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Vol.117 医学教育の現場 横浜からのレポート3

医療ガバナンス学会 (2011年4月12日 06:00)


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コアカリキュラム改革

横浜市立大学付属病院 神経内科教授
鈴木ゆめ
2011年4月12日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


<コアカリキュラム改革の障壁>

「神経学」のなかから、解剖、生理、薬理は独立しましたが、臨床系の再改革はされていないため、脳外科学は神経学の中に入っており、独自の科目となって いません。どこの医学部に脳外科学の成績のつかないところがあるでしょうか。やっと試験は別々に行うことになりました。外科から独立したはずの脳外科学は いつの間にか「神経学」に入れられて、成績の判定権もありません。神経内科と一緒に試験をして、コマ数で比例配分し、「神経学」として丸めて合否を出しま す。横浜市大の学生は脳外科単独で不合格点であっても、神経内科で稼げば進級には引っかかりません。逆もまたしかりです。消化器も呼吸器も循環器も同様で す。実際に医者になってみて内科と外科では考え方もやり方もまったくといっていいほど違いますが、そんなことはお構いなしです。

症候学はチュートリアルPBLで行うということを、3年前の中期計画に書いてあるのですが、3年たった見直しの来年度の中期計画でもこれを書きなおすこ との難しかったことと言ったらありませんでした。書き直すと決めても、いつの間にか次の会議ではゾンビのように生き返っているのです。誰が生き返らせるの かわからないまま、やっと、それを消しました。しかし、気の許せない、しかも不十分な改革でした。

「契約」「計画」に阻まれた改革は現在進行中です。来週理事長の前で医学部長がカリキュラム長とともにプレゼンをするそうです。中期計画に反しないかど うかチェックを受けるのでしょう。先立ち、何の決定権もない教授会に諮り、出席者全員の賛成を得ました。もしプレゼンしなければならないにしても、教授、 部長といった専門家の意見でまとめられた改正カリキュラムについて、それが尊重されなければ、なんの医学部だかわかりません。
学生のため、さらには病気の人たち、それを支える家族、そういった人たちの気持ちを組んで作るカリキュラムです。私たち臨床医は、教授であっても外来 で、病棟で日々、患者さんと向き合っています。そこはほかの学部の教授とは決定的に違うところです。もし、手や気を抜けば、即刻さとられて、厳しい目を向 けられる、そういった評価にさらされている点についての理解は現在、横浜市大においてあるとはとても思えません。もしも、あるとうそぶく方がおられるな ら、たとえあっても、実効性がなければ、つまり、われわれ、特にシモジモの臨床医がそれを感じなければ何にもならないということです。

<改革カリキュラム、組合せと順番の改編>

今回のカリキュラム改編は、コマの組み合わせと順番の改編です。ここまで来るのに、どれだけのエネルギーを要したか、ここに書き尽くせません。カリキュ ラム内容やコマ数の再編ではありません。内容に関しては教室配属という、他大学ではすでに行われているカリキュラムを導入するだけですが、大方各教室の持 ちコマは変えず、ただ、その組み合わせや順番を変えるだけなのです。しかし、専門課程5年間にわたって散らばしたコマをひとところに集めることの労力は大 変なものでした。また、教授会に決定権がなくなったいま、その議論に真剣に興味を持つモチベーションが欠け、カリキュラム改編の意味を伝えることに少々の 労力がかかりました。
これでなんとか、医学を整理して学生の頭に入れることができ、また、普通の教科書に添った授業を行えるようになるはずです。教室配属では研究分野にも興味を持って継続的に教室に出入りする学生も出てくることでしょう。

医学部長の黒岩は、”日本の医学教育の抜本的改革”の道筋を作ることを使命と考えています。「これが出来れば日本の卒後・医師養成研修にも良い影響が生 じます。現在の医療崩壊などの諸課題解決には有効な”マジック”は無く、総合的対策が必要ですが、まず現在の全国医学部学生の医学教育改革が最も実効的な 解決法の一つと信じています。私の任期中に何とかこの道筋を作りたいと考えています。」と言っています。
しかし、医学部長をはじめとするわれわれ医学部教員が必ずしも、その努力に見合う専門職としての尊重を受けているとは感じられません。
私たちがそう感じるということは、大学事務官として横浜市大をよくしようと思っている人たちも同様に感じているような気がします。昔、事務方と医師や基 礎の教員は横浜市民により良い医療を提供するという誇りの下、少ない予算の中、力を合わせて働いてきました。決して事務方は、予算を削り上げることが市役 所の利益であるとは考えていませんでした。病院で一緒に働き、患者さんに接し、また、学生とももっと近い位置にいて、育てる意識があったからだと思いま す。いつの間にか、法人化したというのにかえっていわゆる官僚的な接し方になり、横浜らしい温かみが失われていきました。不思議です。
医学部新設が叫ばれており、手あげしている「公立は」望ましい形ではありますが、そういった意味でも、本学の現状をさらにご報告したいと思います。

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