医療ガバナンス学会 (2025年4月15日 09:00)
茨城県つくば市 坂根Mクリニック
坂根みち子
2025年4月15日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今回は削減のターゲットとされた「無~低価値医療の削減」について検討してみる。この冬はインフルエンザの患者が爆発的に増加し、年末年始はどこの医療機関も発熱患者への対応で大変な事態となった。茨城県保険医協会では、2024年12月29日〜2025年1月3日までの6日間に県内6カ所の休日夜間診療所に受診した患者について状況調査した。内科・小児科の受診者数は6カ所合計で5,490人(水戸2,589人 日立871人 土浦357人 筑西772人 鹿嶋73人 ひたちなか828人) にのぼり、医療者が勤務時間を遙かに超えて対応するもマンパワーも検査薬も足りずにクレームが続出し、大混乱であった実態が明らかになった。
では6カ所、6日間の休日夜間診療所でどのくらいの医療費が使われたのだろうか。休日の発熱外来でコロナとインフルエンザの抗原検査を行い全員に薬を処方したと仮定した場合の概算医療費は
12,490 円×5,490 人=68,570,100 円(約 7,000 万円) に上った。
これに薬局でかかる費用を追加してみると
①タミフルと対症療法の解熱剤(カロナール)と咳止め(メジコン)をジェネリックで5日間処方した場合:5,890円×5,490 人=32,336,100円(約3,200万円)
②タミフル処方せず解熱剤と咳止めのみを処方した場合でも4790円×5,490 人=26,297,100円(約2,700万円)
6カ所の休日夜間診療所、6日間だけでおよそ1億円の医療費を使ったことになる。夜間休日診療所のない市町村は当番制で診療を行っている。また、各病院でも発熱患者を受け入れていたところも多い。インフルエンザが猛威を振るった今回の年末年始だったが、茨城県内だけで発熱外来に数億円~数十億円の医療費が費やされた可能性があるのだ。
さて、本来インフルエンザであろうがコロナであろうが、その他の風邪であろうが、ウイルス感染症に関しては多くの場合自宅療養が基本である。「風邪の類い」で医療機関にこれだけ殺到する現象は他の国では見られない。呼吸困難感や意識障害がある場合や、コロナでは特に持病のある方は医療機関を受診された方が良いが、ほとんどの方(筆者が休日診療をやっていた感覚としては9割以上)は受診不要である。
つまり、発熱外来における受診の多くは「低価値医療」で削減の対象ということになる。その場合は市販薬を購入していただくことになるが、前出の薬を市販で購入するとどのくらいかかるのか調べてみた(※値段は2025年3月にネットで調べ、1箱単位の購入で、タミフルの代わりに初期のインフルエンザに有効とされる麻黄湯とした)。
・ツムラ麻黄湯27 2P2X 10日分で2,350円
・メジコン20T (6T3X 約3日分)で2,569円
・カロナール(300) 24T(3T3X 8日分)で1,920円
計6,839円、抗原検査キット(COVID /インフルエンザ)認可商品1ケ3,840円であり、この処方例では合計10,679円かかる。
これに対して休日診療では診察に12,490 円、薬に5,890円、計18,380円→3割負担で5,514円、1割負担で1,838円の支払いとなる。
休日加算があっても受診した方がはるかに安い。高齢者はさらに市販薬購入の2割弱の医療費で済んでしまう。しかも、もれなく医師の診断付きである。
さて、低価値医療を保険から外すというならば、これをどう国民に理解してもらうのか。まず国民の受診行動の変容を促すには学校教育から変える必要がある。低価値医療に関する医療費削減と医療者の負担軽減のために「軽症者の医療機関受診制限」という方針の大転換をするのであれば国にも国民にも相当の覚悟が必要である。また、市販薬や検査薬の価格も下がらないと難しいだろう。
政治家にこれを推し進められる胆力があるのか。そして、その結果得られた医療費の削減分は医療の中で優先順位の高いものへ「付け替え」することに使うべきである。高額療養費然り。薄利多売型の医療の質の改善への費用然りである。
保険外しだけ決めて「あとは現場任せ」だけは御免被る。待っているのは医療崩壊だ。
以上は、4月15日発行の茨城県保険医協会新聞「論壇」に掲載されたものです。
【参考】データ等の詳細は、右記の二次元バーコードからご参照ください。