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臨時 vol 43 「骨髄移植フィルター騒動」

医療ガバナンス学会 (2009年3月5日 14:30)


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「2度と起きないように」
舛添大臣は、危機管理と情報公開を私たちに約束した

NPO法人全国骨髄バンク推進連絡協議会
会長 大谷貴子


去る2月24日、厚生労働省大臣室において、骨髄移植キット在庫不足に関する
情報公開と患者負担増加の回避を求める要望書とともに、皆様にお寄せいただい
た66,000筆超の署名(個人署名65893筆、メール署名623筆、個人意見書46筆、団
体要望書59団体)を無事、舛添厚労大臣に提出いたしました。大臣からも今後の
対応について力強い言葉をいただき、報道されているように、それから間もなく
先日2月26日にはバイオアクセス社製品の製造販売承認が下り、3月以降も従来と
変わらない患者負担での骨髄移植が可能となりました。

申請から1ヶ月を待たない異例のスピード承認等、今回の迅速な措置は、ひと
えに舛添先生のご尽力の賜物であり、またご協力いただいた皆様には心から厚く
御礼を申し上げる次第です。

今回の一件を振り返ってみると、バクスター社製骨髄キットの供給停止を知っ
た昨年12月から、先日無事に申請承認を迎えるまで、およそ2ヶ月という日々が
非常に長く感じられました。やはり、情報がきちんと回ってこないことから生じ
る不安や焦りによるところが、大変大きかったように思います。


【 もどかしかった2ヶ月間 】

私がバクスター社製の骨髄キット(ボーンマロウ・コレクションキット)の供
給停止を知ったのは、昨年12月20日の読売新聞の報道からでした。骨髄移植を予
定されていた方のお父様から報道についての第一報を受けて、あわてて確認した
のです。それまでは全く何の情報も入ってきておらず、まさに寝耳に水でした。

ところが例えば骨髄移植財団(骨髄バンク)には情報が12月17日に入ってきた
という話もあり、また、医療関係者の方々には19日の時点でFAXがバクスター・ジャ
パン社の営業担当者から送られてきたと聞いています。しかし私たち患者側は結
局のところ、20日の公の報道を通じて知るよりほかなかったわけです。

今回は厚労省さえ新聞報道を知ってからの対応だったということで、確かな情
報がなかなか入ってこずに、患者の皆さんやご家族は非常に気を揉まれたと思い
ます。私はというと、じっとしていられずに、自分たちのできることをしようと、
冒頭でご報告した署名活動を始めました。その後も、1月中はさまざまな情報が
飛び交うも、どれを信じてよいかわからないような状態が続きました。

ようやく、なんとなく光が見えてきたかな、と思ったのは、2月に入ってから、
バイオアクセス社の製品が600キット成田に到着したという厚労省の発表があっ
た頃からです。その600キットについては皆様ご存知のとおり、骨髄移植財団が
アメリカのバイオアクセス社と交渉して確保したものでしたが、それがさらにき
ちんと国によって管理され始め、国としての対応が形を伴ってきたということで
少し明るい兆しを感じました。 

もちろん当時はまだ未承認で不安や懸念もまだまだ大きかったのですが、なに
しろ現物がなければ話になりませんから、それがとにもかくにも確保されはじめ
たというのは朗報でした。実際のところ、現物がありさえすれば、あとはお金で
解決できる話、なんとかなるなと思いました。最悪お金に関しては、保険適用さ
れなくて患者さんが負担できないとなったら、みんなでカンパでも集めて肩代わ
りしようとまで考えていたのです。


【 錯綜する情報 翻弄される患者たち 】

今回の一件で私たち患者側がもっとも困惑し、不安や怒り駆り立てられたのは、
さまざまな情報や噂が錯綜したことです。ことあるごとに翻弄され、精神的にも
疲弊しました。

