医療ガバナンス学会 (2025年4月21日 09:00)
この記事は、2025年4月16日に医療タイムスに掲載された記事を転載いたしました。
公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺センター長・臨床研修センター長
尾崎章彦
2025年4月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
今年も4月を迎え、新たな初期研修医を受け入れる時期となりました。初期研修責任者として、私は毎年、研修医の入職時にいくつかの重要事項を伝えるようにしています。
今年の要点は3つ。第一に、ますます厳しさを増す医療環境についてです。特に昨年の診療報酬改定以降、医療機関の経営状況は一段と厳しくなっています。さらに、都市部を中心に、今後は医師余りが進んでいきます。こうした状況下では、経営側の視点として「病院の収益や経営に貢献できる医師かどうか」が、より重視されます。
そのような観点で、私は「真に価値ある医師」たるには、専門的スキルや知識の習得は当然のこと、加えて3つの「志」が重要と考えています。すなわち、医療全般に貢献しようとする「医療への志」、組織の発展に寄与する「所属組織へのロイヤリティー」、そして地域医療を支える「地域社会への愛着」です。
これらの要素を常に意識しながら研さんを積めば、どのような組織や地域でも必要とされる医師になれるでしょう。厳しい医療環境においてこそ、医師としてのプロフェッショナリズムが問われます。そうした環境下での継続的な成長が、我々を「真に求められる医師」へと導くと確信しています。
■周囲への感謝を忘れないこと
2つ目は、周囲への感謝を忘れないことです。私自身、ときわ会で働くにあたって、理事長である常盤峻士医師に深く感謝しています。入職後にさまざまな成長の機会を与えていただいたからです。
ときわ会は、常盤理事長が1982年にいわき市に設立し、職員を大切にする理念と医療・介護分野への積極的な投資によって、一代でここまで大きく成長させた法人です。
そのベンチャースピリットあふれる常盤会長のもとで、私は乳腺診療の専門医として活動するチャンスや、臨床研修プログラムを立ち上げる機会をいただきました。これらの経験は、私の医療観を形成する上で極めて重要なものでした。
さらに、臨床研修の実現にあたっては、福島県内外の多くの人たちからもサポートをいただきました。相馬市の立谷秀清市長や福島県立医科大学の竹之下誠一理事長をはじめとする方々の後押しがあったからこそ、今の研修体制があります。
このような関係性は決して偶然に、一朝一夕に生まれたものではありません。私の上司である上昌広医師や先輩の坪倉正治医師が、福島で長年にわたり真摯に活動してきたことも、そのような信頼関係に寄与しています。
また、私たちの日々の診療を支えてくださっている医師の中にも、板橋中央総合病院のスタッフのように、紡いできた関係を基盤に継続的に協力してくださっているチームが数多くあります。
研修医には、このような人と人とのつながりの上に自分たちがここで活動できているということを深く理解し、感謝の気持ちを持って仕事に取り組んでいただきたいと考えています。
■「ブランド力」を高める研修医としての心構え
最後に話したのが、研修医としての心構えについてです。近年、当院の研修プログラムが、医学生の間で人気が高まっていることを実感しています。その魅力の1つは、研修医に有利な研修体制にあります。
例えば、当院では研修制度が許す限り、長期間にわたる外部病院での研修を認めており、その期間は2年間の研修期間のうち1年以上に及びます。その際の給与、交通費、滞在費なども当院が負担しています。
当院の研修医の給与はもともと額面60万円以上と高水準ですが、これらの活動費も含めると、研修医1人当たりの経費は年間約1000万円に達すると考えられます。病院にとってみれば、そして、その半分程度は病院に直接還元されない形で使われていることになります。
これは病院側としても将来の医師確保を見込んでの投資ですが、研修医には、この機会を単に自分が享受するだけでなく、ときわ会のブランド価値を高めるような形で活用し、還元する気持ちを持っていただきたいと考えています。
そのように考えるのは、研修医がこのような意識を持たなければ、この研修制度自体の継続が難しくなるからです。次世代にも満足度の高い現在の研修システムを維持できるかどうかは現在の研修医次第です。ぜひ研修医同士が互いに切磋琢磨し、高め合う文化を担い、常磐病院の未来を築いていってほしいと願っています。