最新記事一覧

Vol.130 連載 生命を奪う規制 第2回 届かない規制緩和の情報

医療ガバナンス学会 (2011年4月18日 06:00)


■ 関連タグ

立教大学大学院 法務研究科 法務専攻
五反田美彩(ごたんだ みあ)
日本大学法学部法律学科卒
小倉 彩(おぐら あや)
2011年4月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


● 初めに

連載第2回となる本稿では、前回に引き続き従来から存在した規制を緩和したものとして、厚生労働省による通知を取り上げます。当該通知の実効性や問題点を、現在被災地にいる方からの情報をもとに検討していきたいと思います。
本稿は現在、相馬市、南相馬市で救援活動中である福島県職員会津保健所(薬剤師)の尾形眞一さんの報告をもとに規制について検討していきます。

● 尾形さんの報告4月1日 相馬市内から

『国は3月11日付け事務連絡で都道府県に対し、「東北地方太平洋沖地震による被災者の公費負担医療の取り扱いについて」、「平成23年東北地方太平洋沖 地震による被災者に係る被保険者証等の提示について」という通知で説明し、都道府県も各関係機関や薬局に通知したということでした。しかし、その通知は医 療機関にも薬局にも届いていませんでした。少なくとも、ここ相馬市にはひとつも。なぜなら市内の大部分で17日までFAXもメールも使用不能だったので す。通知した側は、そのことにうすうす気づいてはいたのかもしれませんが、確認する方法もその当時はなかったことも事実です。』

『震災直後は、処方箋なしでも医薬品情報だけで調剤し、薬を出していました。保険証もない初めての患者に自己申告だけでとりあえず薬を渡していました。お 金がない患者には、一部負担金も足らずにそうしていました。逆に公費負担医療の対象者になっていた患者に確認ができないので一部負担金を求めてしまってい るケースもあることがわかりました。』

『医療機関での受診・窓口負担についての免除の条件の確認方法についても、国の説明がもっと必要です。
窓口に来た患者に「住宅は半壊ですか?」と聞いて、なにをもって半壊を説明するのでしょうか。原発からの距離の問題もです。半径30km圏内を患者がどう やって医療機関に説明するのでしょうか。決めた方に実際にやってもらいたいです。きっと住所や連絡先をカルテに記録すれば十分だと言うでしょう。それは、 平常な場合の話であって、避難所を転々とせざるをない被災者が連絡先や住所を持つのでしょうか。』
『(医療機関での受診・窓口負担についての免除の条件の確認が)できない場合、医療機関や薬局は回収できない負担金をかぶることになるのでしょうか。被災 した方を自分たちは避難せずに助けたために、多くの負債を抱える結果となり倒産の危機を迎えるなんてことは決してあってはならないと考えます。(中略)小 さな医療機関や薬局は耐えられないと思います。直ちに助けてあげないと医薬品等の購入支払いで倒産してしまいます』

● なぜこのような事態が起こったのか

尾形さんの報告によれば、(1)通知は医療機関・薬局に届いておらず、(2)一部負担金の支払猶予・10割支払い審査機関への請求が可能となるのはどの ような場合なのか制度運用が不明確であって(3)負担金を受け取ってしまった場合の対応が不明確だったことになります。なぜ、このような事態が生じたので しょうか。

この点、公費負担医療・保険診療の取扱いについて規制緩和した厚生労働省3月11日通知自体は、震災当日になされており、厚生労働省の対応としては、迅速であったといえます。
折角、迅速な対応をしたのにも関わらず、これが到達していないこと及び従来の手段でしか通知しなかったことはとても残念です。大震災で通信手段が途絶え ていることは、大震災発生当日に各報道機関で報道もされていました。なぜ、FAXだけで医療機関や薬局に届くと考えたのでしょうか。緊急事態に対する意識 の低さが浮き彫りとなったのではないでしょうか。
そもそも、このような基準を立てるということは、被災者である患者・医療関係者に過大な負担を課すものです。言い換えれば、制度の適用対象となる場合を 規制(限定)したともいえます。被災地外で、被災地での制度運用方法を考えることはとても大変ですが、被災者に負担を負わせる制度運用はナンセンスと言わ ざるを得ないと思います。被災地の患者さんに自ら申し出させ、被災地の医療機関に制度対象となる患者さんかどうかを確認させる、この制度が疲弊しきった被 災地に更に負担をかけるものであることは確かです。

参照 厚生労働省HP
3月11日通知『東北地方太平洋沖地震による被災者の公費負担医療の取扱いについて』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r985200000156kq.pdf

3月11日通知『東北地方太平洋沖地震による被災者に関わる被保険者証の提示について』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000014tr1-img/2r9852000001573g.pdf

3月23日通知『東北地方太平洋沖地震及び長野県北部の地震による被災者に係る一部負担金等の取扱いについて』

http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000015rt9-img/2r985200000163i5.pdf

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