医療ガバナンス学会 (2025年7月3日 08:00)
この原稿はAERA DIGITA(2025年5月15日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/articles/-/256590?page=1
内科医
山本佳奈
2025年7月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
私が初潮を迎えたのは10歳の頃でしたから、かれこれ26年も生理と付き合ってきていることになります。幼い頃は、「生理って、なんて面倒なんだ」と思ったこともありましたが、いつの間にか生理を受け入れ、自分にとって当たり前のものになりました。取材を通して、改めて生理について、生理用品について考える機会をいただいたので、今回は、私の個人的な生理にまつわる経験や考えをシェアしたいと思います。
●生理痛がひどくて婦人科に
20歳の頃、日常生活に影響を与えるほど生理痛がひどくなり、婦人科に駆け込みました。先生の勧めで低用量ピルを内服するようになってからは、月経痛は大幅に改善し、快適に過ごせるようになりました。毎月生理はやってくるものの、月経量は減少し、生理用品の使用頻度も減り、下着や服、ベッドのシーツなどを汚すことは少なくなりました。何度も失敗を重ねたことで、生理がやってきそうなタイミングでは念の為に生理用品を持ち歩き、汚しても悔やまれない服や下着を着用するようになりました。
とはいえ、ピルを飲んでいても、生理の2日目あたりは出血量がやや多くなります。そんな時は、夜用で羽付きの生理用ナプキン[※2] を使用することはもちろん、シーツの上に赤色のバスタオルをひいて寝ることもありました。寝相の悪い私は、どうしても生理用のナプキンが就寝中にずれてしまい、下着やパジャマを汚しがちだったからです。しかし、それはそれで、「バスタオルからはみ出してはいけないのだ」と無意識に感じてしまい、かえって寝つきが悪くなってしまいました。これがまさに、冒頭にご紹介した「生理中の睡眠時の精神的・身体的な影響」だったのでした。
3年前に低用量ピルの内服から避妊インプラントに切り替えてからは、生理の回数も量もさらに減少しました。その上、アメリカは生理用ナプキンよりも生理用タンポンが主流で、種類も豊富です。そのため、生理用タンポンを使うようになった結果、昼夜問わず経血モレの心配がなくなり、就寝時の心配はほとんどなくなったのです。その上、生理用ナプキンを使用することによるムレやかぶれもなくなり、生理中の不快感も、大幅に軽減されたように感じています。
●もう生理用ナプキンには戻れない
避妊インプラントの使用から3年目に入り、やや出血量や生理の回数が増えてきたため、生理用タンポンの使用頻度は増えましたが、「もう生理用ナプキンには戻れない」と感じています。というのも、生理用タンポンのストックを切らしてしまった時に、緊急事態として生理用ナプキンを使うことがありました。しかし、今までは平気だった、やや締め付け感を感じる生理用の下着と生理用ナプキンの独特のムレ感に身体が拒否反応を示し、ドラッグストアまでタンポンを買いに走ってしまったのです。
これまでに、生理用品について友達と語り合ったことはありませんが、「どの生理用品がおすすめか」とたずねられたら、「生理用タンポン!」と心からおすすめしたいと思っています。日本では主流ではない上に、選択肢も生理用ナプキンほどありませんが、購入する[※3] ことは可能です。日中用から夜用、軽い日(出血量の少なめなとき)から多い日(出血量の多めなとき)用まで、用途に合わせて選択することができます。
私自身、日本でタンポンを購入して使用したことはありますが、出血量が多い時やプールや海などに行くときに限ってタンポンを使うのだと思い込んでいたせいか、売り場の棚の下の方に置かれているタンポンではなく、主に生理用ナプキンを使っていました。そのため、アメリカで初めてドラッグストアの生理用品コーナーに行った時に、あまりのタンポンの種類の多さに、そして日本ではメインで売られている生理用ナプキンの少なさに驚愕したことを覚えています。
●生理用品にかかる費用の日米の差
最後に、福島県相馬市[※4] によると、女性特有の生理用品などにかかる費用は1カ月で約500~1,200円、生涯で40万円ほどといいます。もちろん、出血量や生理の期間により個人差はあるものの、女性が毎月必ず必要となる生理用品への出費は、大きいものです。
Plush Careによると、アメリカ[※5] では生理用品を購入する州はもちろん、使用頻度や製品の種類によって異なるものの、生理用品に対する平均的な出費は月に約8ドルから15ドルほどです。New York Post[※6] によると、インフレによる影響で過去5年間でタンポンの価格は約36% 上昇しており、米国では月経のある女性1,690万人が貧困状態にあり、そのうち3分の2の女性がナプキンやタンポンなどの月経用品を購入する金銭的な余裕がない状態にあるという報告も[※7] あると言います。
アメリカでは州ごとに生理用品に対する消費税の取り扱いが異なってはいるものの、2025年5月時点で、カリフォルニア州、ニューヨーク州、マサチーセッツ州、フロリダ州、テキサス州、ミネソタ州など、24の州で消費税免除の対象となっており、購入時に税金が課されることはありません(ただし、州内でも郡や市によっては独自の税制が適用される場合があるとのこと)。
生理用品は必需品であるとみなされるべきだという認識、「生理の貧困(period poverty)」の問題が社会的に認知され、免税がその一つの解決策とされていること、多くの必需品(食料品、医薬品など)は税金が免除されている一方で生理用品は歴史的に課税対象とされていたことに対するジェンダー平等の観点からの見直しといった社会的・倫理的な視点に加えて、全米で「タンポン税撤廃運動」が活発化したことが、多くの州における生理用品を必需品として認定し、免税措置の導入を後押ししたといいます。
残念ながら、日本では、まだナプキンやタンポンなどの生理用品に対して、10%の消費税が課されています。2019年10月に軽減税率制度が導入されたものの、生理用品は対象外とされたからです。日本でも、経済的な理由で生理用品の購入を控える人々が存在し、これが健康や生活の質に影響を与えていると指摘され、「生理の貧困」が注目されています。しかしながら、現時点では法改正には至っておらず、引き続き課税対象となっているのです。
もちろん、免税することだけで生理の貧困が解決されるわけではありませんが、生理用品は贅沢品ではなく必需品であることは間違いありません。日本でも、生理用品を必要とする人にとって、より快適に過ごせる、自分に合った生理用品が手に入りやすい環境が1日でも早く整うことを願っています。
【参照URL】
[※1]https://www.unicharm.co.jp/ja/company/news/2025/0312-02.html
[※3]https://www.d-unicharm.jp/item/100863.html
[※5]https://plushcare.com/blog/cost-of-your-period/