やはり何より厚労省からの正式発表がほしかったのですが、思うようには情報
が得られません。たまらず個人的に問い合わせてみても、担当職員によって、度
ごとに回答がばらばらでした。Aと言われたから確認してみたらBだった、かと
思えば別の人はA´と言っている、という感じです。厚労省内でさえ情報が一元
化されていないので、困り果てました。代議士の先生方でさえ、厚労省に個別に
問い合わせたところ結局言いくるめられてしまった、という話も伝え聞いていま
す。とにかく「大丈夫です」と繰り返すばかりで、その根拠をさらに問いただそ
うとしても、結局情報が錯綜していてよくわからない。逆に、「署名活動などし
なくてよい」と暗にクレームをつけられたこともありました。

今回は緊急事態ということもあり、厚労省の内部のごたごたした様子も目に浮
かびましたが、それにつけてももどかしかった。一般人からすれば、担当者・関
係者が一堂に会して情報をひとつにまとめれば、それで済むことに見えます。い
ろいろと内部的な事情があるのでしょうが、患者側としてみれば、「人の命がか
かっているのに、そんなこと言ってる場合ではないでしょう」と言いたくもなり
ました。

いずれにしても、大臣もおっしゃっていたように、つまりは日ごろからの危機
管理の問題ではないでしょうか。経済不況も長引くなか、骨髄フィルターに限ら
ずさまざまな医薬品や医療機器で、供給停止という事態が今後いつまた発生する
とも限りません。大臣もそれについて対策を練る旨お約束くださいましたので、
これを機に厚労省にはぜひ、情報の一元管理と迅速な公開を実行していただきた
いと思います。

のみならず骨髄移植財団にも、少しでも患者に関わるニュース(事故や事件等
を含めて)が入ったら、これまで以上に迅速に第一報を届けてもらえるよう、念
を押していこうと思います。たしかに、患者さんにとって暗いニュースは安易に
流せない、影響を考えると慎重になる、というのもわかります。ただ、結局その
影響が及ぶのは患者です。情報公開が遅れれば、それだけ対処も遅れてしまいま
す。

というわけで今後も、情報公開の徹底については、厚労省や骨髄移植財団それ
ぞれに対し求め続けていこうと考えています。

なお、署名活動に関して厚労省からクレームが入ったと申し上げましたが、い
ろいろ言われたのは事実です。「そんな署名活動なんかしなくても、国はちゃん
とやるんだから」と、まるで親に勉強しなさいといわれた子どもが「そんなこと
言われなくてもわかってるのに! 今やろうと思ってたのに言われたらやる気も
なくなるじゃないか」とでも言っているかのように聞こえました。厚労省のほか
に、骨髄移植財団の一部の人にも誤解が生じた部分があったようです。こちらの
動きがあまりに早かったせいで、なんらかの憶測が流れたのでしょうか。いずれ
にしても非難されるようなところは特にないと自負していますし、こちらもポリ
シーを持ってやっていますから、クレーム等に屈しようなどという気は毛頭あり
ませんでした。


【 骨髄バンクと全国協議会は「車の両輪」 】

ちなみに、一般の方々にはわかりづらいことかもしれませんのであえて書かせ
ていただくと、私が会長を務めさせていただいているNPO法人全国骨髄バンク推
進連絡協議会と、財団法人骨髄移植財団(骨髄バンク)との関係は、いうなれば
「車の両輪」だと私は考えています。

もちろん、そもそも骨髄移植財団がなければ骨髄移植は非現実的ですし、今回
の骨髄移植フィルターでまず600キットを確保したのも財団です。それに対し私
たちはこれまで、骨髄バンクの登録PRなどの面で、全国津津浦浦で草の根的に
協力させていただいてきました。例えば現在、昨年12月に骨髄移植数10,000例、
さい帯血移植数5,000例に到達したことを記念して、全国で「ありがとうキャン
ペーン」を行っています。患者さんや提供したドナーさん、そのご家族やご友人、
多くの皆さんとともに、桜の苗の植樹などを行っていますが、こうした人手がか
かることは骨髄移植財団のほうではできません。一方、こちらの協議会にはボラ
ンティアの方が大勢いらっしゃるので、お金はなくても人手だけはあるのです。
私たちの活動を通じて骨髄バンクについての関心や理解が広まり、すこしでも登
録してくださる人が増えればと願っています。その登録先が、骨髄移植財団とい
うことです。

