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Vol.25120 運動によって大腸がん再発は低下する!?

医療ガバナンス学会 (2025年6月30日 08:00)


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この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2025年6月19日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2025/06/19/233057

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔

2025年6月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「Structured Exercise after Adjuvant Chemotherapy for Colon Cancer」というタイトルの論文が6月1日のNew England Journal of Medicine誌に報告されていた。化学療法後の運動療法が大腸がんの再発にどのように影響するのかを調べたものだ。

2009年に開始され、2024年にまとめられたものだ。15年間という息の長い研究であり、日本のように長期的な追跡研究に理解のない国では絶対にできない研究だ。合計889人の患者がエントリーされ、運動グループ(体系的な運動を続けたグループ 445人)と健康教育グループ(単に健康に過ごすための教育を受けただけのグループ 444人)に分けられ、半分の患者では約8年の追跡が行われた。

Structured Exerciseはあまり耳にしない言葉なので調べてみたところ、「ウオームアップ、筋トレ、有酸素運動、クールダウン」など特定の運動を、順番に繰り返して行う運動のようだ。この運動を3年間行った患者さんとそうでなかった患者さんでは、6分間に歩行する距離が約30メートル長く歩くことができた。1時間に換算すると約300メートル長く歩けることになる。

最も重要なことは、運動グループは健康教育グループと比べて、大腸がんの再発、新たながんの発生、または何らかの原因で死亡するリスクは0.72となっていた(95%信頼区間は0.55〜0.94、P=0.02)。この95%信頼区間というのは、95%の確率で信頼が置ける範囲が0.55から0.94という意味であり、最大半分近くまで 再発や新たながんの発生を抑える可能性のあることを示している(逆に最小6%しかリスクを下げない可能性もある)。5年間、がんがなく過ごした割合は、運動グループで19.7%、健康教育グループで26.1%と6.4%の差があった。

8年全生存率は、統計学的な有意差はなかったが、運動グループで90.3%、健康教育グループで83.2%と7.1ポイントの差があった。これらの結果を総合すると大腸がんに対する補助化学療法の直後に行った3年間の構造化された運動プログラムはがん再発予防に効果的であると考えられる。肝臓への転移が起こった患者数は、運動グループで16人、健康教育グループで29人、そして、新に大腸にがんが生じた患者数は運動グループでゼロ、健康教育グループ5名であった。興味深い!腸内細菌と免疫細胞の変化を観察したいものだ。

家族性大腸腺腫症の原因遺伝子であるAPC遺伝子を見つけた後、多くの医師と話をしたことがある。一人の医師が、「兄弟で腺腫症を発症した患者がいたが、スポーツ選手であった患者は、ポリープの数も少なく、発症年齢も遅かった」と話したのを印象深く記憶している。

 

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