医療ガバナンス学会 (2025年6月9日 08:00)
今回の原稿は医療タイムスに2025年5月21日に掲載された記事を改変し、転載したものです。
公益財団法人ときわ会常磐病院
乳腺甲状腺センター長・臨床研修センター長
尾崎章彦
2025年6月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
■母校の同窓会活動へのかかわり
私は普段、福島県いわき市の常磐病院に勤務しており、診療や若手医師の教育に日々取り組んでいます。この連載でも、これまで医療現場や教育の話を中心に書いてきましたが、年齢を重ねるにつれて、関心が病院の外にも広がってきたことを感じています。
最近かかわっているのが、私の母校である明治学園高校(福岡県北九州市)の同窓会活動(明治学園仙水会)です。著名な卒業生としては、小説家の平野啓一郎さんやイラストレーターのわたせせいぞうさんなどが挙げられます。また、日経新聞の「私の履歴書」で知ったのだが、本庶佑先生も明治学園に在籍したことがあったそうです。
明治学園は、安川電機創業者・安川敬一郎と松本健次郎により、1910年に明治専門学校(現・九州工業大学)附属小学校として創立され、1911年に私立小学校として独立しました。戦後の学制改革を経て中学校・高等学校を併設し、1992年には高等学校が共学化されました。2008年には学校法人コングレガシオン・ド・ノートルダムの一部となりましたが、2023年に法人を再び分離し、学校法人明治学園となりました。
明治学園は、地元ではそれなりに知られた進学校ですが、進学実績において、近年はやや苦戦していたようです。私が在籍していた当時から、ミッションスクールとして校則が厳しいことで有名でしたが、最近の時勢に合わなくなってきていた面があったのかもしれません。
加えて、東京での卒業生同士のつながりは見えづらく、従来の同窓会も年配の方が中心という印象でした。
一方で、私の周囲には灘高校など他校出身の同僚が多く、そうした学校の卒業生ネットワークの強さを見るたび、「うらやましいな」と感じることがありました。ある日、職場の上司に話すと「自分でやればいいんじゃないか」と言われ、それをきっかけに少しずつ母校とのかかわり方を模索し始めました。
そんな折に出会ったのが、明治学園仙水会関東支部で活動されていた辻正隆さん(37回生)です。その人柄と行動力に敬意と感動を覚え、自然と一緒に活動させていただくようになりました。
■新大学生歓迎BBQを初開催
そして2024年春、辻さんや有志の人たちとともに「新大学生歓迎BBQ@お台場」を初めて開催するに至りました。
初回は約50人が集まり、多くの卒業生からの寄付も寄せられ、想像以上の盛り上がりとなりました。「ぜひ毎年」という声を多数いただき、今年も引き続き「新大学生歓迎会2025」を開催することになりました。
今回の開催にあたっては、BBQ形式を継続するかどうかが1つの検討事項でした。お台場でのBBQは景観もよく、開放感がありましたが、実際には焼いている人が会話に加わりづらく、コミュニケーションの面で難しさもありました。
代案として屋形船なども検討されましたが、「食事や移動が主目的になってしまいそう」との声もあり、一般的な会場での開催としました。
結果として今年の形式が功を奏し、参加者同士が3~4時間しっかりと対話することができ、初対面同士でも自然に交流が広がる会となりました。
若い世代にとっては初めて会う先輩や同級生とのつながりを作る機会に、年長者・社会人にとっては後輩たちと接する刺激的な時間になったのではないかと思います。
■新理事長の強い思いと本気度
こうした交流会の実現と成功の背景には、50年近く支部活動を地道に続けてこられた先輩方の尽力があります。私たち世代の始めた新しい試みも、その歴史の延長線上にあるのだと実感してます。
一方で、母校もいま大きな転換期を迎えています。少子化に伴う生徒数の減少という厳しい局面の中、明治学園OBで、安川電機の経営陣としても活躍されている村上周二さんが、新たに理事長に就任されました。
厳格だった校則の緩和やインターナショナルコースの設置など、次の時代に向けた本格的な改革が進められています。
村上理事長は、今回の「新大学生歓迎会2025」のために、わざわざ東京までおいでになり、若い世代との対話にも積極的に参加してくださいました。形式的参加ではなく、「母校をよくしたい」という強い思いと本気度で臨まれていることに、参加者一同、深い感銘を受けました。
■キャリアや人生を広げる同窓会活動
こうした活動に自ら取り組む理由を明確に言語化するのは難しいのですが、「職業」あるいは「生業」とは異なる分野の人たちと出会い、医療以外の世界に触れる機会を得られていることは間違いありません。
特に、辻さんのようにご自身で会社を経営し、組織運営や人材育成などに関して豊富な経験を持つ“先達”の方々と会話をする中で、マネジメントやリーダーシップについても多くを学ばせていただいています。すでに中堅となり、組織の中で後進を育成する立場の医師として、そのあるべき姿に関しても大いに刺激を受けています。
同窓会は、縦のつながりと横のつながりに加え、そうした「斜めのつながり」を構築していかれる場です。実際、3つの「つながり」が交差する場としての同窓会活動が、今後のキャリアや人生にとっても重要な意味を持つのではないか……そんな期待が実感に変わりつつあります。
もちろん、本業がある中での同窓会活動は、決して楽なものではありません。しかしその意義は、先輩方の社会的活躍の広さが示すところでもあります。これからも自分なりに工夫しながら、努めてかかわっていきたい考えです。