医療ガバナンス学会 (2025年4月16日 09:00)
Tansaリポーター
中川七海
2025年4月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
だが汚染の原因であるPFOA含有活性炭を、どの企業が町内の活性炭リサイクル業者「満栄工業」に引き渡したのかが分からない。環境省、岡山県、町が互いに汚染への対応を押し付け、汚染の経緯を突き止めようとしないからだ。
Tansaは、満栄工業の元社長らの証言を得た。PFOA含有活性炭を渡した可能性がある企業は、大手2社だという。大阪ガスケミカルと、クラレだ。
両社はどう説明しているのか。Tansaが書面で何往復もやりとりした結果を、2回に分けて検証する。
●2000年代から危険性が分かっていたのに
PFOAが水道水に混入したルートをおさらいする。
①排出元企業が、満栄工業にPFOA含有活性炭を引き渡す
②満栄工業が町内の財産区に、2008年からPFOA含有活性炭を放置する
③財産区に放置されたPFOA含有活性炭から、多量のPFOAが漏れ出す
④漏れ出たPFOAが、土壌、沢、川を伝って河平ダムへ
⑤河平ダムより取水している円城浄水場から、吉備中央町・円城地区の水道水へ
今のところ、責任を問われているのは②の段階での満栄工業だけだ。しかし、①の排出元企業にも責任がある。
PFOAは2000年頃から国際社会で危険性が周知され始め、2006年には米国EPA(環境保護庁)が2015年までの廃絶を、日本企業を含む世界のPFOA製造メーカーに呼びかけた。2019年、国際条約で「廃絶」が定められ、2021年には国内でも製造と輸入が禁じられた物質だ。排出元企業としては、PFOAの危険性を満栄工業に伝えるとともに、処分されたことを確認する必要がある。
PFOAの排出元企業として、公害を防ぐための責任を果たさなかったことが、今回の水道水汚染につながったのだ。
●満栄工業元社長の証言では
排出元企業の手がかりを得たのは、満栄工業の関係者への取材だ。
財産区を使用していた時期に満栄工業の吉備中央本社で働いており、取引先を知る人物は、こう証言した。
「岡山や大阪などの関西圏から、使用済みの活性炭を引き受けていましたよ。大手の取引先だと、その一つが、クラレさん」
クラレは、1926年創業の岡山県発祥の化学メーカーだ。現在は、樹脂や化学品、繊維や水の処理システムなどを製造・販売している。本社は東京に置いているが、倉敷市に研究拠点を構え、岡山市内には国内最大の製造工場を有する。事業の一つに、活性炭の取り扱いがある。
満栄工業の元社長・前田重信も取材に応じた。
前田重信は、町と財産区の賃貸借契約を結んだ2007年当時に社長を務めていた人物だ。社長の座から降りた現在も、役員兼筆頭株主として満栄工業に携わる。
前田重信は、クラレに加え、大阪ガスケミカルからもPFOA含有活性炭を引き受けていたことを認めた。両社とも活性炭事業を行う、国内有数の企業だ。2社のことを指して言った。
「はっきり言うて、預かっているところから(PFOA含有活性炭が)来てるんじゃないかと思っている」
大阪ガスケミカルは、エネルギー事業などを手掛ける「Daigasグループ」傘下にある大阪ガスの子会社だ。活性炭事業部を設け、活性炭の製造・販売などを行っている。
企業情報を調査・提供する信用調査会社「帝国データバンク」や「東京商工リサーチ」の資料でも、満栄工業の最大の取引先として名が挙がっている。
●榊谷武史社長宛てに質問すると
Tansaは両社に質問状を送って、やりとりを重ねた。
まずは、大阪ガスケミカルとのやり取りを検証する。
質問状の宛先は、榊谷武史代表取締役社長宛て。毎回、人事総務部・広報担当から回答が届いた。
まずは、吉備中央町での水道水の高濃度 PFOA 汚染を把握しているのかについて。
2023年11月頃、報道で認識いたしました。
では、汚染を引き起こしたのが満栄工業であることを把握していたのか。
一部の報道において満栄工業の社名が記載されていたことは認識しております。
だが、大手メディアは現在に至るまで満栄工業の名前を報じていない。一体、いつのどのメディアの報道なのか。
2023年11月26日付けの「kyoto-seikei」というネットニュースにおいて満栄工業様の名前が出ておりましたので、認識しました。
満栄工業からの連絡の有無についてはこう回答した。
満栄工業様から報道に関するご連絡を頂いております。
要は、大阪ガスケミカルでは「kyoto-seikei」というネットニュースの記事で汚染のことを知った。普段からの取引先である満栄工業からも、汚染に関する報道があったことを知らされたということだ。
●残る汚染源の可能性
汚染を引き起こしたPFOA含有活性炭は、大阪ガスケミカルが満栄工業に引き渡したものなのか。肝心なのは、その点だ。
当社が活性炭再生を受託する場合、お客さまにPFOAを含め当社の受け入れ基準を逸脱するPRTR管理物質等が含まれていないかを確認しておりますが、これまでPFOAを含有していると確認された実績はございません。
なお、当社から委託した活性炭であったという事実は確認できておりません。
どういうことか。大阪ガスケミカルは次の流れで、活性炭の再生事業を手掛けている。
①他社から使用済み活性炭を受け入れる
②その際、PFOAなどの有害な化学物質(PRTR管理物質)が、大阪ガスケミカルの受け入れ基準値を超えて含まれていないかを確認する
③上記②の確認をした上で、活性炭を再び使えるようにする処理を他社に再委託する
満栄工業は、③の再委託先になる。大阪ガスケミカルにしてみれば、②でPFOAが基準を超えて含まれていないことを確認しているのだから、汚染を引き起こすような活性炭を満栄工業に渡すわけがないと言いたいのだ。
だが矛盾しているのは、「なお、当社から委託した活性炭であったという事実は確認できておりません」とも回答していることだ。なぜ、「汚染を引き起こした活性炭は、当社が委託したものではないと確認しました」と答えられないのか。
改めて、汚染原因となったPFOA含有活性炭について尋ねた。
「本汚染を引き起こしたPFOAを含んだ活性炭」が、当社から委託した活性炭であったことを示す記録はなく、当該活性炭のPFOA含有有無は分かりかねます。
結局、通常はPFOAの含有量を確認して再委託することになっていると主張しているに過ぎない。汚染原因となった活性炭を満栄工業に引き渡したかどうかは、記録がないから不明だと言っているのだ。
だがこれでは、自社が引き渡した活性炭が、汚染源である可能性を残してしまう。大阪ガスケミカル社内、満栄工業の双方で確認した上での結論なのか。改めて問うと、こう回答した。
当社内で取引に係る記録を確認したところ、当社から委託した活性炭であったという記録は確認されませんでした。また、満栄工業様にも当社の委託した活性炭であったという事実は確認できない事を確認しております。
「確認できないことを確認した」。この論法で、水道水汚染という重大事態に関わる調査を、早々に片付けてしまっていいのだろうか。当時の担当者たちへの聴取はしたのか。調査を尽くしたとは思えない。
=つづく
(敬称略)
※この記事の内容は、2024年10月15日時点のものです。
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