ですからこれからもお互いが補完しあうような形で、きちんとコミュニケーショ
ンを図りながら、それぞれ活動を展開していけたらと考えています。


【 引き続き 安定供給の確保と情報公開を! 】

さて、こうして今回の騒動を振り返ってきてみても、私は本当に恵まれていた
なと思います。舛添大臣はじめ、協力してくださった医師の先生方やいろいろな
方のお力添えなしには、ここまでたどり着いていたかどうか。錯綜する情報に長
らく翻弄されただけに、その思いはひとしおです。本来ならば、普通に座って過
ごしていても情報が滞りなく患者のもとに伝わり、製品の手配についてもむやみ
に不安を感じずに済む、という体制が整っていたらよかったのかもしれませんが……。
それはこれからの課題ということで、関係者の方々には対応を重ね重ねお願いし
たいと思います。

また、バイオアクセス社製品を使うにあたって、製品の性能等に関しては、ア
メリカでの実績や、厚労省、医師の方々を信頼して使用していければと考えてい
ます。直接摂取する薬品等と違って内容にも不安は特に感じていません。

ひとつだけ気になるとすれば、その安定供給です。

今後バイオアクセス社製を入手して使い続けていくことができるのか。あるい
は、もともとのバクスター社の(現在はフェンウォールインク社に引き継がれた)
ボーンマロウ・コレクションキットのほうも、きちんと販売が再開され、日本国
内でも入手できるようになるのか。

いずれにしても、骨髄キットの製造・販売がバイオアクセス社1社のみに限られ
ているという状況は、騒動以前、命綱が一本の状態と変わりません。今はほっと
ひと安心していますし、当面は同じような心配はしなくてよいものと信じていま
すが、安定供給に関しては引き続きしっかりウォッチしていく必要があると考え
ています。


【 次なる課題 抗がん剤「グリベック」 】

そして今、私は次なる課題解決に向けて、実はこの骨髄フィルターの問題と同
時進行で、すでに動き始めています。7年前に発売が開始された抗がん剤「グリ
ベック」です。

この薬は主に慢性骨髄性白血病の患者さんが使う飲み薬で、非常に効果が高い
のですが、ずっと薬を飲み続けなければならないうえに、価格も非常に高いので
す(毎日それだけで4000円近い出費になる人も多くいます)。昨今の経済危機は
ここにも影響し、その経済的負担から服用を拒む患者さんも出てきて、私もずい
ぶん相談を受けています。驚いたことにというかやっぱりというか、医師の先生
方はその経済的負担のことまで考えずに、効果が高いからということで処方され
ているようです。

そこで私は患者さんにアンケートを行って、その切実な実態を数字化すること
から始めようと考え、準備を開始しました。データが集まった後はそれを広く発
表し、多くの方々のご理解とご協力を得ることができればと考えています


【 最後に 今後ともぜひご協力ください! 】

私の願いは、すべての患者さんが、化学療法等を含め自分の受けたい治療を、
迅速に、平等に、かつ経済的負担ができるだけ少ないかたちで受けられるように
なること。そのために、私は私のできるだけのことを、これからも頑張っていき
たいと思っています。ぜひ皆さんにも、ご自身にできることから、(骨髄バンク
・臍帯血バンクの登録のほか、関連する研究者・医療者の方々であればその分野
でのご活躍を含めて)大いにご協力いただければ幸いです。これからもご支援ご
協力のほど、何卒宜しくお願いいたします。

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