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Vol.129 連載 生命を奪う規制 第1回 阻まれた医薬品の流通

医療ガバナンス学会 (2011年4月17日 14:00)


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立教大学大学院 法務研究科 法務専攻
五反田美彩(ごたんだ みあ)
日本大学法学部法律学科卒
小倉 彩(おぐら あや)
2011年4月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


● 初めに

今回の大震災に対する対応として、各省庁からは様々な通知がなされています。その通知は、従来の規制を緩和するもの・大震災に対応するために新たになさ れたものに大別されます。これらの通知は、特に医療に関するものは、人の生命をリアルタイムで左右するものであり、的確になされる必要がとても高いものば かりです。
しかし、実際になされた通知について検討してみると、これが国民の生命を救うどころか、混乱を生じさせる結果となり、悪循環を生じさせているものまであります。そこで、今回は行政による大震災後の規制に対する対応に視点をあて、これを検討していこうと思います。
連載第一回となる本稿では、従来から存在した規制を緩和したものとして、薬事法24条に関する厚生労働省による通知を取り上げます。

● 大震災直後の現場

大震災発生直後、被災地ではインフラが破壊され、病院・薬局は医薬品を普段、取引のある卸売業者から購入できませんでした。被災地の医療機関からは、 「薬がない方が、病院に殺到しておりその対応と降圧薬など慢性疾患の内服薬の不足があります。(宮城県の医師)」「共通の問題点は、(中略)薬品・診療材 料の不足(卸が停電で機能せず、また壊滅状態となったところもあり、供給の見通しが立たず)等々です。(宮城県の医師)」「本日沿岸支援にいった医師の話 では、抗生物質や湿布、鎮痛剤等の急性期~亜急性期に必要な薬剤は何とかある分で対応しきれるものの、日常で汎用される降圧剤、高脂血症薬、抗凝固剤等が 津波によって消失した方があまりに多く在庫はほぼ尽きています。(岩手県の医師)」などの声が上がりました。

この状態を打開するために、被災地では、大学病院などの基幹病院が他の病院の分の医薬品も購入し、これを分配するという方法を採用しました。しかし、こ の行為は薬事法24条に定める「授与の目的で貯蔵し」た場合にあたるため、薬事法違反でした。医療現場の人たちは、県職員等の行政担当者からは、良い顔を されないため、どうしても躊躇していました。被災地では、一時この方法を断念し、医薬品の入手が困難になるかもしれないという状態にまで追い込まれまし た。

● 機動力に欠ける厚生労働省の通知

今回、厚生労働省からなされた規制を緩和する通知は、病院・診療所間での融通については大震災発生から1週間後の3月18日、薬局・自治体同士での融通 に至っては3週間後である3月30日に行われています。医薬品は、人の生命に関わるものであり、最も優先して流通させるべきものであるはずです。前述した ように、現場で医療関係者が苦労していた状況を考えれば、今回の対応は余りにも遅すぎたのではないでしょうか。更に、医療関係間での規制緩和の通知と薬局 間の規制緩和の通知との間になぜこんなにも間が空いたのでしょうか。

そもそも、医療機関間・薬局間で薬の融通をすることで、どのような弊害が生まれるのでしょうか。薬事法は「医薬品、医薬部外品、化粧品及び医療機器の品 質、有効性及び安全性の確保のために必要な規制を行うとともに、指定薬物の規制に関する措置を講ずるほか、医療上特にその必要性が高い医薬品及び医療機器 の研究開発の促進のために必要な措置を講ずることにより、保健衛生の向上を図ることを目的」しています。医療・薬品のプロの方たちが、お互いに医薬品を交 換することで、医薬品の質が失われる危険はあるのでしょうか。

仮に、その必要性があるとしても、直近の大震災である阪神・淡路大震災から15年間の間に、有事の際には、本法律の適用がないとする旨の規定はできな かったのでしょうか。常に地震の脅威にさらされている日本で、有事に対する規定がなされていない法律には問題があるような気がします。

参照 厚生労働省HP
3月18日通知『東北地方太平洋沖地震における病院又は診療所の間での医薬品及び医療機器の融通について』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r98520000015drb.pdf

3月30日通知『東北地方太平洋沖地震における地方公共団体間又は薬局間の医薬品等の融通について』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000016u0v-img/2r98520000017cz0.pdf

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