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Vol.25150 医療事故調査制度の目的

医療ガバナンス学会 (2025年8月8日 08:00)


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一般社団法人医療法務研究協会理事長
一般社団法人鹿児島県医療法人協会会長
小田原良治

2025年8月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2015年(平成27年)3月20日、「医療事故調査制度の施行に係る検討会」報告書が出された。これに基づき、同年5月8日には省令、通知が出され、同25日には厚労省Q&Aが出されて医療事故調査制度が創設された。同制度は、同年10月1日から施行された。

医療事故調査制度の目的について、厚労省Q&Aは、A1で、制度の目的は、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」であると述べている。さらにA1〈参考〉として、以下のように記載している。「医療に関する有害事象の報告システムについてのWHOドラフトガイドラインでは、報告システムは、『学習を目的としたシステム』と、『説明責任を目的としたシステム』に大別されるとされており、ほとんどのシステムでは、どちらか一方に焦点を当てていると述べています。

その上で、学習を目的とした報告システムでは、懲罰を伴わないこと(非懲罰性)、患者、報告者、施設が特定されないこと(秘匿性)、報告システムが報告者や医療機関を処罰する権力を有するいずれの官庁からも独立していること(独立性)などが必要とされています。今般の我が国の医療事故調査制度は、同ドラフトガイドライン上の『学習を目的としたシステム』にあたります。

したがって、責任追及を目的とするものではなく、医療者が特定されないようにする方向であり、第三者機関の調査結果を警察や行政に届けるものではないことから、WHOドラフトガイドラインでいうところの非懲罰性、秘匿性、独立性といった考え方に整合的なものとなっています。」

医療事故調査制度は、厚労省Q&Aが明記しているように、医療安全の制度であり、再発防止が目的である。事故調査が目的ではないが、事故調査手法として院内調査とセンター調査が想定されており、院内調査は、医療事故の原因を明らかにするために、情報の収集及び整理を行う(医療法施行規則第1条の10の4第1項)とされている。また、病院等の管理者は、院内調査の結果を医療事故調査・支援センター(センター)に報告するにあたっては、当該医療事故に係る医療従事者等の識別ができないように加工した報告書を提出しなければならない(医療法施行規則第1条の10の4第2項)とされており、事故調査が責任追及となることに歯止めをかけている。

センター調査は、病院等の管理者からセンターへの事故発生報告が為されたことが前提であり、院内調査の検証が中心である(医療法第6条の17、及び通知)。調査の結果、必ずしも原因が明らかになるとは限らない。また、原因分析は客観的な事実から構造的な原因を分析するものであり、個人の責任追及を行うものではない(医療法第6条の17、及び通知)。ここでも、慎重に、「原因分析」という言葉を使い、「原因究明」の名の下に責任追及に傾くことを戒めているのである。

医療事故調査等支援団体(支援団体)は、病院等から支援を求められたときに、①医療事故の判断に関する相談、②調査手法に関する相談・助言、③院内事故調査の進め方に関する支援、④解剖、死亡時画像診断に関する支援、⑤院内医療事故調査に必要な専門家の派遣、⑥報告書作成に関する相談・助言などの支援を行うこととされており(医療法第6条の11及び9月28日Q&A)、あくまでも支援にとどまる。

地方医療事故調査等支援団体等連絡協議会(連絡協議会)も、あくまでも支援を迅速に行うための組織であり、管理者の医療事故該当性についての判断や院内調査等に干渉するものではない。連絡協議会は、「医療事故に該当するか否かの判断や医療事故調査等を行う場合に参考とすることができる標準的な取扱い」があれば意見の交換を行うのであり(平成28年6月24日医政総発0624第1号)、連絡協議会が、標準化を行うのではない。この点、誤解があるようなので、特に強調しておきたい。

事故調査を行うこと、センター報告を行うことは、再発防止という目的のための手段に過ぎない。再発防止が目的であるからこそ、状況を把握できる医療現場が重要であり、医療現場中心の制度となっているのである。支援団体や支援センターは、人的、物的リソースを提供し、医療現場を補助し、あるいは助言を行う存在でなければならない。

「医療事故の再発防止」という目的を考えれば、まず、管理者は、自院で発生した死亡事例を把握することが重要となってくる。このことが強調されたのが、2016年(平成28年)の医療事故調査制度の見直しである。

2016年6月24日、医療法施行規則の一部を改正する省令が出され、併せて厚労省医政局総務課長通知が出された。
省令改正の医政局長通知(医政発0624第3号)の第一として、「病院等の管理者が行う医療事故の報告関係」として、「病院等の管理者は、法第6条の10第1項の規定による報告を適切に行うため、当該病院等における死亡及び死産の確実な把握のための体制を確保するものとすること」との記載があり、同日付け総務課長通知(医政総発0624第1号)の「第三病院等の管理者について」の第1項で、「改正省令による改正後の医療法施行規則第1条の10の2に規定する当該病院等における死亡及び死産の確実な把握のための体制とは、当該病院等における死亡及び死産事例が発生したことが病院等の管理者に遺漏なく速やかに報告される体制をいうこと」と記載されている。

日本医療法人協会は、病院等における死亡及び死産事例の発生が管理者に遺漏なく速やかに報告されるためには、医療現場への負担が軽く、かつ管理者が死亡事例を確実に把握できる方法が必要であると考え、「死亡全例チェックシート」の作成を提案し、その記載例まで提示している。

「死亡全例チェックシート」を整備することにより、報告すべき『医療事故』の「医療起因性要件」及び「予期要件」の把握が容易となり、また医療現場や医療安全委員会との意思疎通も図られ、センターへの「報告該当性」の判断が行いやすくなると考えている。また、当院では、この「死亡全例チェックシート」の項目に、「医師法第21条該当性」の項目も追加している。医師法第21条に関する院内の共通理解が不可欠ではあるが、「医師法第21条該当性」を追加することにより、より有用なチェックシート」となるであろう。

「脳外科医 竹田くん」という4コマ漫画がネット上で話題となった。この4コマ漫画は、リピーター医師という問題と情報漏えいという問題を投げかけている。もし、当該病院に「死亡全例チェックシート」が導入されており、死亡事例が管理者に遺漏なく速やかに報告され、適切な対応が取られていれば、再発が防止され、リピーター医師問題も情報漏えい問題も発生しなかったのではないだろうか。

医療事故調査制度の目的は、「医療の安全を確保するために、医療事故の再発防止を行うこと」である。この目的達成のために、死亡及び死産事例の発生が管理者に遺漏なく速やかに報告される体制の整備が管理者の責務とされた。管理者は、この責務を果たすために、速やかに「死亡全例チェックシート」の採用を行うべきである。さらに、管理者は、従業者に対し、「死亡全例チェックシート」の記入を速やかに行い、死亡事例全例を管理者に報告しなければならないということを院内に周知すべきであろう。これは病院等のガバナンスの強化につながる重要な課題である。

参考資料
小田原良治、井上清成、山崎祥光:新版医療事故調査制度運用ガイドライン、幻冬舎、2021年3月17日
小田原良治:リピーター医師対策は「医療事故調査制度」に盛り込まれている、MRIC 25138号、2025年7月25日

 

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