かないため、頭痛が治るまで寝込むことも多かったのですが、大学で片頭痛について学び、自分の頭痛が片頭痛だったことを知り、それからは、片頭痛の薬を常備することで、ひどい痛みに悩まされることも減っていきました。片頭痛が出てきたと思ったら、すぐに片頭痛薬を内服して横になることで、痛みも軽減することも次第にわかり、それからはうまく片頭痛と付き合っていくことができたのでした。
日本にいた時は月に数回ほど悩まされていた片頭痛でしたが、年間平均降水日数は、たったの40日前後というサンディエゴの恵まれた天候のおかげもあるでしょう。片頭痛の頻度は年に数回程度に激減し、片頭痛はすっかり改善したように思われました。
●今年になって片頭痛に
しかし、今年になってからというもの、閃輝暗点が約2カ月に一回の頻度で出現するようになったのです。特に最近は、朝起きてすぐに閃輝暗点が出ることが多く、そんな時は、起床後もしばらく横になったまま、閃輝暗点が消えていくのをじっと目を瞑って待ちます。
30分から1時間程度で閃輝暗点も消えていき、吐き気もすっと消えていきます。昔のように閃輝暗点の出現後に頭痛に悩まされることもないのは幸いですが、ギザギザ・チカチカする小さな歯車が見え始めると、横になってそれらが消えていくのを待つしかありません。
常備薬も飲み切ってしまい、再び片頭痛の前兆に悩まされるようになってしまった今、どれだけの医療費がかかるのか不安でいっぱいですが、そろそろアメリカの医療機関を受診しようと思っています。日本では、国民皆保険制度のおかげで、必要な時に金額の心配をすることなく医療機関を受診し、必要な薬を処方してもらえていましたが、アメリカでは金銭的な面から、そう簡単にはいきません。日本の医療環境がいかに素晴らしくありがたかったのかを、日本を離れて初めて、痛感している今日この頃です。
【参照URL】
(※1)