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Vol.25163 科学予算の行方:トランプ政権VS米国議会

医療ガバナンス学会 (2025年8月28日 08:00)


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この原稿は中村祐輔の「これでいいのか日本の医療」(2025年8月5日配信)からの転載です。
https://yusukenakamura.hatenablog.com/entry/2025/08/05/223306

国立研究開発法人 医薬基盤・健康・栄養研究所
理事長 中村祐輔

2025年8月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

8月1日のNature誌のNews欄に「‘Congress has your back’: US senators tell scientists that want to protect NIH budget」と言うタイトルの記事が出ている。トランプ政権が科学技術予算の大幅なカット案を提案したが、上院の委員会は予算カットを阻止しようとしているという記事である。

トランプ政権案のNIH予算約40%減に対して、上院の委員会はそれを否決して、逆に約500億円の増を認めた。本来、予算を決めるのは議会の権限であるが、大統領令によってNIH予算の執行は止められている。したがって、2025年度の予算は使いきれずに残っている状況で、これまでに研究者に実際支給されている予算は2024年度の40%減となっている。NCI(国立がん研究所)も毎年10-25%の研究計画案が採択されて予算が執行されているが、2025年度は4%に過ぎないそうだ。米国の予算年度は10月1日から9月30日までなので、このままでは大幅な未執行予算が残ることになる。

以前にも触れたが、国の根幹にかかわるような分野については、政権が代わっても大きな変更はしないという不文律があったにもかかわらず、それを完全に無視してトランプ政権は大幅な科学予算削減案を提出している。医療・医学分野は米国の経済基盤を支える分野であるので、MAGA政策を進めるならばもっと予算を投入すべき分野であるはずなのだが、科学リテラシーが欠如しているとしか思えない。

上院の委員会は科学者を守ろうとしているが、上院を通過する、下院を通過する、大統領が承認する、とまだまだ道のりは遠いので、この先どうなるのかは不透明である。これまでトランプ政権は圧力をかけて反対する声を抑え込んできたが、この米国の明暗のカギを握る法案にどのような決着がつくのか注視したい。米国の議会の良識=民主主義の在り方が問われる。

日本の永田町や霞が関もリテラシーと言う観点では似たようなものだが、トランプ政権のように刀でばっさりやるわけではない。実態はなかなか見えにくいが、日本の大学や公的研究機関など毎年真綿で首を締めるような予算削減が続いている。我が身を振り返ると、そのうちに息ができなくなるほど首が締まって窒息死してしまうのではと不安になる。

「伸ばすところは伸ばす、可能性のないところは打ち切る」といったメリハリの利いた政策判断ができればいいのだが、今はみんなで苦しみを分かち合うシステムになっており、みんなが弱っていっているのが日本という国の現状だ。

 

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