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Vol.86 被災地での医療体制の復興

医療ガバナンス学会 (2011年3月25日 22:00)


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北海道大学大学院医学研究科
社会医療管理学講座
医療統計・医療システム学分野
助教 中村利仁
2011年3月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


まず、3月11日午後2時46分頃に発生した、東北地方太平洋沖地震で被災された皆様にお見舞い申し上げると共に、亡くなられた皆様のご冥福と、親しいご家族・ご友人を亡くされた皆様の御悲嘆の一日も早く癒されることを、心よりお祈り申し上げます。

地震と津波による未曾有の被害は、関係者の皆さんの懸命の努力によって、3月23日(水)現在、特に内陸部の物流が急速に再建が果たされつつあります。 もちろん、沿岸部での津波からの深刻な被害からの回復はまだまだこれからの段階であるとの情報が現地から伝わってきています。その内容の悲惨さには言葉を 失うものの、途絶されていた情報の流通が回復されつつあることは今後への大きな希望を感じさせてくれます。

原発災害となると、専門家の間ですらまだ先の見えない状況が続いているようであり、関係者の皆さんのご尽力が最良の結果に結びつくよう祈る外は出来ない状況が続いています。

斯様な状況下では些かならず気の早いことは承知していますが、応急の復旧・再建の次の課題は、新たにより良いものを作るという意味での復興になるでしょう。

もう、津波に洗われるようなところに国道や鉄道は引くべきではありません。直ぐ水浸しになる河原に家を建てることをしないように、被災地に住宅街や商店 街を再建することはよく考えるべきでしょう。次の百年の子孫が無事で暮らせるよう、もし現地再建を目指すなら、少なくとも新たな津波対策・地震対策が必要 です。順当なところでは、沿岸部に植林を行うと共に、充分な高さを取って、新たな場所を整地し、市街地を移動するべきではないのでしょうか。いずれにせ よ、沿岸部では大きな投資が必要になることでしょう。

病院や診療所も、流されたものを元の場所に再建してはいけません。より安全な場所を選んで、あらためて建て直すことを考えねばなりません。

病院や診療所といえば、沿岸部の診療体制の復興についても考えなければなりません。

以前、被災地では多くの医師が活躍されていました。しかし、御自身が未だ行方不明であったり、死亡が確認されたりという情報も流れています。また、たとえご無事であっても、この津波で診療所が流され、病院の建物が修復困難な状況に陥っているとの情報も流れています。

もちろん、急性期入院医療を担っていた基幹病院の再建は急がねばなりません。ただし同時に、慢性期・亜急性期の入院医療を担っていた中小病院、あるいは外来・在宅医療を担っていた診療所や支援病院の再建も急がねばなりません。

放置すれば、北海道のように、診療所不足から過度に基幹病院の外来機能に依存した、つまりは基幹病院の入院機能が大きく制限された、これまでよりも効率 的とは言えない地域医療体制へと移行しかねません。あるいは在宅医療を担っていた診療所や、慢性期・亜急性期を担当していた病院の再建がなされなければ、 基幹病院の急性期入院機能が大きく阻害されてしまいます。

病院に対する補助は言うまでもなく、緊急に診療所再建のための費用補助制度の構築が必要です。遅れれば、被災した医師達は都市部に去り、あるいはこのま ま引退してしまいます。逆に、これまで以上に診療所や中小病院の数と機能が充実するなら、地域医療体制は却って以前よりも良いものとなるかも知れません。 まさにこれから、東北地方は医療復興のための大きな岐路に立っていると言えるでしょう。

診療所開業助成の先例は、たとえば稚内市にあります。

稚内市 開業医誘致制度[PDF]

http://www.city.wakkanai.hokkaido.jp/section.main/hoken/documents/kaigyouiyuthi-pamphlet.pdf

この種の助成によって、診療所開業医は自己資金が不足していても、過度に診療報酬に依存して借入金返済のための資金回収を急ぐ必要もなくなります。また、競争の激しい都市部での開業を躊躇している勤務医の背中を押して、沿岸部へと導くことも可能になります。

被災地域に住む患者さん達だけでなく、国民と政治家の決断が必要です。

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