医療ガバナンス学会 (2025年6月10日 08:00)
この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2025年5月15日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2025/05/15/153521
国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔
2025年6月10日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2024年に米国の厚生省から報告された「International Prescription Drug Price Comparisons: Estimates Using 2022 Data」(2022年のデータに基づく処方薬価格の国際比較)によると、2022年度の米国内の薬剤価格は他のOECD諸国の2.78倍だったそうだ。トランプ大統領の主張する5-10倍という数字とはかなり乖離がある。そして、地球を揺るがす影響と言っていたが、うまくいっても米国内の薬剤費を下げるにとどまるだろう。関税をかけると欧州や日本から輸入される薬剤価格は上昇するはずだが?第1次トランプ政権時も似たような試みをしたが、企業団体の反対でうまくいかなかった。
そもそも日本のように国が診療報酬や薬価を決めているのではなく、民間における需要と供給、薬剤の価値によって薬剤費が決められているのだから、大統領令で強制できるのか疑問だ。ハンバーガーの価格も、同じ製品でも(同じ原材料ではないが)、2024年10月のデータでは(https://ecodb.net/ranking/bigmac_index.html)、ビックマック一つ当たりの価格の1位のスイスでは1214円、5位のユーロ圏912円、7位のアメリカ856円、15位サウジアラビア762円と続き、日本は44位の480円と報告されており、韓国(601円)、タイ(570円)、中国(531円)より安くなっている。豊かな日本は幻想だ。また、54位の台湾(343円)とスイスは3.5倍の差がある。
スマートフォンの価格も国によって微妙に異なるし、同じ製品・商品が世界のどこのおいても同じ価格で購入できるわけではないのだ。それにしても、地球規模で揺るがす重大発表は、日本では完璧な空振りでそよ風さえも吹かなかった。
PS: 今夕からトルコに出かける。初めてのトルコ・イスタンブールだ。医学部の学生が主催するカンファレンスに招待されて行くのだが、学生の刺激になれば幸いだ。