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Vol.94 体育館型避難所から避難する選択肢を

医療ガバナンス学会 (2011年3月29日 14:00)


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ー避難所の皆様へ伝えてくださいー

医師 村重直子
2011年3月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


震災から2週間以上たち、避難所で亡くなる方々が増え始めています。災害後の避難所での死亡率は通常の60倍であり、死因の4分の3は感染症であるとい う論文報告があります。食糧、電気、水道、暖房、排泄などがままならない体育館のような避難所で、大勢が密集して生活する環境では、感染症の流行は防ぎよ うがありませんから、体育館型避難所での生活そのものに死亡リスクがあると言わざるを得ません。もちろん、この死亡リスクを減らすために、多くの方々が物 資を送り、様々な医療団が現地入りするなど、全国の皆様のご尽力には感激していますし、今後もこうした支援が広がることを願っています。しかし、たとえど んな対策を講じたとしても、避難所生活が長期化すれば、命を落とす方が今後も増え続けることは避けられないでしょう。

避難所で人命を奪う代表的な感染症は、呼吸器感染症(風邪、インフルエンザ、肺炎など)と下痢や嘔吐(ノロウイルス、ロタウイルスなど)です。インフルエ ンザ、肺炎、下痢が発生していることはすでに報道されています。過去の報告では、避難している子どもの死亡のうち80%は肺炎にマラリアや下痢が重なった ものだったという報告や、災害後早期の死亡の40%が下痢によるものであり、そのうち80%は2歳未満の子どもという報告があります。これらのデータの多 くは途上国のものですから、日本ではこうはならないと思いますが、避難所は通常の日本の環境とは異なる点に留意が必要です。通常であれば、日本では栄養状 態もよく、たくさん水分摂取でき、清潔を保てるので、成人は恐れるに足りない感染症であっても、避難所の環境では、体力の弱い者から、つまり多くは、小さ な子どもや高齢者などから、命を奪っていくのです。

仮設住宅の建設は始まっていますが、上水道などライフラインを根こそぎ破壊した津波被害で建設場所が限定され、最初の1カ月の供給量をはるかに超える量が 必要なため、仮設住宅の整備は長期化するようです。大勢が長期間、避難所生活を続けては、かなりの死者数を出すことになってしまいます。

避難所の死亡リスクを回避する方法は、一刻も早く通常の環境に「移住」することです。すでに、全国各地から、住居を用意して被災地の方々を迎えるという情 報がたくさんあります。たとえば、以下のYahooのサイトから、全国で提供されている住宅について検索することができます。

Yahoo! 被災者受け入れ情報

http://dir.yahoo.co.jp/Society_and_Culture/Environment_and_Nature/Disasters/Earthquake/2011_The_Pacific_Coast_of_Tohoku_Earthquake/Ukeire/?q=%C8%EF%BA%D2%BC%D4%BC%F5%A4%B1%C6%FE%A4%EC%BE%F0%CA%F3

いち早く実現した「老健疎開作戦」は、亀田総合病院が調整した「鴨川モデル」です。地震・津波・原発の被害により深刻な状況にあった、福島県いわき市の老 人保健施設小名浜ときわ苑を千葉県鴨川市のかんぽの宿へそのまま疎開させました。お年寄り120人と、職員とその家族70数人の「集団疎開」です。介護事 業のため組織化され、一体として機能する人・物(施設以外)・金・情報を、散逸することなく丸ごと移転し、介護事業を鴨川市で継続することができます。い わき市が今後も介護報酬を支払うのです。被災地のコミュニティや機能を維持したままの「集団疎開」ですから、将来いわき市で事態が好転した場合にも、復興 が容易です。一部の報道では、バスで移動中に入所者2人が亡くなったことが取り上げられましたが、すでに体力が落ちたお年寄りの中には肺炎球菌による肺炎 が何人かいましたし、バスから自力で降りられないほど弱っていた方がたくさんいたそうです。いわき市に残っていたら、かなりの死者が出ても不思議はなかっ たのですから、移動中の死亡がわずか2人で済んだのはむしろ驚異的です。200人近い命が救われ、今後の新しい生活を築いていけることは、将来のいわき市 の復興にも希望をもたらしました。こうした「集団疎開」が各地で実現すれば、より多くの命が救われ、将来を見据えた生活を始めることができるのではないで しょうか。

福島原子力発電所の影響で、東日本の電力は供給不足が続く見込みです。一般の住宅も医療機関も交通網も、皆、計画停電に悩まされています。被災地からの移住先は、東日本ではなく、60Hzの西日本を目指すほうがよいでしょう。

こうした「集団疎開」や「移住」は、まだわずかしか進んでいないように見受けられます。その一因として、体育館型避難所の生活に死亡リスクがあることや、 全国で住宅の提供が増えているといった情報が、通信手段がまだ限られている避難所の方々に、あまり届いていない可能性があります。被災した方々にも、こう した情報を知っていただき、まずは今を生き抜くことを考えていただきたいのです。住み慣れた土地から離れたくない方もいらっしゃるでしょうけれど、その一 方で、他の土地に親類がいる場合など、自主的に疎開した方もたくさんおられます。移住する選択肢があるとわかれば、一刻も早く、体育館型避難所から避難し て、新しい生活を築こうと考える方も増えるかもしれません。それが、結果として一人でも多くの命が助かり、一日も早い復興につながるのではないでしょう か。

参考文献
[1] Connolly MA, Gayer M, Ryan MJ, et al. Communicable diseases in complex emergencies: impact and challenges. Lancet. 2004;364(9449):1974-83.
[2] Wilder-Smith A. Tsunami in South Asia: what is the risk of post-disaster infectious disease outbreaks? Ann Acad Med Singapore. 2005 Nov;34(10):625-31.
[3] 日テレNEWS24 必要な仮設住宅数、阪神大震災上回る見通し 2011年3月24日 23:05

http://news24.jp/articles/2011/03/24/07179381.html

[4] 産経ニュース 仮設住宅整備の長期化必至 供給追いつかず、ライフライン破壊 2011.3.23 20:34

http://sankei.jp.msn.com/affairs/news/110323/dst11032320370061-n1.htm

[5] 亀田総合病院 経営企画室 小松俊平 Vol.76 老健疎開作戦(第1報) 2011年3月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会

http://medg.jp/mt/2011/03/vol76-1.html#more

[6] 松浦新 【緊急報告】(4) 要介護者の避難に、広がれ「鴨川モデル」 WEB論座2011年03月22日

http://astand.asahi.com/magazine/wrbusiness/2011032200012.html?iref=webronza

筆者プロフィール
村重直子(むらしげ なおこ)
1998年東京大学医学部卒業。横須賀米海軍病院、ベス・イスラエル・メディカルセンター内科(ニューヨーク)、国立がんセンター中央病院を経て、 2005年厚生労働省に医系技官として入省。2008年3月から大臣直属の改革準備室、7月改革推進室、2009年7月から大臣政策室。2009年10月 から内閣府特命担当大臣(行政刷新担当)付、2010年3月退職。現在、東京大学勤務。著書に「さらば厚労省 それでもあなたは役人に命を預けます か?」(講談社)。

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