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Vol.127 原発周辺で闘う全労働者に、厳重な「産業保健」の適応を!

医療ガバナンス学会 (2011年4月16日 14:00)


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長尾クリニック(尼崎市) 院長
産業医・労働衛生コンサルタント
長尾和宏
2011年4月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


多くの作業員が福島原発の処理や原発周囲の作業にあたっておられます。レベル7の中心地での過酷な労働の一部がすでに報道されています。私は彼らの健康管 理が心配でなりません。医者の放射線被曝は「フイルムバッチ」という胸に着ける小さな物で測ります。勤務医の時、私はバッチを貰いましたが着けていません でした。着けるとすぐに許容量をオーバーして仕事が出来なくなるからです。

私は、産業医であり労働衛生コンサルタントでもあります。普段の診療以外にいくつかの企業の「産業保健」業務に携わっています。安全衛生法に定められた方法に従い労働者の健康を守ることが、産業医としての任務です。

産業医の任務は、以下の3つです。(3管理と言います)
1 健康管理(健康診断や事後処置)
2 作業管理(無理な作業をしていないかのチェック)
3 作業環境管理(作業環境が劣悪でないかのチェック)

雇用主は、労働者の健康を守る義務があります。守らないとお役所(労働基準監督所)に罰せられます。どこの企業も、この規則をちゃんと守っています。労働者の健康保護に関しては、法律遵守が義務です。国際的にもそれが定められています。

さて、産業医の立場に立つと現地労働者の3管理ができているかとても心配です。防護服、安全靴、マスクなどの国家規格検定の合格証のある保護具を着用し、放射線被曝をちゃんと防護出来ているのでしょうか?もし防護できていなければ、ちゃんと医療が受けられるのでしょうか?

原発で働いているのは、東電関係の職員だけではありません。駆り出された現地の若者、全国からの応援部隊、様々な企業の関係者も一緒に働いています。彼らは「放射線」という見えない敵と闘いながら難作業を継続しています。

さらに闘っているのは、原発作業員だけではありません。原発周囲では多くの自衛隊、警察、消防などが遺体収容などに従事しておられます。同じ日本人の仲間たちが、いま、危険地帯で闘ってくれているのです。

彼らは、全員、労働者です。労働者には、必ず雇用主がいて、産業医がいます。雇用主の責任で、3管理がちゃんとできているのでしょうか?正確に言うと、産 業医配置は従業員50人以上の事業所の義務です。50人以下の事業所は、「地域産保センター」に無料で管理を委託できます。ちなみに私は尼崎市の地域産保 センターの仕事にも従事しています。

これから後の放射線障害が心配です。10年、20年経過してから出る病気も危惧されます。野菜や魚の被曝が取り上げられていますが、一番危ないのは作業員 のはずです。もし、自分の身内が現地の作業員だったらどうでしょうか?心配で眠れないと思います。日本で最も危険地帯で闘う現地作業員に想いを寄せて、命 を守る時です。

産業医は、ちゃんと職場巡視をしているのでしょうか?
過重労働は、本当に無いでしょうか?
作業環境測定士は、ちゃんと環境測定をされているのでしょうか?

メンタルカウンセリングの体制は、あるのでしょうか?
特殊・有害業務に対する特殊検診は、実施されるのでしょうか?
希望すれば、いつでも健康チェックは、受けられるのでしょうか?

希望すれば、「造血幹細胞保存」を受けられるのでしょうか?
そもそも労働者は、それを受ける権利を有するのでしょうか?
その際の費用は、雇用主が負担してくれるのでしょうか?

ちなみに産業医も雇用主に雇われている労働者にすぎません。部外者である労働衛生コンサルタントの活用も一考するべきです。作業環境管理には管理区域とい うものが定めされていますが、もし「第3管理区分」であれば産業医は直ちに業務改善命令を出さなければなりません。もし産業医が充分に機能しないなら、労 働衛生コンサルタントの力を借りる余地もあると愚考します。もし私でよければ現地に入ります。今こそ、「管理された状態」での労働が確保されるべきです。

原発周辺で闘う労働者への、厳重な「産業保健」の適応を強く望みます。労働基準監督署には、厳重な監視をお願いいたします。もし監督署が被災されているな ら近隣市町村の監督署に強くお願いいたします。今回のような非常時こそ二重三重に労働者の健康を守るような臨機応変な対応をお願いします。そのための「産 業保健」、「産業医学」であると思います。最後に、産業保健の中枢である厚生労働省や産業医科大学の放射線被曝の専門家のご意見もお聞かせ下さるようお願 い申し上げます。

以上、産業保健にも身を置く一医師として、緊急提言させて頂きます。

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