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Vol.25159 透析患者さんと一緒に考える“もしもの時” ― ACP(人生会議)の取り組み

医療ガバナンス学会 (2025年8月22日 08:00)


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ときわ会常磐病院
看護師 青木楓我

2025年8月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は臨床経験6年目の看護師だ。2019年より福島県いわき市にあるときわ会常磐病院で勤務している。常磐病院は泌尿器科、腎臓内科を中心とする病院で、透析患者の受け入れがいわき市の中で最も多いと言われている。私は入社した時から透析室へ配属され、多数の透析患者様と関わり現在に至る。

ある時、透析患者のAさんがトイレで倒れ心肺停止の状況で発見された。すぐに救命処置が施され一命を取り留めたが、この出来事を受けて他の患者から、「自分が同じ状況になった時は、絶対に挿管だけはされたくない」という声が聞かれた。自分の身に何かがあった時にどのようにしてほしいか考えている患者がいることを知り、意思決定支援の必要性を感じた。

意思決定支援については、2006年に富山県の市民病院で起きた呼吸器取り外し事件の報道をきっかけに、厚生労働省が「人生の最終段階の決定プロセスに関するガイドライン」を作成している。これまで改定を繰り返しながら、実践が進められてきた。また、今年6月の診療報酬改定では、「院内で適切な意思決定支援委員に関する方針を定め、意思決定に関して相談できる体制を整えること」が入院料の算定要件に追加された。

常磐病院でも意思決定支援委員会を立ち上げ、乳腺外科や泌尿器科のがん患者を中心に、本人家族の意向を確認していく「ACP」の取り組みが始まった。ACPとは、将来の治療やケアについて本人、家族、医療者が事前に話し合い、本人の意思を支援する取り組みのことだ。英語で「アドバンス・ケア・プランニング(Advance Care Planning)」と言い、頭文字を取ってACPと略される。従来のように終末期の医療について考えるだけではなく、これからの人生をより良く生きるための話し合いが重要となる。

冒頭の通り、常磐病院はいわき市の中でも透析患者の受け入れ数が最も多い。「もしも」の時を考えている透析患者は先の一人にとどまらず、他の患者も同じく様々な意見や思いを抱えていることだろう。透析患者は慢性疾患でありながら、合併症による心不全や感染症による急激な容態変化も考えられる。あらかじめ今後の事を話しておくACPは、患者や家族にとっても大切なことだと思い、今回、透析室内でも活動を始めた。

これまでの透析室意思決定支援委員会の取り組みについて以下、簡単に紹介したい。

まずは、透析室内での意思決定支援委員会の立ち上げである。透析室医師と管理者の協力の下、月に1回会議を行い、どのように進めていくべきか議論した。最初に透析室スタッフ全体への周知を行った。ACPとは何か、なぜ行うのか、どのように進めていくのか、勉強会を開催した。スタッフ全体がACPについて理解することで、患者や家族に対して、全員が同じ方向を向いて関わり、その思いや質問に同じように対応できるようにすることが目的である。

その後、院内で既に掲示されていたACPのポスターを透析センターでも掲示し、透析患者への周知を行った。ポスター掲示後、患者から「ACPって何?俺もできるの?自分だったらこうしてほしい」などの意見が寄せられた。私たちスタッフが思っている以上に、自分自身の今後について考えている人、これから考えたいと思っている人が多くいることがわかった。

次に実施したことは、外来透析患者400名に対する実施希望のアンケート調査である。実施希望患者が130名ほどおり、さらには患者家族からの希望もあった。アンケート調査を行ったことで、患者のACP需要が可視化された。130名の希望患者とその家族に対し、ACP用紙を配布した。ACP用紙は、「今後大切にしたいこと、治療の希望、不安なこと」などについて記載していただくようになっている。

現段階では、ACPの用紙を配布し回収するところまでである。今後は一人ひとりの気持ちも傾聴し、家族、医師、看護師など関わる人全員で共有していく考えだ。患者さんがより良い人生を過ごせるよう、活動を継続していきたいと思う。

 

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