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臨時 vol 42 「医師に関するウワサ(2)」

医療ガバナンス学会 (2009年3月5日 09:14)


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医師と医療を巡る都市伝説のいくつかを、公開されている統計データによって
検証して行こうという連載の2回目です。引き続き、どうかお付き合い下さい。

今回は「研修医は都会の病院に集中した」、つまり臨床研修制度の影響で研修
医が都会の病院に集中したというウワサを検討します。

このウワサにはたいてい続きがあります。研修医が大学病院を離れて都会の研
修病院を選択したため、大学病院が医師不足となり、医局が地域の中堅医師を引
き上げ、それによって地域医療の崩壊が引き起こされた、という具合に続きます。

ところで、日本の郡部(町村)の人口が近年激減したことをご存知でしょうか?

平成17年(2005年10月1日付)の国勢調査では、町村の数が「町村に
ついてみると,合併,編入等により平成12年時点の2,558から17年時点の1,466へ
と1,092の減少となった。」と指摘されています。

平成17年国勢調査 全国・都道府県・市区町村別人口 (要計表による人口)結果
の概要
III 市町村の人口
http://www.stat.go.jp/data/kokusei/2005/youkei/03.htm
(総務省 統計局)

当然のことながら、これによって郡部人口は激減し、平成12年の2706,0554
人から平成17年には1750,3670人へとおよそ950万人、35%も減少しまし
た。わずか5年のうちに郡部人口の三分の一が雪崩を打って都市部へ…ではなく、
居ながらにして町村から市へと統計上の居を移す結果となりました

総人口に占める割合も21.3%から13.7%へと低下しました。市部人口
はそれだけ割合を高めたということになります。

(図3)http://medg.jp/mt/NK3.pdf

では、年齢別に医師の働いている病院(従業地)がどのように推移してきてい
るのかを見てみます。

検討に当たっては、前回同様、隔年(2年に一度)12月31日付で医師法の
名の下に行われている医師調査の、平成8年から平成18年までのデータを使用
します。

(図4)http://medg.jp/mt/NK4.pdf

図4では、平成8年末から平成18年末の性年齢5歳階級別の病院従事医師数
を郡部についてだけ切り分けています。全年齢層に亘って医師数の減少が見られ、
29歳以下層だけでも、2,862人から1,094人へと半分以下、全年齢層で見ると
18,166人から10,694人へとおよそ4割の減少です。

言うまでもなく、このうち大半の約35%は居ながらにして町村から市へと統
計上の居を移した医師達で、実際の減少は多く見積もっても10年でおよそ5%
程度です。

また、臨床研修の期間は2年間です。従って、研修医だけの動静を抽出するの
であれば、29歳以下層を論じても何も言えないということになってしまいます。
本来であれば、卒後2年間の医師の同定が必要です。しかし図4で言えることは、
郡部医師数の減少の大半は見た目だけのものであること、しかもそれが全年齢層
に亘るものであって、決して若年層だけの動きを反映しているわけではないとい
うことであろうと思います。

さて、ここまでで申し上げられることは、決して郡部(町村)から医師が無闇
と撤退したということはないということになろうかと思います。

次は、東京23区、政令指定都市(原則として人口100万人以上)と中核市
(同じく30万人以上)について、その医師数を見てみましょう。

その前に、これら都市部の人口がどう推移してきたのか、やはり見ておく必要
があるように思います。

(図5)http://medg.jp/mt/NK5.pdf

この10年間で政令市は12から15へ、中核市は(政令市への昇格も入れて)
15から36へ(平成18年末当時:現在はさらに増えて39)へと各々増えて
おり、人口も増加しています。

推計したところ、政令市と東京23区を合わせた人口は27,188,523人から
31,518,888人へと、中核市の人口は7,336,595人から16,782,251人へと、そして、
これら総和で34,525,118人から48,281,139人へとやはり1400万人近く、40
%増えています。(原則として各年10月1日付市町村人口推計より)

(図6)http://medg.jp/mt/NK6.pdf

東京23区と政令指定都市の病院従事医師数の推移です。

実は男性の39歳以下層では、平成8年が最も多く、その後減少して平成14
年で底を打ち、平成16年、18年でも平成8年水準まで戻していないというこ
とが見て取れます。

しかしこの間もこれら大都市の人口は増え続けており、とても医師が都市部に
集中したというようなことは言えないのではないでしょうか。

これに比べると、むしろ45歳から59歳以下層で、一貫して増加が見られま
す。

女性はほぼ全年齢層で増えています。

(図7)http://medg.jp/mt/NK7.pdf

その女性が中核市とその他の市でどう増減してきたのかを見てみましょう。

実は女性医師が全体として増えている結果、中核市でもその他の市でも、やは
り女性の病院従事医師数はほぼ一貫して増え続けています。

(図8)http://medg.jp/mt/NK8.pdf

男性39歳以下層の病院従事医師数は、その他の市では平成8年から減少し続
けたものの平成16年で下げ止まり、18年の時点で14年の水準近くまで戻し
ています。

中核市では全年齢層に亘って、ほぼ一貫して病院従事医師数の増加が見られて
います。

では人口当たりでみるとどうなるでしょうか。

(図9)http://medg.jp/mt/NK9.pdf

病院従事の各5歳階級の総医師数を人口10万人当たりとして年次推移を比較
しています。

やはり39歳以下層では、都市部集中したというようなことは言えません。む
しろ、ほぼ一貫して人口当たり医師数は減少しており、若年層の負担はむしろ増
えているということが言えるでしょう。

…あるいは可能性として考えられることとしては、負担の比較的重い地域が新た
に中核市となり、あるいは市町村合併によって都市部の数字の中に入ってきたの
かも知れません。

しかし、これに比較して、45歳?59歳以下層は逆にほぼ一貫して増加して
います。負担の重い地域が入ってきているということは考えにくいですし、彼等
(と言うか、自分もその年代層ですが)こそ、都市部に集中して来ていると言う
べきでしょう。

では、なぜ研修医や後期研修医は、都市部の大規模病院に集中した等という謂
われのない批判を受けているのでしょうか?

実は、これだけ若年層の医師が相対的にも実数でも都市部で減少しているにも
拘わらず、都市部の病院従事医師数は全体として純増しています。

ということで、次回は「卒後臨床研修制度の必修化によって地域医療は崩壊し
た」という都市(地域?)伝説を検証いたします。

なお、今回の都市人口の推計に当たっては、北海道大学医学部2年の学生さん
にお手伝いを頂戴しました。深く感謝いたします。もちろん、もし大きな間違い
等があれば、それは最終確認に当たった自分の責任です。

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